カンブリア宮殿,コメ兵
(画像=テレビ東京)

この記事は2025年8月14日に「テレ東BIZ」で公開された「中古品の常識を覆した“コメ兵革命”の舞台裏」を一部編集し、転載したものです。

目次

  1. これが中古?客の想像を超える異色のリユース店を続々展開
  2. “偽物”は見逃さない!「鑑定の砦」~こだわりの品質で信頼をつかむ
    1. 急成長の秘密1~圧倒的な鑑定力
    2. 急成長の秘密2~中古品を超える徹底品質主義
    3. 急成長の秘密3~モットーは、断らない買い取り。
  3. 客のひと言「この袋、恥ずかしい」~偏見と闘ってきた革命児
  4. 百貨店に買い取りセンター~外商顧客の「眠れるお宝」を発掘
  5. ~村上龍の編集後記~

これが中古?客の想像を超える異色のリユース店を続々展開

新名所が続々と誕生している東京・渋谷。全面ガラス張りの店「KOMEHYO 渋谷」もその1つ。店内は流行に敏感なアパレルショップのような雰囲気だ。

並んでいるバッグやアパレルなどは、どれも高級ブランドの商品。ただし、137万円ほどする「オメガ」の時計は約4割安い87万円。約20万円するフランスのハイブランド「エルメス」のデニムパンツは半額以下の8万円。売られているのはブランド物の中古品だ。

ブランド品のリユース市場の規模は年々拡大し、2023年には3,600億円を突破。2020年の1.4倍に拡大した(リユース経済新聞 調べ)。そんなブランド品リユース業界でトップシェアを誇るのがコメ兵だ。

▼「KOMEHYO 渋谷」店内は流行に敏感なアパレルショップのような雰囲気だ

カンブリア宮殿,コメ兵
(画像=テレビ東京)

ここには他のリユースショップではまずお目にかかれない商品も。映画「プラダを着た悪魔」で主演のアン・ハサウェイが着ていた「シャネル」のブレザー。「幻のジャケット」と呼ばれる希少なアイテムが120万円で売られていた。

注目店舗は東京・有楽町にも。2022年、百貨店「阪急メンズ東京」の一角にオープンし、熱心なファンを引き寄せているのがリユース・スニーカーだけを集めたコメ兵の専門ショップ「スニーカー マーケット BY KOMEHYO」だ。

リユースだけに全て1点物。それが1,000足以上そろっていて、定番の商品なら割安に買える。

▼コメ兵の専門ショップ「スニーカー マーケット BY KOMEHYO」定番商品なら割安に買える

カンブリア宮殿,コメ兵
(画像=テレビ東京)

中にはプレミア価格のお宝も。1985年製「ナイキ」の「エアジョーダン1」の初代モデルは20万円という値が付いていた。

男性客が品定めをしていたのは「ニューバランス」のアメリカ製モデル。レアなスニーカーが4万5,000円で売られていた。

2025年6月、大阪・心斎橋にオープンした「KOMEHYO 大阪心斎橋」では、高額商品を買いに来た外国人客が札束を積み上げていた。

コメ兵は今までとは違った新店舗を続々と出店。売り上げは、ほぼ右肩上がりで2024年度は過去最高の1,500億円を突破。店舗は海外を含め309店にまで拡大した(2025年6月末現在)。

名古屋市の大須商店街は400年の歴史を持ち、「日本一元気な商店街」とも言われている。この商店街に建つ7階建てのビルが「KOMEHYO 名古屋本店」。1947年に創業した。

1階はワンフロア丸ごと使った宝石と貴金属の売り場。2階にはブランド時計がこれでもかと並ぶ。5、6階はメンズファッション。どの階も高級デパートのような造りになっていて、他のリユースショップとは雰囲気が違う。

売り場に立つ店員もスーツを着込み、丁寧な言葉と物腰で接客にあたる。「展示がゆがんでいないか、鏡が曲がっていないか、汚れていないか。お客様の第一印象が良くあってほしいので、そこは気にします」と言うのは、コメ兵ホールディングス社長・石原卓児(52)だ。

「今はやはり買い取りの局面で競合するシーンがいっぱいあります。その中でコメ兵が気になる存在になる、選ばれる会社になることが大事だと思っています」(石原)

コメ兵の全ての店舗に買い取りを行う場所が用意されている。本店のフロアにやって来た客は、「エルメス」のバッグを1度も使わず売ることにしたと言う。

▼コメ兵の全ての店舗に買い取りを行う場所が用意されている

カンブリア宮殿,コメ兵
(画像=テレビ東京)

スタッフが提示した買い取り価格は30万円。「想像よりちょっと安い」と言う客が交渉すること数十分。粘りに粘って37万円にアップした。

“偽物”は見逃さない!「鑑定の砦」~こだわりの品質で信頼をつかむ

急成長の秘密1~圧倒的な鑑定力

買い取った商品が、そのまま店舗に並ぶことはない。愛知県内にある商品センター。買い取った商品は全てここに送られてくる。棚には大量のブランドバッグが。年間170万点を超える商品がここで鑑定される。

コメ兵には社内試験を突破した鑑定士が900人ほどいるが、その中でもベテランの目利きだけが商品センターに集められている。言わば「コメ兵・鑑定の砦」だ。

▼愛知県内にある商品センター、ベテランの目利きだけが商品センターに集められている

カンブリア宮殿,コメ兵
(画像=テレビ東京)

鑑定はまず店舗で買い取る時に1回。商品センターで最低でも2回鑑定する。最後に販売する店でもう1回。4重のチェックを行い、本物と判断した物だけを売り場に並べている。

商品センターに張り付いて3日目。ビニール製のバッグをチェックしていた鑑定士の1人、営業本部・長屋歩が「ダメな気がする」と言う。それは1990年代に展示会で限定販売されたという「エルメス」の希少なバッグ。店舗では本物と鑑定して買い取ったのだが、長屋には違和感があったと言う。

ジャッジを託されたのは鑑定士歴25年を超えるプロ中のプロ、営業本部・吉村隆。鑑定すること約2分。吉村は“偽物”と判断した。

「これはもう市場には流通しません。絶対、偽物は売らない」(吉村)

さらに鑑定の精度を上げる最新システムも導入している。“偽物”と判断された「シャネル」の財布のロゴをマイクロスコープで撮影すると、パソコンの画面には「AI解析中」という文字が現れた。データが多い人気9ブランドのバッグや財布はAIで鑑定できるようにしたのだ。AIの精度は99%、学習機会が増えればさらに精度は上がる。

「怪しいなと思う物は鑑定士が見て、AIを使って、最終的に鑑定士がもう1回見て判断します」(コーポレート本部・林幸史)

急成長の秘密2~中古品を超える徹底品質主義

商品センターでは新品同様に戻すクリーニングなども行う。ブランドの腕時計はここでオーバーホールまで行う。

▼ブランドの腕時計は商品センターでオーバーホールまで行う

カンブリア宮殿,コメ兵
(画像=テレビ東京)

「ルイ・ヴィトン」のバッグのチェックを始めたのは鑑定士歴15年の営業本部・田中力也。肉眼ではまったく分からないが、マイクロスコープで拡大してみると加工した形跡が。一度、修復した物だと見られる。

「加工していると、修理に出したときに受けつけてもらえないこともあります。このバッグは店頭には出さない」(田中)

ここまでやることで。コメ兵は客からの信頼を勝ち取ったのだ。

急成長の秘密3~モットーは、断らない買い取り。

コメ兵の買い取りブースに持ち込まれたのは、高級ブランド「グッチ」のバッグ。ところどころ擦り切れていて、あまり状態は良くない。だが、持ち込まれた物は極力、買い取っている。

コメ兵は中古ブランド品のオークションを行っている。競りにかかったのは「グッチ」の腕時計。競り落としたのは「大黒屋」だった。ここには全国のリサイクルショップのバイヤーが仕入れに来ている。

オークション会場には先ほどの「グッチ」のバッグのように状態の良くない商品もスタンバイしている。

▼オークション会場には状態の良くない商品もスタンバイしている

カンブリア宮殿,コメ兵
(画像=テレビ東京)

「コンディションが悪かったら値段を下げればいい。そういう物を好むお客様もいらっしゃいます。いろいろなお客様に合った物を選べるのが大きな魅力」(オークション参加業者)

石原はこれまでのリユース業界にはなかった手法で会社を成長させている。

「物を単純にリユースするだけでなく、安心して利用できる状態にして、(次の客に)つなげることをリレーユースと表現しています。そのビジネスを文化にしていきたい」(石原)

客のひと言「この袋、恥ずかしい」~偏見と闘ってきた革命児

カンブリア宮殿,コメ兵
(画像=テレビ東京)

「メルカリ」に代表される中古品を個人同士で取引する市場は急成長。リユース業界全体の4割を占めるまでになっている(リユース経済新聞 調べ)。

コメ兵は「楽天ラクマ」にその鑑定力が認められ提携。2024年の10月からフリマアプリで売り買いされるブランド品の鑑定を任されている。

▼コメ兵は「楽天ラクマ」で売り買いされるブランド品の鑑定を任されている

カンブリア宮殿,コメ兵
(画像=テレビ東京)

「楽天ラクマ」に出品された商品の鑑定を行うのは、目利き鑑定士が集う商品センターだ。

この日、鑑定したのは定価約50万円の「エルメス」のバッグ。こんな高価なブランド品もコメ兵の鑑定サービス導入後、頻繁に取引されるようになったという。

もし偽物だった場合、商品は出品者に返送され、ネット上の取引は無効になる。鑑定料は「楽天ラクマ」が負担。つまりユーザーは無料で安心が手に入る(「後から鑑定」は送料の一部有料)。

この鑑定の導入後、「楽天ラクマ」でブランド品を初めて買う人は5割も増えたという。

フリマアプリはコメ兵にとってライバルにも思えるが、石原は「リユース市場の競争に勝つことも大事ですが、まだまだ流通されない多くの物を流通させることのほうが、長い目で見ると重要だと思っています」と言う。

自分の会社だけでなく、リユース業界全体を大きくしようと動く石原には、偏見と戦ってきた過去がある。

コメ兵は1947年、石原の祖父が開いた5坪の古着屋「米兵商店」から始まった。石原は1972年、いずれコメ兵を継ぐ跡取り息子として生まれた。

会社が躍進したのは2代目の父・秀郎の代。高度経済成長の波に乗り、家電なども扱って事業を広げ、業績を伸ばした。だが、当時の中古品には「偽物が紛れているのでは」という偏見も多かった。

秀郎は1997年、がんを患い急逝。石原は大学を卒業後、家電量販店で働いていたが、呼び戻されて入社した。

2004年、コメ兵は東京に本格進出。翌年、石原は新宿店の店長を任された。「伊勢丹」の向かいという立地の良さもあり業績は順調。しかし、ある客のひと言にリユースビジネスの現状を思い知らされる。

「この後、『伊勢丹』に行くんだけど、この袋だと恥ずかしい。『コメ兵』と書いてない袋はないか?」と言われたのだ。

「『違う店に入りにくい』と言われたのは正直ショックで悔しかったです。それをなんとかひっくり返そうと、我々の努力でリユースやコメ兵のイメージを上げていきたいと強く思いました」(石原)

中古品でも安心して買ってもらえる店にしなければ。そんな思いもあって立ち上げたのが、あの商品センター。コメ兵のホームページでは「信頼の目利きがいる」とうたい鑑定力をアピール。一方で店舗自体もデパートのような造りに変え、イメージを一新。「恥ずかしい」と言われた紙袋もデザインをスタイリッシュに変更した。

石原の取り組みでコメ兵のイメージは大きく変わり、社長就任から12年、売り上げは4倍以上に膨らんだ。

百貨店に買い取りセンター~外商顧客の「眠れるお宝」を発掘

コメ兵の新戦略がスタートした。舞台は「松坂屋」名古屋店。そのフロアの一角に新しい買い取り店をオープンさせたのだ。

店名は「MEGRUS(めぐらす)」、コメ兵が「松坂屋」などを運営する「J・フロントリテイリング」とタッグを組み立ち上げた。

▼「J・フロントリテイリング」とタッグを組み立ち上げた「MEGRUS(めぐらす)」

カンブリア宮殿,コメ兵
(画像=テレビ東京)

「普段から百貨店で上質な買い物を体験されている人が物を売る。コメ兵には直接来ないようなお客様も利用していただけると思っています」(石原)

早速、商品を持ち込んできた客がいた。子供の頃から「松坂屋」に通っているという60代の女性だ。

持ち込んだ商品は、「シャネル」がお得意だけに贈ったという非売品のコインケース。

▼「シャネル」がお得意だけに贈ったという非売品のコインケース

コメ兵ホールディングス-10.jpg
(画像=テレビ東京)

さらにイタリアの高級ブランド「ヴァレンティノ」のワンピースも。どちらもコメ兵にはなかなか持ち込まれることの少ない商品だ。

「デパートの中にあるのがすごくいい。信用しています」(女性客)

今後は大丸など、Jフロントの商業施設に2025年のうちに7店舗を出店するつもりだという。

「売っていただいたお客様が、私たちの商業施設で別の物を買っていただくことも期待できる。既存のビジネスにもプラスの影響があると思っています」(「J・フロントリテイリング」小野圭一社長)

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~

カンブリア宮殿,コメ兵
(画像=テレビ東京)

客から商品を買う。その場で真贋を含めてチェックする。商品センターで状態を確かめる。バッグはクリーニング、時計だったら電池交換、提携先の業者に送る。戻ってきたらもう一度状態を確認。問題なしだったら、各店舗に並べる前に、スタッフがチェックする。

商品センターのハブは愛知県にあり、約200名が働いている。なぜ商品にこだわるのか。幼いころ、友だちに言われた。「中古品は壊れやすいだろう」「偽物もあるのか」その言葉が原体験となっている。店内は、百貨店の売り場よりも豪華だ。豪華さが信頼につながる。

<出演者略歴>
石原卓児(いしはら・たくじ
1972年、愛知県生まれ。1996年、英国暁星国際大学卒業後、ヨドバシカメラ入社。1998年、コメ兵入社。2013年、社長就任。2020年、ホールディングス体制に移行しコメ兵HD社長を兼務。