本記事は、中出 昌哉氏の著書『やりきる意思決定 生成AIという「人間を超える知性」を従える究極のビジネススキル』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

アナロジーで考える「道具箱」
アナロジーを使いながら課題を絞り込んでいくときの罠は大きく2つあります。
1つ目の罠が、「課題選択」の議論から「解決策」の議論へと話題がすり替わってしまうことです。
ここは課題の絞り込みフェーズであることを、改めて理解する必要があります。「課題を解決できそうか」「課題を解決したときにインパクトはありそうか」を考えるために、アナロジーを使っていることを忘れてはいけません。
また、もう1つの罠は、自社とは状況が大きく異なる企業の事例を、十分な検討もなく自社の課題解決に適用できると考えてしまうことです。アナロジー思考の難しさは、「違う状況での解決策が自社に使える!」と短絡的に考えがちな点です。
これは完全に間違いというわけではありませんが、よく吟味せずに何でも適用できるわけではありません。
「SNS投稿で業績回復した企業」の事例が、二代目社長が経営する、地方の郊外に位置し、主に中高年の主婦層をターゲットとする自社のスーパーマーケットに適用できるかどうかは、慎重に検討する必要があります。
地域の特性や顧客層を考慮すると、SNS施策はあまり効果的ではないかもしれません。
明らかにアナロジーをしても効果が出ない場合もありますが、より判断が難しいケースも多く存在します。
その場合、まずはペルソナを想定して一次スクリーニングをかけ(その顧客層が本当に同じような行動パターンを持つかを考える)、それでも判断が難しい場合は、顧客インタビューで実態を明らかにしていくアプローチが効果的になります。
アナロジーで考える「道具箱」を使ってみる
アナロジーで考える際には、3つの思考プロセスを辿ることになります。
① 今の課題を言語化する
② その言語化したものに類するアナロジー候補を探す
③ そのアナロジーが本当に自社の顧客のニーズと合致するのかを考える
①今の課題を言語化する
二代目社長のスーパーで、「人件費が課題で効率化できるのではないか」という仮説が正しそうか(まだ証明する段階ではなく仮説を絞り込む段階なので、これぐらいの表現が正しい気がします)を判断する際に、まずは言語化が鍵となります。
「人件費の効率化」という表現でも間違いではありませんが、次に示すような、さらに詳細な言語化が必要です。
- 「生成AI・DXによる人件費効率化はX%以上可能か」
- 「オペレーション時間の可視化によって、人件費削減はY%以上の削減が可能となりそうか」
「人件費の効率化」という表現では、あまりにも抽象的で具体的な想起が難しいですが、このように、「何を」「どのように」変えるのかまで踏み込んだ言語化をすることで、検証方法や必要なリソースが明確になります。
②その言語化したものに類するアナロジー候補を探す
言語化した課題に対して、参考になるアナロジー候補を探します。この際、「カテゴリー」という考え方が有効です。例えば、「人件費削減」というテーマで探すと膨大な事例が出てきますが、次のようなカテゴリーによって絞り込むと効率的です。
- 「国内」「小売り」「生成AI」「DX」「省人化」
これらを組み合わせたり、一部を変更したりして、適切なアナロジーを探していきます。例えば、
- 「国内」→「海外」に変更して国際的な事例を探す
- 「小売り」→「製造業」に変更して異業種の事例を探す
カテゴリーは複数あるほどよいですが、共通点が多いアナロジーほど参考になりやすいでしょう。
③そのアナロジーが本当に自社の顧客のニーズと合致するのかを考える
見つけたアナロジーが自社の状況に本当に適合するかを検証します。重要なのは、表面的な類似点だけでなく、背景や状況が本質的に近いかどうかです。
検証のポイントは、次の3ステップを思考プロセスとして辿ることです。
① そのアナロジーが成功した背景は何か
② 自社との状況の違いはどの程度か
③ その違いは、結果に大きく影響するか(クリティカルな差か)
この3ステップを経ることで、自社の課題解決に役立つアナロジーを効果的に活用できるようになります。

テックタッチでは、「AI Central」(AI技術を活用した新規事業開発を担う専門組織)の事業責任者としてAI戦略をリード。プロダクト戦略責任者(CPO)および財務責任者(CFO)も担う。また、一般社団法人日本CPO協会の理事も務める。
東京大学経済学部、マサチューセッツ工科大学(MIT)MBA卒。野村證券株式会社にて投資銀行業務に従事し、素材エネルギーセクターのM&A案件を多数手がける。その後、カーライル・グループにて投資業に従事。ヘルスケア企業のバリューアップや、グローバル最大手の検査機器提供会社への投資等を担当。テックタッチには2021年3月、CFOとして入社。
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