赤字事業の再生からスタートし、今や外食業界で飛躍的な成長を遂げる株式会社ガーデン。ラーメン・壱角家を中核に、M&Aと新規出店で事業を拡大し、コロナ禍を乗り越え上場を果たしました。

その成長の原動力は、「利益」と「従業員の幸福」を両輪で追求する独自の経営哲学にあります。国内での圧倒的なブランド力を武器に、世界のマクドナルドやスターバックスのような存在を目指す同社。代表が語る、過去・現在・未来のすべてをつなぐ「HAPPY」な世界の作り方に迫ります。

株式会社ガーデン
(画像=株式会社ガーデン)
川島 賢(かわしま さとし)――代表取締役社長
1971年東京都生まれ 高校卒業後、様々なアルバイトを経験する中で、カラオケボックスを居抜きで譲り受け2000年4月有限会社マック(当時)の代表取締役に就任し、店舗を拡大。その後外食産業へ参入し、東京チカラめし、神戸らんぷ亭を買収するなど M&A を中心に業容を拡大。2015年12月株式会社マックの持株会社として株式会社ガーデンを設立、代表取締役社長に就任。座右の銘は「心の在り方と行動」
「イマをHAPPYに!」を企業理念に、これまで12社以上の企業再生型M&Aを手がけ、利益体質を確立したラーメン、うどん、ステーキ、寿司などの飲食店を経営。主に横浜家系ラーメン『壱角家』と、本格讃岐創作うどん『山下本気うどん』の2ブランドを展開。
 将来的に日本の外食企業で時価総額No.1になるべく、2024年11月に東京証券取引所スタンダード市場へ上場。中期的に純利益30億円の達成・プライム市場への移行を目標に、日々お客様のHAPPYを追及している。

目次

  1. M&A成功のポイントは2つある
  2. コロナ禍にも動じなかったのには理由がある
  3. ブランド哲学は“利益” その先にある“HAPPY”
  4. 上場の目的は三つ 外食業界のイメージを刷新するナンバーワン企業へ
  5. 従業員のエンゲージメントを高める工夫
  6. 国内での圧倒的な存在感が海外展開を成功させるカギ
  7. 「ナンバーワンになる」という目的が進むべき道を照らす

M&A成功のポイントは2つある

── 創業の原点は事業再生だそうですね。

川島 はい。そもそも、起業するための自己資金も銀行の融資もない、まさにゼロからのスタートでした。最初の事業は、知人から相談された赤字のカラオケ店を0円で引き継いだことです。そこから飲食事業へ参入し、企業再生型のM&Aを主軸に成長してきました。

── ゼロからの成長過程で、大きな転機となった出来事は何でしたか?

川島 やはり2014年頃に「東京チカラめし」を買収したことですね。このM&Aによって、当社の知名度は大きく広がりました。世の中に「ガーデン」という会社を知っていただくきっかけになった、非常に重要なターニングポイントです。

── 12社以上のM&Aを手がけ、失敗は一つもないそうですが、再生対象を見極める際の判断軸、成功の秘訣は何でしょうか。

川島 基本は、リーズナブルな価格で買収することです。赤字の企業は他社が手を挙げにくいため、安く買収できる。これが全ての出発点です。

その上で、成功できるかを見極めるポイントは二つあります。

一つは、事前にBS(貸借対照表)を徹底的に分析し、事業に関係のない不動産や過剰な在庫など、売却できる資産があれば現金化できると判断すること。もう一つは、PL(損益計算書)の分析です。特に外食事業においては、対象店舗へ朝、昼、晩、深夜と時間を変えて何度も足を運び、営業状態を肌で感じます。

── 現場では、具体的にどのような点をご覧になっているのですか?

川島 見るのは非常にシンプルなことです。たとえば、営業時間より早く閉まっている、開店時間になっても開かない、店の前が汚い、スタッフに活気がない、といった基本的なことができていないケースがあります。これらは、経営の根幹に関わる問題が起きているサインです。

こうした「当たり前のことができていない」というシンプルな点こそが、我々にとっては改善の余地そのものです。ここを徹底的に修正するだけで、すぐに黒字化できるという確信が持てるのです。経験のない事業であっても、この原則は変わりません。

コロナ禍にも動じなかったのには理由がある

── コロナ禍という外食産業にとっての大きな危機は、どう乗り越えられたのでしょうか。

川島 実は、過去に連続出店で、借入金が膨らんだ結果、リーマンショック時に大変苦しい思いをしました。当時は黒字だったにもかかわらず、銀行が融資を引き上げていったのです。利益が出ていてもキャッシュがなければ会社は潰れるという現実を突きつけられ、「どんな時でも現預金がなければいけない」という教訓が骨身に染みました。

その経験から、常に財務体質の健全化を徹底してきました。ですから、コロナ禍が来ても当社はまったく動じませんでした。むしろ、リーマンショックの教訓があったからこそ、この危機を乗り越えられると確信していました。従業員に不安を与えることなく、営業に専念できたのです。

── むしろ、チャンスだったと。

川島 はい。コロナ禍は当社にとって追い風でした。リーマンショックの教訓から現預金を潤沢に保持していたのと、感染拡大防止協力金も給付されたので、資金的にはまだ余力がある状態でした。

当時、上場準備を進めていたのですが、そのタイミングで、コロナ禍で通常なら出ないような駅前の優良物件の空きが出てきており、その資金でそれらの物件を抑えることができました。危機的な状況を、飛躍的な成長と上場へのチャンスに、我々は変えることができました。

ブランド哲学は“利益” その先にある“HAPPY”

── 会社の根幹となる理念についてですが、ブランドを「利益率と利益額でしか見ていない」という言葉は非常に印象的です。

川島 きれい事だけでは、会社も従業員も、その家族も守れないという現実を、これまでの経験から学んできました。

当社のブランド哲学は非常に単純で、利益率と利益額でしかブランドを見ていません。もちろんブランドへの愛着は大切ですが、たとえば「壱角家」を中核事業にしているのは、何よりも利益が出るからです。

なぜなら、利益が出なければ、従業員やお客様、そして株主の皆様に還元できません。賞与も出せませんし、新しい店舗も出せません。逆に利益があれば、誰も犠牲にすることなく「全員でHAPPY」になれる。この好循環を創り出すことが、経営者の最大の責任だと考えています。これが当社の哲学です。

上場の目的は三つ 外食業界のイメージを刷新するナンバーワン企業へ

── その哲学のもと、上場を果たした今、何を目指していますか?

川島 目的は三つあり、いずれもシンプルです。一つ目は、将来的に時価総額で外食企業ナンバーワンになることです。そのために上場しました。

二つ目は、外食業界のイメージを刷新すること。外食は「きつい」「給料が安い」と思われがちですが、他の人気業種から「ガーデンに転職したい」と思ってもらえる会社を作りたい。そのために、給与や賞与を業界トップクラスの水準にし、さらに引き上げていきます。実際に給与水準を上げたことで、優秀な人材が集まり、サービスの質が向上し、それがさらなる利益を生むという好循環をすでに実感しています。

三つ目は、世界で通用する日本の外食ブランドを創り上げること。日本には素晴らしい食文化があるのに、マクドナルドやスターバックスのように世界中の誰もが知るブランドがありません。当社がその第1号になりたいのです。

従業員のエンゲージメントを高める工夫

── 従業員のエンゲージメントを高めるために、給与面以外ではどのような工夫をされていますか?

川島 当社の企業理念は「イマをHAPPYに!」です。「とにかく今をHAPPYでいよう。今がHAPPYでなければ、未来にワクワクしないよね」と、朝礼や会議の場で毎日伝え続けています。今が幸せなら、過去のどんな失敗も「あれがあったから今がある」と肯定できます。この考え方が全ての土台です。

理念は掲げるだけでは意味がないので、具体的な制度にも落とし込んでいます。子育て手当の充実や男性の育休取得推進はもちろん、「プレミアムワークデー」を導入しました。本社勤務者は「プレミアムフライデー」で早く帰れますが、現場は金曜日が書き入れ時。そこで、店舗スタッフは月に一度、好きな日に4時間勤務で帰れる制度を作りました。

当社は、「お客様を大切に」といった綺麗事を先に言うのではありません。まずは自分たちの生活を一番大事にしよう、幸せになろうと伝えています。従業員が満たされてこそ、心からの笑顔でお客様に接することができる。その結果として、顧客満足度は自然と向上すると信じています。

国内での圧倒的な存在感が海外展開を成功させるカギ

── 今後の海外展開についてのビジョンを聞かせてください。

川島 海外展開を成功させるカギは、まず国内で圧倒的な強さを誇ることだと考えています。そのために、渋谷や秋葉原といった、海外の方が必ず訪れるような場所に、誰もが目にする看板を掲げ、集中的に出店しています。

日本に来た海外の方が「なんだこの店は。なぜこんなにたくさん、すごい場所にあるんだ」と興味を持つことが第一歩です。あの派手な看板は、一種の広告塔。一等地の家賃は、広告宣伝費だと考えています。

── なるほど。国内でのブランディングが、そのまま海外へのマーケティングになっているのですね。

川島 その通りです。そして当社のことを調べると、上場しており、財務内容も健全で、利益率も非常に高いことがわかる。多くの日本企業が海外進出を焦るあまり、不利な条件を飲んでしまうケースを見てきました。

しかし我々は、国内で確固たる地位を築くことで、海外の有力企業の方から「こんなに強い会社と、我が国で提携したい」と思ってもらえる状況を作ります。言いなりになるのではなく、良い条件で現地のパートナーに展開してもらう。米国のマクドナルドが日本で事業展開する、あのポジションを我々が日本企業として作り上げたいのです。

「ナンバーワンになる」という目的が進むべき道を照らす

── その揺るぎない実行力の源泉はどこにあるのでしょうか。

川島 カラオケ事業を始めた時から、業界でナンバーワンになるという想いは常に持っていました。外食に業種が変わった今も、その目標は変わりません。「ナンバーワンになる」という明確な目的から逆算すると、やるべきことの計画や道のりが具体的に見えてきます。

ゴールを決めれば、そこまでの距離がわかり、1年後、3年後、5年後に何をすべきかというマイルストーンを置くことができる。あとはそれを一つずつクリアしていくだけです。

過去に「賞与を倍にする」と宣言し、2年で3倍にしました。最初は半信半疑だった社員も、本当に実現したことで会社への信頼が揺るぎないものになったと感じています。この成功体験が、次の高い目標へ挑戦する組織の力になっています。

約束したことを一つひとつ実行してきたからこそ、今がある。「目的」と「約束の実現」。特別なことは何もありません。この二つを、これからも愚直に続けていくだけです。

── そのような思考は、どのように培われたのですか?

川島 特定のメンターがいるわけではありません。従業員や他の経営者の方々、今日のような出会いも含め、自分の身の回りにいる方々、成功されている方々すべてがメンターです。

私が話している言葉は、そうした方々との会話や本、ネットで見聞きしたことを自分なりに実践し、自分の言葉として発信できるようになったに過ぎません。常に自分を空っぽにして新しい考え方を取り入れるからこそ、変化に対応し、成長し続けられるのだと思います。ですから、私がゼロから生み出した言葉など、一つもないのです。

氏名
川島 賢(かわしま さとし)
社名
株式会社ガーデン
役職
代表取締役社長

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