本記事は、小田 玄紀氏の著書『デジタル資産とWeb3』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

銀行を信用するか、テクノロジーを信用するか
中央集権的なビジネスのわかりやすい例のひとつが金融です。
私たちは金融資産の多くを銀行や証券会社といった金融機関に預けています。また、誰かの口座にお金を振り込んだり、株や投資信託を売買したりする場合には、その仲介を担う金融機関に手数料を支払います。銀行にお金を借りる際には利息を支払います。
お金に関する様々な手続きを行うには金融機関のお世話になることがほとんどで、Web2的にいえば、金融機関はお金のプラットフォーマーと呼ぶべき存在です。
金融サービスは私たちが円滑で安全な経済活動を行うために不可欠なものですが、Web3の登場によって従来とは異なる金融の仕組みが生まれようとしています。それがDeFiです。
DeFi(ディファイ:Decentralized Finance)とは、直訳すれば「非中央集権的な金融」ということです。ブロックチェーンをベースに、銀行やクレジットカード会社などを介さず、ユーザー同士が直接取引する金融サービスを指します。
ユーザー同士が直接取引するため各種手数料などが不要になる可能性があり、利用者に大きなメリットがあるといわれます。ただ、安全性(相手の身元確認など)をどう確保するのか、トラブルが発生した際の処理をどうするのかなど、社会に広く普及するにはまだまだハードルがあります。
現在の金融サービスが成り立っているのは、金融機関に対する信頼があるからです。誰もが知っている銀行が「小田から100万円預かっている」と間違いなく証明してくれる信頼があるので、お金を預けるのです。そんな金融サービスを提供するには途方もないコストや厳重な管理の仕組みが必要ですから、巨大な資本が中央集権的に行うのにはそれなりの理由があるといえます。
ところが資産のデジタル化がますます進み、Web3をベースにした経済活動が普及してくれば、デジタルな金融システムへの信頼が従来の金融機関と比肩するレベルになる可能性はあります。また、銀行がシステムの改修でトラブルを起こしたり、貸金庫からの盗難が起きたりといったことが相次ぐと、従来の金融機関への信頼が揺らいでしまうこともあるでしょう。
すでにDeFiサービスとして様々な試みが登場しており、代表的なのがDEX(Decentralized Exchange:分散型取引所)と呼ばれるものです。
一般的な暗号資産取引所は、管理者として運営会社が存在し、手数料体系や取引のルールを管理者が決めています。また、顧客保護のための法的な規制もあります。
DEXはこれに対し、ユーザー同士が暗号資産(仮想通貨)を直接取引できるため、管理者を介する必要がありません。
また、一般的な暗号資産取引所では、運営会社が決めた暗号資産(仮想通貨)しか取引できませんが、DEXでは誰でも好きな通貨を持ち込んで取引することができます。
与信が自動化されるデジタル資産の金融
DeFiのうち、レンディング(金銭貸借)向けの分散型取引所の代表例が2018年にスタートした「Compound」です。

暗号資産の貸出・借入の仲介プラットフォームで、貸し手は自分の暗号資産を預け、世界中から借り手を探します。借り手は借りた暗号資産を担保に法定通貨や他の暗号資産を調達するなどの形で利用し、貸し手には一定の対価(金利)を支払います。
通常のレンディングとの大きな違いは、いちいち借り手の審査を行わないことです。貸し手としては、一定の条件が満たされればプラットフォームに預けた暗号資産を貸したり、返却してもらったりする契約を、スマートコントラクトでブロックチェーンに記録しておけばよいからです。
その結果、相手方の信用力が確認できなくても、レンディングが可能になるのです。
「UNI(ユニスワップ)」も2018年にスタートしたDEXです。イーサリアムのブロックチェーン上で運用されており、自動的にマッチングを行いながら取引を成立させていくのが特徴です。金利が需要と供給のバランスでリアルタイムに調整され、ユーザーは自動的に最適な金利を受け取れます。
自動的なマッチングを可能にするための工夫として、自分が所有する暗号資産を提供する参加者には「UNIトークン」が発行されます。これにより、流動性が確保され、スピーディーな取引が可能となっているのです。
UNIトークンは、ブロックチェーンのプロトコル変更などサービス運用上のルールについての決定に参加するためにも利用されます。

1980年生まれ、東京大学法学部卒業。2016年3月、日本初の暗号資産交換業を営む株式会社ビットポイント(現 株式会社ビットポイントジャパン)を立ち上げ、同社代表取締役に就任。
2018年、紺綬褒章を受章。2019年、「世界経済フォーラム」よりYoung Global Leadersに選出。
2023年から、SBIホールディングスの常務執行役員、日本暗号資産等取引業協会代表理事を務める。