本記事は、岡田 祐子氏の著書『ポイントサービス3.0 エンゲージメント時代のポイント戦略』(中央経済社)の中から一部を抜粋・編集しています。

「BtoBポイント」革命
~企業間取引の新たなパラダイム
企業間取引の世界で、静かに革命が進行しています。長年、「値引き」や「リベート」「キックバック」が主流だった業界に、新たな潮流が生まれつつあります。その主役はポイントサービスです。これまで個人向け(BtoC)の専売特許だと考えられていたポイントサービスを、企業間取引(BtoB)の領域にも取り入れようとする動きは以前からありましたが、その流れはますます加速しつつあります。では、なぜ企業は、「BtoBポイント」に注目し始めているのでしょうか? その理由と事例について深掘りしていきます。
BtoBポイントサービスが波及する背景
(1)無駄なキャッシュアウトの抑制とリピートの喚起
BtoBポイントサービスが興隆している最大の要因は、企業間取引における販促施策として一般的であるリベートや、直接的な値引きキャンペーンなど、キャッシュベースでの流出がもたらすマイナス要因を払拭し、なおかつ、継続的なリピートにつなげることが可能な、効果的なインセンティブプログラムであるということにあります。
ある企業が取引先に対して、年間取引金額などに応じてリベートを設定したり、閑散期に値引きキャンペーンなどを展開して販売した場合、単純にその負荷は、100%のキャッシュ流出として計上されます。しかも、値引き販売して恩恵を与えても、その取引先が次回、その企業を選択し、リピートしてくれる保証はどこにもないのです。
一方、取引金額に応じてポイントを付与し、そのポイントの使途・出口を次回の取引の値引きに設定するという、BtoCでは最も一般的、汎用的な設定でポイントサービスを展開すれば、ポイントを付与しても、ポイントが使われない、すなわちリピートされない限り、キャッシュアウトにならず、無駄な垂れ流しを防止できます。取引先が得たポイントは、必ず次回の取引にしか使えない仕組みであり、リピートを誘発しうまく循環すれば、中長期的な離反防止へとつながります。
(2)DX化の推進とデータ活用によるマーケティング展開
もう1つの要因としてあげられるのは、ビジネス全体のデジタル化です。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査報告書」(令和5年度)によると、日本のBtoB-EC(BtoBにおける電子商取引)の市場規模は、2019年から2023年にかけてのコロナ環境下で、DX化のトレンドもあり年々増加。2021年からは前年比で10%以上の伸びを見せ、352.9兆円から465.2兆円へと飛躍的に拡大しました。また、企業間取引全体に対するEC化率も31.7%から40.0%に上昇しており、BtoB取引におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展と、企業間取引の積極的なEC利用の傾向がみてとれます。
このようなデジタル化に伴い、取引データの収集と分析が容易になり、従来の「値引き」や「リベート」では把握しきれなかった取引の実態が、可視化されるようになりました。
一方で、大口契約かつ長期的な関係を前提とするBtoB取引において、toBECの拡大は、予期せぬ競争原理をもたらすことになります。というのも、これまで以上にインターネットを主戦場にした取引・価格競争が、国を越えて激しくなってきたからです。
従来であれば、年に数回ある展示会に出展し、カタログを配り、名刺を交換するなどして、見込み顧客や取引先を獲得していたところから、コロナ禍で展示会の開催が軒並み中止になり、商談や取引・決済まで、オンライン上で行われるようになってきます。そうなると、長年の取引関係からくる互いの信用だけで取引を維持するのが困難になってくるところも出はじめます。そこで、関係性を強化する戦略の導入、すなわちポイントサービスのような体系的な接点維持のプログラムが必要になってきたといえます。
さらに、ビッグデータ・AIの時代において、顧客データの収集と活用はあらゆる業界で重要性を増してきており、BtoB取引も例外ではありません。ポイントサービスは、単なる値引きやリベートの代替えとしてだけではなく、顧客の行動を定量的に把握し、収集・分析するための強力なツールとしての側面があります。どの商品を、いつ、どれだけ購入したか、どのようなサービスを利用したか、ポイントをどのように使ったかなど、詳細な顧客行動データを収集することができます。
また、FAXや電話での注文ではなく、ECで注文した場合に限りポイントを付与するなど、企業にとって望ましい行動に対してポイントを与えることで、営業や事務処理などの効率を飛躍的に向上させることができることになります。

ポイントサービスコンサルタント。
慶應義塾大学卒業後、大日本印刷入社。社内ベンチャー制度にて2003年、国内唯一のポイントサービスおよび会員組織構築・運用支援の専門コンサルティング会社株式会社エムズコミュニケイトを設立。大手企業、自治体のポイントサービスやCRM・顧客戦略に関するコンサルティングのほか、セミナーや講演、執筆活動を行う。著書『成功するポイントサービス』(2010年 WAVE出版)、一般社団法人日本カスタマーエンゲージメント協会理事、総務省ポイントサービスアドバイザー、三鷹市地域ポイントの検討委員ほか。テレビ東京「ガイアの夜明け」ほか出演。
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