この記事は2026年2月20日に三菱UFJ信託銀行で公開された「不動産マーケットリサーチレポートvol.300『生成AI時代のデータセンター立地戦略 ~電力制約・GXと技術進化が変える立地の常識~』」を一部編集し、転載したものです。


生成AI時代のデータセンター立地戦略 ~電力制約・GXと技術進化が変える立地の常識~
(画像=Oleg/stock.adobe.com)

目次

  1. この記事の概要
  2. なぜデータセンターの立地に注目するのか
    1. 国の方針と市場のギャップ-なぜ地方に広がらないのか
  3. 変化した前提-それでも立地条件が変わる可能性
  4. 今後の立地をどう考えるか
    1. 役割に応じた立地分散
  5. DC集積地になりうる地域とは?
  6. さらに先にある未知の変化

この記事の概要

• 生成AIの普及により、データセンターは電力・通信に加え「脱炭素」を軸に立地戦略が問われる基盤インフラとなった
• 今後のデータセンターは、用途や機能に応じて、都市・郊外・地方に分散すると考えられる
• 通信技術や省電力化の進展次第で、データセンター立地の最適解は将来大きく変わる可能性がある

なぜデータセンターの立地に注目するのか

生成AIの普及が加速する中、データセンター(以下、DC)は、基礎インフラとして急速に重要性を増している。生成AIの「学習」には膨大な計算能力を要し、「推論」では低レイテンシ<1>が求められる。加えて、冷却設備の増強<2>、PUE<3>1.3以下の達成等、DCに求められる条件は年々増え、「必要なタイミングで必要なDCを用意できるか」が産業や企業の成長のカギとなりつつある。一方、DCに欠かせない電力送電網の整備には時間を要する。このような中、DCの立地判断は、かつて中心だった災害リスクから、電力・通信へと比重が変化し、最近は電力消費の増加が避けられない中で環境対応の必要性も増してきていることから、「脱炭素」の要素が加わりつつある。

国の方針と市場のギャップ-なぜ地方に広がらないのか

政策の方向性

国は予てより、災害時における社会・経済機能の維持や経済安全保障、地方経済活性化等の観点から、DCの地方立地を進める方針を示してきた<4>。

市場の現実

しかし実際には、図表1のような観点から需要が先導して、DCの約9割が東京圏・大阪圏 に集中している(図表2)。

生成AI時代のデータセンター立地戦略 ~電力制約・GXと技術進化が変える立地の常識~
(画像=三菱UFJ信託銀行)
生成AI時代のデータセンター立地戦略 ~電力制約・GXと技術進化が変える立地の常識~
(画像=三菱UFJ信託銀行)

1:データ通信や処理において、要求を出してから結果が返ってくるまでの待ち時間。低レイテンシとは待ち時間が短いこと。
2:生成AI向けのサーバーは、従来のサーバーに比べ発熱量が多く空冷方式では冷やしきれないため、冷却能力の高い水冷・液冷方式が採用されることが多い。
3:PUE=DC全体の消費電力÷IT機器の消費電力。DCの電力使用効率を示す指標で、数値が1.0に近いほどエネルギー効率がよい。日本では、PUE≦1.4が目指すべき水準とされており、2029年以降に新設するDCはPUE≦1.3とすることが求められている。
4:内閣官房「デジタル田園都市国家構想」(2022年6月閣議決定)等。

変化した前提-それでも立地条件が変わる可能性

しかし、今、送電網の計画的な整備や脱炭素電源の活用を前提に、DCを地方に誘導する動きが出始めた(経済産業省「GX戦略地域制度<7>」)。背景には、以下のようなDCを取り巻く環境の変化がある。

  • 生成AIの爆発的な需要増加-生成AIの「学習」では莫大な電力を消費するため、電力を確保しやすい地域や低温外気を冷却に活用できる寒冷地方との相性が良い<8>。一方で、低レイテンシを必須としないケースが多く、都市部からの距離も許容される。

  • 電力制約と環境対応への要請-既存の送電網の多くは容量が逼迫していること、脱炭素化に対する社会的要請が拡大していること等により、大規模電源の近傍にDCを設置することが、大量電力の安定供給と脱炭素化を両立させる現実的な解として浮上している。実際、北米では大手テック企業を中心に、脱炭素電源にDCを併設させる動きが加速しており、日本でも同様の例が出始めている。

  • 海底ケーブルの整備-国内・国際海底ケーブルおよび陸揚局は太平洋側に集中しており、東日本大震災の際に太平洋側の海底ケーブルが切断される等の被害があった。これを踏まえ、日本海側を中心に、2026年度以降の実用化を目指し海底ケーブルの整備が進んでいる。

5:独立した複数のDCが集まった地理的な拠点単位(DCの集合体)。ユーザーに近い場所に配置することで低レイテンシを実現し、あるリージョンで障害が発生しても他のリージョンには影響しないように設計されている。DC事業者により「東京リージョン」「大阪リージョン」「アジアリージョン」「北米リージョン」等、様々な単位・地域がある。
6:インターネット・エクスチェンジ。異なるネットワーク(インターネットサービスプロバイダー、クラウド、コンテンツ事業者)等が相互に接続し、データ通信を交換するための物理的な接続ポイント。東京・大手町や大阪・堂島に多い。
7:経済産業省が2025年に創設した脱炭素と経済成長を両立させる「新たな産業クラスター」の形成を支援する制度8:寒冷地では、冷たい外気をサーバーの冷却に利用することで空調電力を削減できることがメリットとされている。一方で、結露や配管の凍結が生じやすい点や人材確保が困難な点、豪雪地帯では大雪時に交通機能への影響が及ぶ等の課題もある。

  • 「ワット・ビット連携<9>」-電力を運ぶより通信を運ぶ方が時間・コスト共に抑えやすい、という特性をもとに、地方の大規模電源近傍にDCを“引き寄せ”、データを都市部へ“通信”する、という「ワット・ビット連携」構想が提唱されている(図表3)。今後、オール光ネットワーク<10>(以下、APN)の全国展開が進めば、レイテンシの原因となる“距離”の問題も解消する。
生成AI時代のデータセンター立地戦略 ~電力制約・GXと技術進化が変える立地の常識~
(画像=三菱UFJ信託銀行)
  • 近距離性を要する新分野-自動運転や遠隔医療、産業用IoT(精密な動作制御をするロボットや高速な品質検査・検品等)等の分野は、マイクロ秒単位の制御が求められるため、データの発生場所と処理場所の近接性が求められる。これらの技術の実用化には時間を要するが、産業活動や生活が営まれる地域ごとに、この分野に対応したDCが今後必要となる。
生成AI時代のデータセンター立地戦略 ~電力制約・GXと技術進化が変える立地の常識~
(画像=三菱UFJ信託銀行)

9:総務省および経済産業省により進められている、DCの地方分散とGXを同時に推進するデジタルインフラ戦略の一つ。
10:通信の全経路で光ファイバー技術を活用し、電気信号への変換を極限まで減らす技術。従来と比較し、超低消費電力、超高速・大容量、超低遅延での通信が可能となる。

今後の立地をどう考えるか

役割に応じた立地分散

こうした変化を踏まえると、DCは都市部に集中し続けるのでもなく、全面的に地方分散するのでもなく、以下のようにDCに求められる役割・機能によって最適解が異なるものと考えられる。

DC集積地になりうる地域とは?

では、具体的にどの地域にDCの集積が見込まれるのか?東京や大阪近郊には、すでに向こう10年にわたって新設計画が多数ある。そこで、本稿では東京・大阪以外の地域に着目し、DC立地の選択肢となり得る地域のポテンシャルについて考察した。

考察にあたっては、電力および通信の観点を重視している。電力面では電力供給に一定の余力を有する地域や脱炭素電源による発電量が比較的豊富に見込める地域であること、通信面では海底ケーブル陸揚局への近接性や既存DCといったネットワーク上の利便性に注目した。加えて、自然災害リスク等の立地条件についても考慮し、総合的な観点から検討を行っている。

まず、北海道(道央・道北)および福岡は、東京・大阪に次ぐ第2のDC集積地として存在感を高めている。両地域の共通点として、東京・大阪と物理的に距離が離れており同時被災リスクを低減できる点、脱炭素電源が豊富である点、海底ケーブルの陸揚局に近接し、国際通信を含むネットワーク接続性に優れる点等が評価されている。北海道は、サーバー冷却に適した寒冷な気候や広大な土地を比較的低コストで確保しやすい点も強みであり、今後道央・道北以外にもDCの立地が拡大する可能性がある。福岡は、九州最大の都市圏として一定の人口・産業集積を有しており、アジアとの近接性も背景に高度専門人材を確保しやすい。加えて、熊本県の半導体関連工場の集積に伴う電力インフラ強化を背景に、電力供給力が高まりつつある点も、DC立地を後押しする要因となっている。

続いて、関東~南東北にかけてだ。都心部から50km圏内では送電容量に余裕が乏しい状況 にある一方、栃木県および千葉県東部を含む50~100km圏内では相対的に供給余力が見込まれる地域が存在する。これらの地域は都市部に比較的近接しながらも、既存のDC群との接続性や人材確保、交通アクセスといった点で一定の水準を確保しており、大規模用地を確保しやすい点が評価される。こうした条件を背景に、生成AIやバックオフィス処理等、用途の幅を持ったDCの立地が進む可能性がある。

11:一度表示したデータ(画像、動画、HTML等)を、再利用するためにユーザーの近い場所に一時的に保存しておく仕組み。
12:DCの建設に際し、大量の電気や水の使用、景観や騒音等住環境の変化が懸念され、建設反対運動が起こるケースがある。DC開発・運営事業者は、地域住民に対し、建設計画や周囲の環境への影響について丁寧な説明・合意形成に努めるだけでなく、地域の脱炭素化の促進や排熱の再利用、災害時の防災拠点としてのDC活用等、地域社会へ貢献することが求められている。

これまでDCの立地が限定的だった日本海側にも国内外の大手事業者が注目している。脱炭素電源が存在することや、海底ケーブルの整備が進められているためだ。北海道同様、寒冷な気候条件が冷却効率の向上に寄与する点もメリットとして捉えられる。こうした条件は、東北・北陸・中国地方の日本海側にかけて概ね共通しており、東京・大阪から物理的距離があることから災害時のリスク分散も一定の評価が可能である。今後、APNの全国展開が進めば、これらの地域における“距離”に起因するハードルはさらに縮小するであろう。

生成AI時代のデータセンター立地戦略 ~電力制約・GXと技術進化が変える立地の常識~
(画像=三菱UFJ信託銀行)

このようにDCの立地は、電力や通信に加え、脱炭素を中心とする複数の立地要件が重なり合う地域を中心に、求められる機能や用途に応じて段階的に集積が形成されていくものと考えられる。当然ながら、ここに挙げた地域は一例であり、他の地域でも条件が揃えばDCが立地する可能性は十分にある。

なお、前述のGX戦略地域制度には、「GX産業立地」の類型の一つとして「DC集積型」が位置付けられ、2026年春~夏にかけて対象地域が選定される見込みである。DC立地の今後の展開を見通す上で引き続き注目したい。

さらに先にある未知の変化

これまでの議論は、あくまで現時点の前提に基づくものである。しかし、DCを取り巻く環境の変化は非常に速く、現在の常識・定説が数年のうちに覆される可能性は十分にある。

例えば、通信技術においては、APNが普及すれば物理的距離に起因する“遅延”は大幅に縮小する。この場合、超低遅延が求められる分野以外では、都市部に立地する必然性が弱まり、土地コストが安価な地域へのDC設置が加速する可能性がある。APNは、2030~40年頃にかけて全国的な普及が見込まれており、この時期以降に稼働するDCは、立地条件が現在とは大きく異なる可能性がある。

また、DCは大量の電力を消費する、という前提さえ変わる可能性がある。省電力性能が高い半導体が普及すれば、サーバーの発熱量が減り、冷却負荷も小さくなる。DC全体として消費電力が小さくなり、電源近傍に立地する必然性が弱まり、再び都市近郊にDCが集積する可能性もある。

こうした将来の技術動向を見据え、立地や建物構造に一定の可変性を持たせておくことが望ましい。都市部では、DCからオフィスや共同住宅等他の用途転換事例が存在するものの、初期段階からそこまでの想定を織り込むことは容易ではなく、特に地方・郊外では各種規制や需要等の制約から難しい。この点は、長期的な潜在課題であるだろう。

黒澤直子
三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部