この記事は2026年3月31日に三菱UFJ信託銀行で公開された「不動産マーケットリサーチレポートvol.303『日本人の宿泊需要動向』」を一部編集し、転載したものです。
この記事の概要
• 宿泊料上昇により宿泊日数の短縮や宿泊料の高い東京を避ける動きがあるとみられる
• 一方で20代の観光・レクリエーション目的の旅行回数には増加もみられる
2025年の日本人延べ宿泊者数は減少
2025年の訪日外国人は4,268万人<1>で過去最多となったが、国内の宿泊需要は、2025年の延べ宿泊者数が6.5億人泊<2>となり2024年から0.8%の減少となった。地域別に延べ宿泊者数の増減をみても、全ての地域で外国人延べ宿泊者数が増加した一方、日本人延べ宿泊者数は減少した(図表1)。
地域別にみると、関東の増減の大半は東京都が主因となっている。東京都は日本人延べ宿泊者数の減少が全国で最も大きく、日本人の宿泊需要減少の影響を最も強く受けている。その他の地域においても、日本人が宿泊需要の8~9割を占めている地域もあり、日本人の宿泊需要は無視できないものと考える。
金額でみても日本人の国内宿泊旅行の消費額は20.3兆円(2024年、うち宿泊費5.0兆円)と訪日外国人旅行の消費額8.1兆円(うち宿泊費2.7兆円)を大きく上回る<3>。近年、訪日外国人が増加する中、依然として日本人の国内宿泊は国内旅行需要を支えており、その動向を把握することは重要である。そこで、本稿では日本人延べ宿泊者数の減少の背景を、最近の宿泊料上昇の観点から確認した上でより詳細な旅行目的・年代別の動向についても確認したい。
1:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」による。
2:観光庁「宿泊旅行統計調査」の年間の速報値。人泊は各日の宿泊者数を合計したもので、1人の人が2泊した場合は2人泊と計上される。
3:観光庁「旅行・観光消費動向調査」「インバウンド消費動向調査」による。
宿泊料の上昇とともに、家計の支出にも変化がみられる
日本人の宿泊需要は最近の宿泊料上昇の影響で減少しているものと考えられる。総務省「家計調査」<4>で、家計の支出動向(金額・頻度)を確認する。宿泊料の年間支出金額は増加傾向にあり、同時に2025年においては1世帯当たりの宿泊料の支出頻度にも増加がみられる(図表2)。ただし、支出頻度が増加したとしても、旅行1回あたりの宿泊日数の短縮や旅行人数の減少があると、宿泊需要全体(=延べ宿泊者数)は必ずしも増加しないことに留意が必要である。
次に、年間の宿泊料支出額を支出頻度で割った支出単価を消費者物価指数の宿泊料の動きと比較する。2025年は宿泊料(消費者物価指数)が上昇する一方で支出単価は低下しており、支出単価と宿泊料の変化の間には乖離がみられる(図表3)。消費者物価指数と同様の変化となれば宿泊内容に変化がないことを意味するが、2025年の状況はそうではない。宿泊料が上昇する中、家計が宿泊日数や人数、料金水準など、宿泊の内容を変化させることで対応している様子がうかがえる。
本稿では、宿泊旅行統計調査を用いて、宿泊日数の短縮と宿泊料が高い地域を避ける家計の動きについて確認する<5>。
宿泊者1人が1つの宿泊施設に滞在した日数<6>をみると、2024年の1.338日から2025年は1.319日となり、0.019日の短縮が確認された。2024年の宿泊した実人数(実宿泊者数)は3.7 億人なので0.019日の短縮は、単純計算で700万人泊程度(=3.7億人×0.019)の押し下げとなっている。
4:日本人の国内宿泊旅行について、2024年の観光庁「旅行・観光消費動向調査」によれば、家計支出にならない場合も考えられる「出張・業務目的」は延べ旅行者数ベースで全体の15%となっており、大半は「観光・レクリエーション目的」又は「帰省・知人訪問等目的」となっている。
5:旅行人数の確認については、旅行人数を把握できる公的統計がないことから今後の課題としたい。なお、観光庁「旅行・観光消費動向調査」では旅行の同行者を調査しているが、具体的な同行者数を把握することはできない。
6:延べ宿泊者数を実宿泊者数で除して算出。
宿泊料の高い東京都での宿泊を避ける動きもあるとみられる
次に、宿泊料が高い地域を避ける動きを確認するべく、主要都市間の宿泊料を比較する。宿泊料には周辺環境含めた立地や交通アクセス等、様々な要因が影響することが想定されるが、ブランドやホテルタイプの影響も大きいと思われる。ここでは比較の為、同一ブランドのビジネスホテルに限定して立地の異なる複数のホテルを比較する。2025年12月を例にとり、東京都、大阪府、北海道<7>に所在する同一ブランドのビジネスホテルの宿泊料の推移を示したのが図表4である。日により大きく変動させる料金マネジメントが導入されていることが分かるが、水準は東京都が最も高く、当該期間の平均値でみても、東京都16,861円、大阪府9,798円、北海道11,542円と同様の結果となっている。
宿泊料の水準が最も高い東京都における日本人の宿泊者全体に占めるシェアを確認する。宿泊した実人数に対する東京都のシェアは近年低下がみられる(図表5)。東京都は、日本人延べ宿泊者数が減少する一方、外国人延べ宿泊者が増加しており、客室稼働率は他地域と比べて高水準を維持している<8>。高い客室稼働率を背景に東京都の宿泊料は他地域と比べて高くなっているとみられ、日本人宿泊者の東京都のシェア低下の一因となっている可能性が考えられる。
7:2025年12月の延べ宿泊者数は東京都が最も多く、次いで大阪府、北海道となっている。
8:東京都の客室稼働率は2024年が75.1%、2025年が76.8%となっている。全国の客室稼働率は2024年が59.6%、2025年が61.8%となっている。
一部に宿泊旅行に積極的な層もみられる
本稿では、宿泊料上昇の影響が日本人延べ宿泊者数に与える影響を確認してきた。宿泊料の上昇により、家計が宿泊内容を変化させており、宿泊日数の短縮や宿泊料が高い地域を避ける動きがあるとみられる。宿泊料の上昇は継続しており(図表6)、日本人の宿泊需要は当面弱含む可能性がある。こうした状況の中、2025年の全国の客室稼働率は、外国人延べ宿泊者数の前年同月比が低下するにつれて、前年同月からの上昇幅が縮小してきており(図表7)、宿泊施設にとって日本人宿泊客を取り込むことも重要になってくるだろう。
日本人の国内宿泊旅行の平均回数を目的・年代別にみてみる。観光・レクリエーション目的について、2025年はもともと他年代より平均回数の多い20代が増加しており、宿泊料が上昇する中でも20代は積極的に宿泊旅行を行っていたとみられる(図表8)。一方で出張・業務目的は目立った増加がなく、30代及び40代は平均回数が2019年(コロナ禍以前)と比べて減少しており、オンラインでのやり取りの広がりも影響しているとみられる(図表9)。目的・年代別の傾向が今後も継続するかは動向を注視していきたいが、20代の観光・レクリエーション目的のように日本人の中でも旅行に積極的な層を取り込んでいくことは宿泊施設にとって有用だろう。




