この記事は2025年9月5日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:石破降ろしをめぐる攻防 次は高市氏か小泉氏か?」を一部編集し、転載したものです。

- 総裁選前倒しとなった場合、石破政権はどうなるとみていますか?
- 2万円給付案を修正して、所得制限を設けることについてはどうみていますか?
- ガソリン税の暫定税率の廃止についてはどのようにお考えですか?
- 代替財源についてはどうみていますか?
- 高市政権になれば積極財政に舵を切るのでしょうか?小泉政権の場合は?
以下は会田がコメンテーターとして出演している文化放送の「おはよう寺ちゃん」の内容の一部をまとめ、加筆・修正したものです。
総裁選前倒しとなった場合、石破政権はどうなるとみていますか?
問(寺島):自民党の麻生・最高顧問は麻生派の研修会で、「私は総裁選の前倒しを要求する書面に署名し、提出する」と述べ、臨時総裁選の実施を求めると明言しました。石破総理が2日に続投する意向を示したことを受け、事実上の退陣勧告となる総裁選の前倒し実施に賛同する動きが加速しています。総裁選前倒しとなった場合、石破政権はどうなると見ていますか?
答(会田):総裁選が前倒され、石破政権が退陣する可能性が高いと考えます。国民は首相を直接的には選べず、政権与党の党首が就任します。国政選挙で大敗した場合、政権が退陣することが、憲政の常道としての自浄作用です。世論調査で石破政権が退陣する必要がないとの声が大きいのは、国民の生活の苦境をすぐに救って欲しいという声の裏返しです。多くの野党が石破政権との連携を否定していますので、衆参両院で過半数の議席を持たない石破政権では、経済政策が前に進みません。石破政権の存続自体が、政治空白を生んでいます。選挙での減税の声に応えることがポピュリズムと批判されるのであれば、サンプルの限られた世論調査を背景に続投する方が、憲政の常道に反するポピュリズムであると言えます。
2万円給付案を修正して、所得制限を設けることについてはどうみていますか?
問(寺島):自民党が石破総理の進退をめぐる争いを続けているわけですが、一方、7月の参院選で争点となった物価高対策が宙に浮いています。そんな中、石破総理は、追加の経済対策策定を週内にも関係省庁に指示する検討に入りました。物価高対策をめぐっては、参院選大敗を踏まえ、自民、公明両党が公約に掲げた国民一律2万円給付案を修正して、所得制限を設ける方向で調整を進めています。政策課題の解決を優先する姿勢をアピールして、総理続投の環境を整える狙いがあるとみられます。自民・公明両党は、7月の参議院選挙で国民1人あたり2万円、子どもと住民税非課税世帯の大人には4万円の給付を公約に掲げました。これに所得制限を設けることについてはどうご覧になっていますか?
答(会田):選挙で、減税に対して、給付金の国民からの評価が著しく低かった理由を、「ばらまき批判」であると捻じ曲げた結果です。石破政権では、経済対策の補正予算を順調に国会で可決させることができませんから、追加経済対策の指示は時間の無駄で、国民の生活の苦境を救うことが遅れます。まずは、経済政策を前に進める体制をすぐに作り上げるため、石破政権は退陣すべきです。新たな政権を作り上げる過程で、国民の声を経済政策に反映させる動きが急務です。
ガソリン税の暫定税率の廃止についてはどのようにお考えですか?
問(寺島):一方、ガソリン税の暫定税率の廃止については、与野党協議の停滞で、11月1日からの実現に暗雲が立ちこめつつあります。代替財源をめぐって、野党側の主張の隔たりが埋まっていません。減収分を補うための財源案について、各党でばらつきが目立っています。自民党の宮沢・税制調査会長と立憲民主党の重徳(しげとく)政調会長が国会内で会談して、与野党6党による次回協議を明日に行うことで合意しました。暫定税率はガソリン1リットル当たり25.1円で、廃止すれば年およそ1兆円の税収減となります。与党は減収分を賄うための財源案を示すよう求めた上で、宮沢氏は「代替財源の基本は税だ」との考えを示し、恒久財源として増税の必要性を訴えています。ガソリン税を下げて、その減収分を補うために増税ですが、どうなのでしょうか?
答(会田):予算で決めることのできる裁量的な歳出や減税には、財源はいりません。実施することによって、景気やインフレが過熱しないかどうか判断基準となります。国民の貯蓄率は最低水準まで低下し、多くの国民がその日暮らしの苦しい状況に追い込まれています。一方、税収の急増と石破政権の無策によって、財政収支が黒字をうかがうところまで改善してしまっているのは異常です。政府から国民に、資金を戻すことが急務です。ガソリン税の暫定税率の廃止は、特に急務です。
代替財源についてはどうみていますか?
問(寺島):対する野党側は、税収の上振れや外国為替資金特別会計の剰余金の活用では合致していますが、恒久的な財源案では足並みがそろわず、与党側が具体策を示しにくい一因にもなっています。日本維新の会などは、代替財源として法人税を優遇する租税特別措置の見直しを主張して、共産党は金融所得課税の強化を提案しています。国民民主党は基礎的財政収支が黒字化するとして、「恒久財源は不要」との立場です。野党もバラバラなわけですが、代替財源についてはどうみていますか?
答(会田):企業貯蓄率と財政収支を合計したものが、ネットの資金需要で、企業と政府の合わせた支出する力となります。このネットの資金需要が、国民に所得が回る力であったり、経済規模を拡大する力になります。日本の財政システムは、無策だと、ネットの資金需要が消滅してしまう欠陥を抱えています。国民にしっかり所得を回すためには、GDP比5%、30兆円程度の支出や減税が恒常的に不足しています。そこまでであれば、インフレも高進しないこともわかっています。消費税を全廃することができるほどの財源が既にあります。裁量的な歳出や減税にまで財源を求めるという間違った財政運営で、国民の生活の苦境を救うことが遅れることは大きな問題です。
高市政権になれば積極財政に舵を切るのでしょうか?小泉政権の場合は?
問(寺島):自民党内では総裁選前倒しをめぐる攻防が繰り広げられているわけですが、総裁選が行われれば、高市氏と小泉氏がフロントランナーになるとみられます。去年の総裁選で石破総理に決選投票で敗れた高市・前経済安全保障担当大臣が支持を得て、日本初の女性総理となった場合、積極財政に舵を切ることになるのでしょうか?改革派とみなされることがある小泉農林水産大臣が、総理となった場合はどうでしょうか?
答(会田):政府の関与をできるだけ小さくしようとする新自由主義・緊縮財政から、社会・経済の課題解決に向けて政府と民間が連携して投資を拡大する新機軸・積極財政に、グローバルな転換が起こっています。このグローバルな潮流の変化に乗ることができるかどうかが、自民党の党勢が復調するのか、退潮を続けるのかを左右します。総裁選が党員投票を含むフルスペックとなった場合は高市氏が有利、両院議員総会による簡略方式となれば小泉氏の可能性も高まります。
高市氏は、経済安全保障、国土強靭化、食糧安全保障、防衛などに、政府が積極的な成長投資を行うことを主張しています。成長投資ですから、財源は国債です。民間投資を抑制してしまうリスクを大きくする日銀の金融引き締めには消極的です。日銀は一年間は金縛りになって動けなくなるかもしれません。景気は少々過熱している方が、民間投資を拡大させますので、高圧経済論者です。成長投資は供給能力も拡大しますので、インフレを抑制しながら、十分な経済成長を可能にします。供給能力の拡大が、震災や有事の際の余力となります。供給能力に見合う内需の拡大も必要ですから、減税も推進するでしょう。国民民主党や参政党などの保守的な野党も、高圧経済論を主張しています。高市総裁となれば、保守的な野党との連携が可能で、政権が安定する可能性があります。経済成長による明るい未来を描くことで若年層の支持を、国力を強化することで保守派の支持を取り戻し、グローバルな潮流の変化に乗り、自民党の党勢は復調するとみられます。マーケットでは、日銀の利上げの抑制で金利が安定し、高圧経済の期待によって株式市場は上昇していく「高市トレード」が予想されます。
小泉政権となれば、新自由主義・緊縮財政の頸木から脱することができず、石破首相と同じ失敗となるリスクがあります。震災や有事のために、政府は資金の余力を維持するべきだと、成長投資が抑制されることになります。改革政党とみなされている日本維新の会との連携を目指すなかで、財政支出の削減も遡上に登りそうです。低金利でゾンビ企業の生き残らせていることが問題だと、日銀の利上げに前向きで、日本をデフレに戻すリスクにもなります。危機の見通しから逆算するアプローチは、未来をより暗く映しだすため、若年層の支持は回復しないでしょう。緊縮財政では防衛費の増額も不十分となり、保守層の離反も加速し、自民党の退潮は続いていくことになると考えます。いずれは、自民党も中規模政党となり、5つほどの中規模政党が、時と場合によって連立する欧州型の不安定な政治状況に至るとみられます。マーケットでは、日銀の利上げの加速による金利のさらなる高騰と、政治不安による内需の回復見通しの減退によって、いずれ株式市場には下落圧力となると予想されます。
本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、本レポート中の記載内容、数値、図表等は、本レポート作成時点のものであり、事前の連絡なしに変更される場合があります。なお、本レポートに記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。