この記事は2026年2月27日に三菱UFJ信託銀行で公開された「不動産マーケットリサーチレポートvol.301『福利厚生の再編トレンド:住宅支援をどう組み換え、どう効かせるか』」を一部編集し、転載したものです。
目次
この記事の概要
• 当社アンケート調査を用いて、住宅支援の見直しを①「適用範囲/給付水準」に分け、②見直しの同時発生から組み換えを捉え、③見直し理由別に方向性の違いを整理した。
• 各整理を踏まえると、住宅支援は縮小一辺倒ではなく、対象を絞りつつ給付水準は手厚くする等、各企業の見直し理由に応じて傾向の違いが見られた。
当社アンケートから見える福利厚生の潮流
本レポートでは、当社アンケート調査を用いて企業の福利厚生制度の動向を、
として指数化し、過去5年の方向性を整理した。その結果、福利厚生制度の見直しは、各制度の単純な縮小・拡大傾向だけではなく、各企業がそれぞれの戦略に基づき、制度を“組み換える”様子が浮かび上がってきた。
過去5年の動向
過去5年の動向を概観すると、福利厚生全体では、休暇や勤務制度を筆頭にテレワークや資産形成などで新設・拡大が見られる一方で、住宅支援は縮小・廃止の回答が多い結果となった。
但し、住宅支援を制度タイプごとに分解してみると(図表2)、動きは一様ではない。保有型の制度では縮小が目立つ一方、家賃補助、持家向け補助では縮小を拡充が上回る。すなわち、住宅支援は一方向に削減されているのではなく、制度の形態を変えながら再編が進んでいる局面にあるといえる。
では、なぜ今このような再編が進んでいるのか。次章では、その背景にあるドライバーを整理する。
再編を生む3つのドライバー
福利厚生の再編は、単にコスト削減だけを理由として起きているわけではない。直近5年の動きを踏まえると、概ね次の3つのドライバーで整理できる(図表3)。
1 従業員ニーズ/働き方の変化
共働きの拡大や女性活躍、単身世帯の増加を背景に、働き方・健康・育児介護・キャリア形成など、従来手薄だった領域で必要性が顕在化している。一方、住宅は、居住ニーズの多様化と既存ストックの老朽化等によりミスマッチが生じやすく、保有から手当化など、組み換えの動機になりやすい。
2 制度の調整容易性(設計・運用のしやすさ)
再編は、理屈として望ましいから起きるだけでなく、実務上“動かしやすい”から動く面もある。対象範囲や給付水準を調整しやすい制度は、小刻みな改善が可能だ。一方、寮・社宅等のように資産や運用が絡む制度は、一度持つと固定費や運用負荷が残りやすく、変更には摩擦が伴う。結果として、再編局面では、住宅制度は、「対象の絞り込み」や「形態の置き換え」といった形で現れやすい。
3 コスト
働き方の柔軟化や休暇制度の整備など、費用が表面化しにくい制度もある一方、住宅は維持管理や市場賃料など金額が見えやすい。費用負担が重い制度ほど縮小時のコスト節減効果が大きく、住宅制度は「見直しの俎上」に上がりやすい。ただし、単に削減するだけではなく、原資を別制度に移し替え、採用・定着などの課題に“効かせる”形へ再設計する動きも生まれやすい。
再編の実態を捉える3つの切り口
以上の3つのドライバーを踏まえると、福利厚生の再編は費用やメニューが「増えた/減った」という単純な話では捉えきれない。
同じ“拡大”でも、対象者を広げたのか、1人当たりを手厚くしたのかで意味が異なる。また住宅支援では、ある制度を縮めながら別の制度を厚くするなど、制度間の“組み換え”が同時に進むことがある。さらに、その判断は「採用・定着を優先するのか」、「公平性・戦略整合を狙うのか」「コストを抑えるのか」といった見直し理由によって方向性が分かれる。
そこで次章では、①拡大縮小を「適用範囲」と「給付水準」に分解し、②見直しの同時発生から“組み換え”の実態を把握し、③見直し理由との関係から、どの論点がどの見直しに結び付きやすいかを整理する。
①拡大/縮小の分解:「適用範囲」と「給付水準」
図表4は、住宅支援制度の拡大/縮小動向について、従業員の「適用範囲(誰に)」と「1人当たり給付水準(どれだけ)」に分けて、DI値(拡大―縮小)を表示したものであり、企業が“広く配る”のか“効くところに手厚くするのか”といった設計思想が見えやすくなる。
寮・社宅:
適用範囲を絞りつつ給付水準は維持ないし引き上げる動きが見て取れる。広く薄くよりも「対象を選び、手厚くする」方向に軸足が移りつつある可能性を示す。
家賃補助:
適用範囲はやや拡大、給付水準は拡大傾向にあるという回答割合が相対的に高い。保有寮・社宅の適用範囲が縮小する中で、制度の調整弁として機能していることが窺われる。
持家補助:
適用範囲、水準共に拡大傾向が相対的に強い。持家に居住する従業員と借家に居住する従業員との間の不公平感の是正などを含めて、持家補助の位置付けや役割が見直されている可能性がある。
②見直しの同時発生が示唆するもの
図表5は、保有寮・社宅を縮小(廃止含む)または拡大(新設含む)した企業に絞り、その局面で家賃補助、借上が同時に「縮小・拡大・不変」のどれに動いたかを構成比で示したものである。
結果として、保有を縮小した局面では借上げも同時に縮小しているという回答が多い一方で、家賃補助は拡大しているという回答も一定見られることが分かる。これは、保有を削減する動きが「住宅支援からの撤退」一色ではなく、物件保有の維持管理・固定費の負担を軽くしつつ、家賃補助のような調整のしやすい手段へ“組み替えられる”可能性を示す。
逆に、保有を拡大した局面では、借上げ・家賃補助共に拡大したという回答が中心でこれは住宅支援を全体として手厚くする方向に舵を切る企業群が一定数あることを示唆する。
③見直し理由と見直しの方向性
住宅支援の見直しは、同じ「縮小・拡大」でも、企業が何を目的に実施したかによって、現れ方が異なる。そこで、見直し理由を①採用・定着②公平・戦略整合③コスト削減の3類型<1>に整理し、理由類型ごとに各制度の見直し動向を比較した。
以下、図表6,7は住宅支援制度について、見直し理由を横軸に各制度を縦軸に、図表8は住宅支援以外の制度について、過去5年のDI値(拡大-縮小)に関する全体平均との差分(ppt)を示している。
1.採用・定着を理由としたもの:
借上寮、借上社宅は、給付水準・適用範囲共に縮小した。一方で、家賃補助、持家補助は給付水準・適用範囲共に拡大傾向である。これと合わせて住宅支援以外の制度は、給付水準・適用範囲共にプラスであり、採用定着を目的とする場合、住宅(特にハードへの関与が深い制度)を絞りつつ、手当・制度系へ厚みを移す組み換えが起きやすいことが示唆される。
2.公平・戦略整合を理由としたもの:
借上げ社宅以外で適用範囲の拡大傾向が目立つ。特に借上寮や家賃補助の適用範囲の拡大傾向が「採用定着を理由としたもの」よりも強い。一方で、給付水準に関しては、家賃補助以外は縮小傾向。また、住宅支援以外の制度は、給付水準、適用範囲共にDIがプラスとなっており、公平・戦略整合を目的とする場合、給付水準で調整を行いながら、制度の適用範囲全体を拡張する傾向が見て取れる。
3.コスト・運用を理由としたもの:住宅も住宅支援以外も縮小
住宅支援は「削減する」「制度を廃止する」「統合する」といった方向が出やすい。特に、利用者減や運用負荷の影響が出やすい、寮・社宅制度で縮小の傾向が顕著である。
1:各類型の内訳は以下の通り。
1) 採用定着=従業員満足、人材定着、優秀な人材の新規確保、新しい働き方の定着・活性化、従業員のスキルアップ、時代や価値観の変化に即した見直し
2) 公平と戦略=経営目標や経営戦略に合わせた制度に見直す、福利厚生にかかる従業員格差是正、DE&I 推進、女性の活躍推進、外国人の活躍推進、組合からの要請
3) コスト節減=総人件費の削減、管理・運営負担の軽減、利用者が少ない、他の施策・制度に統合
まとめ:住宅支援は「組み換え、効かせる」かたちへ
本調査の結果が示すのは、住宅支援が単に縮小しているという話ではなく制度を廃止する企業があれば、形を変えて残す企業もあるということだ。つまり住宅支援は今、増やす/減らすの二択ではなく、“何を目的とするか”の設計問題になっている。
本調査から見えてきた見直しの方向性は大きく3つに整理できる。
1.対象を絞って厚くする(選択と集中)
Cf;制度の適用範囲を絞りつつ、効かせたい対象に向けて水準を引き上げる
2.制度形態を組み替える(置き換え)
Cf;保有を縮小しつつ、家賃補助・借上げを受け皿にして柔軟性を高める
3.縮小し、他制度に原資を配分する(再配分)
Cf;優先度や利用状況に鑑みて、コスト対効果が最大となるよう、再配分する
重要なのは、何が正解であるかを探すことではない。企業の課題が何であるかで最適解は変わる。採用・定着が最優先なのか、公平・戦略整合を打ち出したいのか、コスト・運用の制約が強いのか。見直し理由によって、住宅支援の“望ましい組み換え方”が見えてくる。




