この記事は2025年6月20日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「グローバルサウスにおける競争激化と日本の立ち位置の変化」を一部編集し、転載したものです。


グローバルサウスにおける競争激化と日本の立ち位置の変化
(画像=Viktor/stock.adobe.com)

(ジェトロ「海外進出日系企業実態調査」ほか)

グローバルサウス(GS)市場において日系企業と他国企業の競争が激化している。ジェトロが2024年8~9月に実施した「海外進出日系企業実態調査」で、その顕著な傾向が示された(図表)。本稿では、近年、海外進出に力を入れる中国企業による競争環境への影響を中心に取り上げたい。

中国企業は、政府による対外投資推進戦略「走出去」(Go Global)の下、00年代から海外進出を加速させている。13年の「一帯一路」構想や、15年の「中国製造2025」を通じた製造業の高度化と技術革新によって対外競争力が向上した。20年以降は「双循環」戦略の下、内需と外需の両立を目指している。

こうしたなか、不動産不況を端緒とする中国国内消費の停滞、米国による追加関税措置や輸出管理など対中通商政策の強硬化が、中国企業をGS市場への輸出や投資へ向かわせている。とりわけASEANでは、20~23年にかけて工場シフトが進むなど製造業分野における中国からの海外直接投資が年平均33.3%で伸びている。実際に前述の調査でも、日系企業がASEANにおける競争相手として「中国企業」を挙げる回答が最も多かった(21.4%)。

一方で、日系企業は苦戦を強いられながらも、GS市場で一定の成果を上げている。例えば、同調査によると、インドでは6割超の日系企業が「シェアが増加した」と回答し、南アフリカやメキシコ、ブラジルでも5割前後と、世界平均(39.3%)を上回っている。24年に「黒字」の営業利益を見込む日系企業の割合も南西アジア(70.4%)、中東(69.1%)、アフリカ(59.8%)で過去最高を記録した。

しかし、一部の業種では日本企業の競争優位に変化が見られる。タイでは、中国系EVメーカーの進出が相次ぎ、日本企業の自動車市場におけるシェアを脅かしている。ベトナムでは、現地生産を始める中国系企業による電気電子分野での大規模工場の設立・拡張や、地場企業との合弁によるEV生産の開始などが相次ぎ報告されている。メキシコでも、米中対立の激化以降、中国企業の新規投資が活発化し、自動車や金属加工、電子部品分野で存在感が高まっている。

日本企業がGS市場で競争を勝ち抜くためには、技術力や品質に加え、現地適応力やサプライチェーン強化、パートナーとの共創体制の構築が不可欠だ。競争優位な分野ではその強みを生かしつつ、さらに差別化を図るなどの新たな成長機会を模索する必要があろう。

グローバルサウスにおける競争激化と日本の立ち位置の変化
(画像=きんざいOnline)

日本貿易振興機構(ジェトロ) 調査部国際経済課/馬場 安里紗
週刊金融財政事情 2025年6月24日号