本記事は、岡田 祐子氏の著書『ポイントサービス3.0 エンゲージメント時代のポイント戦略』(中央経済社)の中から一部を抜粋・編集しています。

テクノロジー
(画像=Sergey Nivens / stock.adobe.com)

「ポイントサービス3.0」の現在形と未来像

日本人にとって、ポイントは切っても切り離せないものであり、単なる「おトク」だけのポイントから続々進化し続けている実態は、今まで見てきたとおりです。また、ポイントを媒介として新しい社会体験を得る場も、どんどん誕生しています。人口減少の日本において、各地域それぞれの事情で人間関係が希薄になりつつある中、社会と各個人とのエンゲージメント醸成が、ますます重要になってきていることは、間違いないでしょう。

このような状況の中で、企業においても、社会においても、ポイントサービスの新しい時代の潮流は、すでに始まりつつあるのです。「ポイントサービス3.0」の世界とは、具体的にはどのようなものなのか。「創り出したい価値を創り、守りたい価値を守る、ロイヤルティからエンゲージメントへ」移りゆくポイントサービスを、最終章の本章では最新の事例を交えて紹介していきたいと思います。

最新テクノロジーと融合する新たなポイントサービスの形

事例①:ブロックチェーンが拓く新たな顧客体験とポイントの未来
~共通ポイントPontaの挑戦

テクノロジーの進化もポイントサービスに新たな可能性をもたらしています。

ブロックチェーン技術は、その最たるテクノロジーです。共通ポイントPontaを運営する株式会社ロイヤリティ マーケティングは、1億人超のPonta会員に対し、ブロックチェーン技術を活用した新たなサービスの提供を目指しています。

具体的には、日本発のパブリックチェーンによるNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)のマーケットプレイスである「SBINFT Market」と提携して、NFTを売買するとPontaポイントが貯められ、使えるサービスを2024年に開始しました。また同年、独自のブロックチェーン「MUGEN Chain(ムゲンチェーン)」を新たに構築したことを発表しました。特定イベントやキャンペーンに連動した限定NFTを発行するなど、多様なサービスを展開することができるようになります。また、MUGEN Chainを活用して、Web3プラットフォーム「MUGEN Portal」の提供も開始しています。Ponta会員は誰でも、既存のアカウントを通じてシームレスにWeb3の世界を体験できるようになったのです。

『ポイントサービス3.0 エンゲージメント時代のポイント戦略』より引用
(画像=『ポイントサービス3.0 エンゲージメント時代のポイント戦略』より引用)

このような動きについて、同社は、「スマホキャッシュレス決済の普及により、共通ポイント業界内での競争が激化し、相対的に共通ポイントの価値が薄まっていくと感じています」と語り、「Pontaならではのユーザー体験を作っていきたいと思っています。Web3やNFTを用いた事業を展開すること自体が目的なのではなく、新しい顧客体験を提供し、ユーザーとの接点を強化していきたいと考えています」と説明しています。

事例②:移動を超えて、生活を彩る ~JR東日本が挑む新たな世界

JR東日本も、独自のブロックチェーンを使い、さまざまな企業や自治体等と連携し、「企業共創」プラットフォームによる各種サービスを展開させ始めています。また、中長期ビジネス成長戦略「Beyond the Border」の下、“Suica”を「移動のデバイス」から「生活のデバイス」に発展させ、心豊かな生活を創る基盤とし、「Suicaの当たり前を超える」ことを表明しています。具体的に、JR東日本が提案する「新しい楽しさ」として、以下のような事例を紹介しています。

  • Suicaの移動情報を利用し、観光地の思い出を現地でのデジタルアイテム取得により保存。さらに複数集めることで特典が獲得できる。
  • ブロックチェーン技術を使い、関心のある地域のデジタル住民票を獲得してもらい、デジタル住民になって地域と交流、応援へとつなげる。
  • Suicaの移動・購買情報を利用し、リアルな消費行動等とリンクしたゲーム内ミッションを体験させる。

※引用元:2024年12月10日同社ニュースリリース

最新テクノロジーを活用し、ポイントサービスは、今まさに新たなフェーズに突入しようとしているといえます。これらさまざまな革新的なサービスは、ポイントサービスの未来の形に大きな示唆を与えているといえましょう。

事例③:ゲームを通じた未来型インフラ管理~東京電力パワーグリッドの新プロジェクト

東京電力パワーグリッド株式会社が進める新たなプロジェクト「PicTrée (ピクトレ)~ぼくとわたしの電柱合戦~」。この参加型無料ゲームアプリは、シンガポール拠点のDigital Entertainment Asset(DEA)やGreenway Grid Global(GGG)と協力して生まれたものです。2024年に、群馬県前橋市から実証実験をスタートさせ、同年に東京23区の千代田区、中央区、港区にも拡大していきました。ゲームの内容は、各プレイヤーが電柱などの電力アセットを撮影し、チームで電線をつなげていくもので、チーム内の順位に応じてポイントやコインがゲットできるというものです。

しかし、「ピクトレ」はただのゲームではないのです。プレイヤーから投稿された膨大な写真データが、電力アセットの設備点検に活用されているのです。

たとえば、電柱周辺の樹木が近接しすぎている場所や、カラスが営巣している箇所などがいち早く特定できるようになり、これまで点検員が見逃していた問題の早期発見が可能になります。この仕組みにより、地域の安全を支えるインフラ管理が充実し、かつ格段に効率化されることになったのです。

『ポイントサービス3.0 エンゲージメント時代のポイント戦略』より引用
(画像=『ポイントサービス3.0 エンゲージメント時代のポイント戦略』より引用)

ゲーム内で貯めたポイントやコインは、Amazonギフト券だけでなく、暗号資産DEAPcoin(DEP)にも交換できます。楽しさと実益と、さらに公共性が融合したサービスとして、大きな話題を呼んでいます。

このサービス開発の背景には、当然ながら、インフラ設備の点検や保守の人材不足という課題がありました。同社は、誰もが簡単に参加できる形で、地域住民と地域インフラをつなぎ、共に街を守る仕組みを作り出したのです。「電柱1本、マンホール1つが地域を支える」という認識を広め、住民と一体となったインフラ維持管理を推進させる新たなモデルといえるでしょう。同社は、今までの実証実験で得られたデータをもとに、さらに精度の高いサービスの構築と、全国展開を模索しています。参加型のインフラ点検の仕組みは、企業の経済合理性の追求という側面だけでなく、「住民一人ひとりが地域の安全に直接関わることができる」という新しい価値観を生み出したとも評価でき、今後がより一層、期待されます。

※引用元:東京電力パワーグリッドプレスリリース

『ポイントサービス3.0 エンゲージメント時代のポイント戦略』より引用
岡田 祐子(おかだ ゆうこ)
株式会社エムズコミュニケイト代表取締役。
ポイントサービスコンサルタント。
慶應義塾大学卒業後、大日本印刷入社。社内ベンチャー制度にて2003年、国内唯一のポイントサービスおよび会員組織構築・運用支援の専門コンサルティング会社株式会社エムズコミュニケイトを設立。大手企業、自治体のポイントサービスやCRM・顧客戦略に関するコンサルティングのほか、セミナーや講演、執筆活動を行う。著書『成功するポイントサービス』(2010年 WAVE出版)、一般社団法人日本カスタマーエンゲージメント協会理事、総務省ポイントサービスアドバイザー、三鷹市地域ポイントの検討委員ほか。テレビ東京「ガイアの夜明け」ほか出演。

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