
親から実家などの不動産を相続したものの、複数の相続人でどう分ければ良いか頭を悩ませていませんか?
現金や預貯金と違い、不動産は物理的に分割するのが難しく、分け方をめぐって相続トラブルに発展してしまうケースは少なくありません。「誰がもらうのか」「どうやって公平に分けるのか」は、多くのご家庭にとって切実な問題です。
こうした悩みを解決する有効な方法の一つが、不動産を売却して現金で分ける「換価分割」です。
この記事では、換価分割の基本的な仕組みから、メリット・デメリット、具体的な手続きの流れ、そして失敗しないための注意点まで、分かりやすく解説します。
- 換価分割は不動産を売却し現金で公平に分ける遺産分割方法。
- 公平で全員が現金を得られるメリットがある。
- 不動産を手放す・費用や税金がかかるデメリットがある。
- 相続人全員の同意と遺産分割協議書が手続きの前提。
換価分割とは?他の遺産分割方法との違い
遺産分割には、大きく分けて3つの方法があります。それぞれの特徴を比較しながら、換価分割がどのような方法なのかを見ていきましょう。
換価分割の基本的な仕組み
換価分割とは、相続した不動産などの遺産を売却して現金に換え、その現金を相続人同士で分割する方法です。
例えば、3,000万円で実家が売れた場合、相続人3人で分けるなら1人1,000万円ずつ、というように1円単位で公平に分けられます。物理的に分けられない不動産を、誰の目にも明らかな「現金」という形で分配するため、最もトラブルになりにくい公平な方法と言えます。
他の遺産分割方法との比較
換価分割以外の方法についても理解しておくと、なぜ換価分割が選ばれるのかがより明確になります。
分割方法 | 概要 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
現物分割 | 遺産そのものを分ける(例:土地を分筆して相続) | ・不動産を残せる | ・公平に分けるのが難しい ・価値が下がることがある |
代償分割 | 一人が不動産を相続し、他の相続人に代償金(現金)を支払う | ・不動産を残せる ・一人が管理できる |
・不動産を相続する人に多額の自己資金が必要 |
換価分割 | 不動産を売却し、その現金を分割する | ・公平に分割できる ・全員が現金を得られる |
・不動産を手放すことになる ・売却に費用や税金がかかる |
・現物分割
「長男が家と土地、次男が預貯金」のように、遺産そのものを現物のまま分ける方法です。土地が広ければ、分筆してそれぞれが相続することも可能です。しかし、家屋などは物理的に分けられず、相続人ごとに取得する遺産の価値を完全に一致させることが難しく、不公平感が生まれやすいというデメリットがあります。
・代償分割
一人の相続人が不動産をすべて相続する代わりに、他の相続人に対してその人の相続分に見合った代償金を支払う方法です。例えば、長男が3,000万円の実家を相続する場合、他の兄弟2人に1,000万円ずつ支払うといった形です。実家を残せるというメリットは大きいですが、不動産を相続する人に十分な資力がなければ利用できません。
このように、現物分割や代償分割が難しい場合に、換価分割は最も合理的で公平な選択肢となるのです。
換価分割の4つのメリット
換価分割には、他の方法にはない大きなメリットがあります。
①公平に分割できる
最大のメリットは、その公平性です。売却代金を法定相続分や協議で決めた割合に応じて分けるため、「自分の取り分が少ない」といった不満が出にくく、円満な解決につながりやすいです。
②相続人全員が現金を得られる
不動産のままでは固定資産税の支払いや管理の手間がかかるだけですが、現金化することで、各相続人がまとまった資金を手にできます。相続税の納税資金に充てたり、リフォーム費用や生活費にしたりと、それぞれの事情に合わせて自由に活用できます。
③不要な不動産を整理できる
誰も住む予定のない実家や、遠方にあって管理が難しい土地などは、所有しているだけで負担になります。換価分割によってこうした不動産を整理できれば、固定資産税や維持管理のコスト、手間から解放されます。
④代償金の準備が不要
代償分割のように、特定の相続人が多額の自己資金を用意する必要がありません。相続人の誰もが金銭的な負担を強いられることなく、平等に遺産を受け取ることができます。
換価分割の4つのデメリット
一方で、換価分割には知っておくべきデメリットや注意点も存在します。
①不動産を失ってしまう
当然ですが、売却するため、思い出の詰まった実家や先祖代々の土地などを手放すことになります。相続人の中に一人でも「家を残したい」という強い想いを持つ方がいる場合は、慎重な話し合いが必要です。
②売却に費用と税金がかかる
不動産の売却には、不動産会社に支払う仲介手数料をはじめ、登記費用や契約書に貼る印紙税などの諸費用がかかります。 また、売却によって利益が出た場合は、譲渡所得税という税金が課されます。
③希望の価格・時期に売れるとは限らない
不動産の価格は市況によって変動します。期待していた価格で売れなかったり、買い手が見つからず売却までに時間がかかったりする可能性もゼロではありません。
④相続人全員の同意が必要
遺産分割は、相続人全員の合意のもとで進めるのが大原則です。換価分割についても、一人でも売却に反対する相続人がいると、手続きを進めることはできません。
換価分割の手続きと流れ
実際に換価分割を行う際の、一般的な手続きの流れを5つのステップで解説します。
STEP1:遺産分割協議
まず、相続人全員で話し合い、「この不動産は換価分割する」という合意を形成します。合意した内容は、後のトラブルを防ぐために必ず「遺産分割協議書」という書面にまとめ、全員が署名・捺印します。 協議書には、「不動産を売却すること」と「売却代金の分配割合」を明確に記載することが非常に重要です。
STEP2:相続登記
不動産を売るためには、その名義を亡くなった方から相続人へ変更する「相続登記」を行う必要があります。登記の方法には、代表相続人の単独名義にする方法と、相続人全員の共有名義にする方法があります。手続きをスムーズに進めるためには、売却活動の窓口となる代表者の単独名義にするのが一般的です。 ※2024年4月から相続登記が義務化
STEP3:不動産会社に売却を依頼
複数の不動産会社に査定を依頼し、売却活動を任せる会社を選びます。相続物件の売却は通常の売却と異なる点もあるため、相続案件の実績が豊富な会社を選ぶと安心です。
STEP4:不動産の売買契約・決済
購入希望者が見つかったら、価格などの条件を調整し、売買契約を締結します。その後、買主から売却代金全額を受け取る「決済」と、物件の「引き渡し」を同時に行います。
STEP5:諸費用を差し引き、現金を分割
売却代金から仲介手数料や登記費用などの諸経費をすべて差し引きます。そして、残った現金を、遺産分割協議書で定めた分配割合に基づいて各相続人に分配し、手続きは完了です。
換価分割で失敗しないための注意点
最後に、換価分割を円滑に進め、後悔しないための重要なポイントを3つご紹介します。
遺産分割協議書は必ず作成する
口約束だけでなく、法的に有効な遺産分割協議書を作成することが不可欠です。これがないと、売却代金を分配した際に、相続人間での「贈与」とみなされ、思わぬ贈与税がかかってしまうリスクがあります。
売却にかかる費用と税金をシミュレーションしておく
「思ったより手元にお金が残らなかった」という事態を避けるため、仲介手数料などの費用や、譲渡所得税がいくらかかるのかを事前にシミュレーションしておきましょう。特に税金については、一定の要件を満たせば利用できる「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」などの特例もあります。税理士などの専門家に相談するのが確実です。
相続人間のコミュニケーションを密にする
売却活動の進捗や査定価格、購入希望者の情報などをこまめに共有し、相続人全員が納得感を持って進められるように配慮することが、円満な相続の鍵となります。
まとめ
換価分割は、分けにくい不動産を「誰もが納得する形で公平に分割できる」という大きなメリットを持つ、非常に有効な遺産分割方法です。一方で、大切な資産を失うことや、売却には費用や税金がかかるという側面も持ち合わせています。
最も大切なのは、相続人全員がそれぞれのメリット・デメリットを正しく理解し、全員で話し合って納得の上で手続きを進めることです。
(提供:ACNコラム)