
オーダースーツSADA、麻布テーラーなど競合がひしめくオーダースーツ市場。その中で、2021年にコロナ禍での上場を果たし、快進撃を続けるのがグローバルスタイル株式会社だ。生地の卸問屋から業態転換し、今や売上高は110億円を超え、オーダースーツ業界ではNo.1。
なぜ同社だけが圧倒的に顧客から選ばれるのか。田城弘志代表取締役社長が語る、その強さの秘密と、M&Aも視野に入れた世界戦略──。
上場を目指した理由は経営承継 コロナ禍でも黒字を維持
—— 事業の変遷についてまずうかがいたいのですが、創業は1928年だとか。
グローバルスタイル株式会社 代表取締役社長・田城 弘志氏(以下、社名・氏名略) ええ。もともとオーダースーツの専門店ではなく、スーツの生地、つまり表地をアパレルメーカーなどに供給する卸問屋としてスタートしました。
その後、5代続く同族経営でしたが、私で6代目となり、マネジメント・バイアウト(MBO)を実施しました。会社の設立は1949年で、今期で76期目を迎えます。
現在の主力事業であるオーダースーツ専門店「GINZAグローバルスタイル」を中心とした事業を開始したのは2009年12月です。
ですから、この事業は16年目になりますね。ここから事業内容が大きく変わりました。そして、2021年8月24日に東京証券取引所のスタンダード市場に上場を果たしました。
── 上場を目指されたのにはどんな背景があるのでしょうか?
田城 経営承継の問題が大きく関わっています。 私が入る前は創業家の田丸家が5代にわたり経営していましたが、生地の卸事業だけでは事業展開が厳しくなっていました。私はもともと経営コンサルタントとして2007年頃から関わり、事業再生を手掛ける中で、5つの新規事業を立ち上げました。そのうち、唯一成功したのが、このグローバルスタイル事業だったのです。
2017年頃、本格的にIPOを目指すことを決断したのですが、当時の社長であった田丸二朗さんには後継ぎがおらず、ご親族の株主も高齢でした。そこで、同族経営で事業を引き継ぐのではなく、社会の公器であるパブリックな会社を目指すべきだとご理解いただき、経営体制を刷新しました。
ベンチャーキャピタルや金融機関にも株主として入ってもらい、私も個人としてかなりの株式を取得しました。2016年から2018年にかけて、上場に向けた資本構成の整理を進めた形ですね。
── その後、上場準備期間中にコロナ禍が直撃したことになりますね。影響は大きかったのではないでしょうか。
田城 おっしゃる通り、上場申請の直前である2020年にコロナ禍が始まり、多くの企業が上場を延期する中、弊社はパンデミックの最中に上場するという、小売業では珍しいケースとなりました。
たしかに、緊急事態宣言などで店舗が休業し、売上は創業以来初めて減少しました。2019年7月期までは毎年130%の成長を続けていましたが、2021年7月期には売上が83億円まで落ち込みました。
しかし、このような状況下でも、一度も赤字に転落することはありませんでした。上場申請期も営業利益で3億円を確保し、収益性を維持したことが評価され、上場承認に至ったと考えています。
証券取引所や主幹事証券には、過去5ヵ年の事業計画と実績が精査されます。コロナ禍という特殊要因はありましたが、それ以前の成長実績と、厳しい環境下でも利益を出す経営体質が信頼につながったのだと思います。

顧客単価は業界平均の3倍。圧倒的な強さの源泉
—— 同業他社が苦戦する中、なぜ貴社は好調を維持できるのでしょうか?
田城 現在、札幌から熊本まで全国に40店舗を展開しており、すべて直営店なのですが、弊社の強みは、大きく2つあります。
1つは、高品質なオーダースーツを適正価格で提供できる点です。特に、低価格帯の2万円台から、15万円以上するような高級品まで、幅広い価格帯の商品を扱っているのが特徴です。これにより、百貨店やラグジュアリーブランドでスーツを購入されていたような富裕層のお客様も多くいらっしゃいます。
結果として、お客様一人あたりの購入単価(客単価)が約7万円台から8万円台と、業界平均の2万円台に比べて3倍以上高い水準を維持できています。これが高い収益性の源泉です。
もう1つの強みは、世界トップクラスの縫製工場との強固なパートナーシップです。この連携があるからこそ、高品質かつ円滑な商品提供が実現できています。
今後の国内戦略としては、引き続き関東圏や関西圏の郊外への出店を強化していきます。9月には東京・吉祥寺にも新店をオープンする予定です。

新たな成長軸──インバウンド対応と海外展開
—— 新たな取り組みとして、インバウンド対応も始められたそうですね。
田城 はい。今年6月から、訪日外国人向けのサービスを本格的に開始しました。海外ではスーツの価格が日本の約3倍します。たとえばロンドンやミラノでは、既製品のスーツでさえ安くて6万円台、オーダーなら12万円以上はします。日本のオーダースーツは、品質を考えても圧倒的に価格競争力があるのです。
この価格差を活かし、訪日客向けに最短10日~14日でスーツを仕立て、店舗でお渡しするサービスを始めました。これは、弊社のパートナーである工場の高い生産能力と、グローバルな物流オペレーションがあるからこそ可能なサービスであり、他社が簡単に模倣できるものではありません。
—— 海外への展開も視野に入れているということでしょうか?
田城 はい。今後の成長戦略の柱として、海外企業とのM&Aを本格的に検討していきます。スーツが最も売れる場所は、ウォール街や東京のような、世界的な金融市場がある都市です。証券市場がある都市には、企業のホワイトカラーが集まり、スーツの需要が生まれるからです。
私たちのビジネスは、国内市場だけを見ていては成長に限界があります。世界のスーツ市場の動向は、日本と非常によく似ています。今後は、ニューヨークやシカゴといった米国の主要都市をはじめ、グローバルな視点で事業展開を描いていきたいと考えています。
株主優待やふるさと納税で仕立て券を提供 配当も継続の方針
—— 投資家である読者に伝えたいことは?
田城 弊社の顧客層は、金融や不動産業界にお勤めの方なども多く、読者の皆様と親和性が高いと感じています。私たちは、株主の皆様への還元も重視しており、株主優待と配当を安定的におこなっています。
株主優待としては、200株(2単元)からご用意があり、500株(5単元)以上を保有する株主様には、3万5,000円分のお仕立て券をお送りしています。また、ふるさと納税の返礼品としても、鳥取県や島根県の工場がある自治体を通じて、お仕立て券を提供しており、大変ご好評をいただいています。
配当については、安定配当を基本方針としており、今期は配当性向2割相当の33円を予定しています。私たちは、今後も収益を着実に積み上げ、事業成長と株主還元の両立を目指しますので、ご注目いただければと思います。

※ 2025年6月取材時点
- 氏名
- 田城弘志(たしろ・ひろし)
- 社名
- グローバルスタイル株式会社
- 役職
- 代表取締役社長