この記事は2024年3月13日に三菱UFJ信託銀行で公開された「不動産マーケットリサーチレポートvol.241『人手不足時代における寮の需要』」を一部編集し、転載したものです。


人手不足時代における寮の需要
(画像=ponta1414/stock.adobe.com)

目次

  1. この記事の概要
  2. 前回までの調査結果から一転、寮・社宅の“拡大”が“縮小”を上回る結果に
    1. 寮・社宅は長期的には縮小傾向も、直近数年間は下げ止まりの様相
    2. 若年の未婚労働者が増加、単身者向け寮の需要を下支え
    3. 人手不足問題への対応策としての寮の可能性
  3. 90年代前半に大量に建設された寮の更新タイミング
  4. 全国転勤の見直しが寮需要へ与えるインパクト
  5. さいごに

この記事の概要

• ①若年未婚労働者の増加②人手不足問題への対応③バブル期に建設された寮の更新需要 を背景に、寮需要に復活の兆し有り。

• 遠方人材の確保や早期離職防止を目的とした多世代、コミュニケーション機能を有する 寮に注目が集まる。

2024年問題を抱える物流業界をはじめとして、多くの企業で人手不足問題が顕在化する中、早期離職の防止、広域からの採用強化等を目的に寮を新設・整備する動きが見られます。

前回までの調査結果から一転、寮・社宅の“拡大”が“縮小”を上回る結果に

弊社が昨年12月に実施した「人事・退給一体サーベイ」によると、これまで縮小トレンドであった寮・社宅制度について“拡大”の意向を示す件数が“縮小”の意向を示す件数を上回りました。(図表1)これは前回までの調査結果と傾向が異なるものです。本稿では、同結果を踏まえ、寮社宅制度に対する企業動向の変化の兆候を探ります。

寮・社宅は長期的には縮小傾向も、直近数年間は下げ止まりの様相

企業が整備する寮・社宅は特に2000年代以降、景気悪化に伴う法定外福利費の縮小や資産効率の改善を重視する企業方針への転換などにより急速に縮小しましたが、直近数年間については2019年を底に、下げ止まりの様相を呈しています。(図表2)

人手不足時代における寮の需要
(画像=三菱UFJ信託銀行)

1:この場合の社宅には、世帯用の社宅のほか、単身用のいわゆる寮形態の住宅を含む。

若年の未婚労働者が増加、単身者向け寮の需要を下支え

社宅や寮は、『持ち家取得前の既婚労働者』や『若年の単身世帯』等の労働者を対象に資産形成を助ける手段の一つとして利用されてきた経緯があります。人口や社会構造の変化により、その中心的な利用者層が大きく増減する場合、社宅や寮の需要動向も影響を受けます。少なくともこの10年間で見ると、30代の既婚男性労働者数は140万人以上減少しましたが、(図表4)こうした変化は”既婚世帯向け”の社宅需要を減少させる大きな要因であると言えます。一方で、婚姻率の低下(図表5)等もあり、男性・女性共に若年未婚労働者数は増加しており(図表3,4)、こうした変化は”若年者向け”の単身寮需要を安定的に下支えする要因であると言えます。

人手不足時代における寮の需要
(画像=三菱UFJ信託銀行)
人手不足時代における寮の需要
(画像=三菱UFJ信託銀行)

人手不足問題への対応策としての寮の可能性

物流業界や建設業界など、人手不足が顕在化している業界では、業務経験や居住地を問わず、広く人材を求めるようになっています。その一環として、遠方人材が安心して挑戦できる環境整備のため、単身者向けの寮を整備する動きが見られます。また、比較的離職率の高い若年労働者の早期離職防止の観点からも社員間のコミュニケーションの活発化が期待できる寮への関心が高まっています。(図表6)こうした動きは、単純に住まいを提供するのみではなく、対話や学びの機会を住空間に併せて創出することも目指したものであり、長期的な観点でエンゲージメント向上をもたらしうる施策であるといえます。そして集合型の寮はこうした様々な機能のアレンジメントが比較的容易であるという点で、一般的な借上げ住戸と比較し、優位性を持つものと言えます。

人手不足時代における寮の需要
(画像=三菱UFJ信託銀行)

90年代前半に大量に建設された寮の更新タイミング

1990年代初頭はバブル景気の影響もあり、労働市場は空前の売り手市場でした。1971年から1974年生まれのいわゆる団塊ジュニア世代の多くが1990年代の初頭から労働市場に流入しました。(図表7)

人手不足時代における寮の需要
(画像=三菱UFJ信託銀行)

企業は労働者の獲得競争の一環として、寮の整備を進め、結果として、93年の単身寮への入居世帯は5年前と比べて倍増しました。(図表8)こうした時代に建てられた寮は2024年には、築30年を超え、維持管理コストの上昇や設備の陳腐化等が顕在化するリスクは高まってきています。こうした老朽化した施設の建て替えは、人手不足に備える多機能・多世代型の単身寮へと切り替える一つのタイミングであると言えます。

人手不足時代における寮の需要
(画像=三菱UFJ信託銀行)

全国転勤の見直しが寮需要へ与えるインパクト

働き方改革・コロナ禍を経た意識変化及び多様な働き方推進の一環として、転勤制度を見なおす動きが出てきています。弊社調査によれば、現時点ではまだ約半数の企業は方針を決めていないものの、全体の約1割の企業は既に抑制方針を明示しています。(図表9)転居を伴う配置異動の場合、異動の発令から配属までの期間は概して1か月以内と短い場合が多いため、配置転換を円滑に進めるためにも、移転先の近くに配置された単身寮は重要な役割を担ってきました。今後、転勤制度の見直しが加速すれば、それはどの程度単身寮の需要に影響を及ぼすでしょうか。転居を伴う異動に関する直接的な公的統計は存在しないため、本稿では、国勢調査より疑似的に“単身赴任者数”を推計したところ、2020年時点で男女合わせて約108万人程度存在することが分かりました。

人手不足時代における寮の需要
(画像=三菱UFJ信託銀行)

転勤者向けの単身寮に入居する層は、実際にはこれに独身の転勤者を加える必要があり、全体規模としてはおそらく100万人以上の労働者がこうした層に該当するものと思われます。それらの労働者により単身寮の需要の内、一定程度が支えられていることは間違いありませんので、その動向は寮需要においては決して無視しえない数字といえます。換言すれば、全国転勤制度を有する企業において、寮の高機能化や建て替えを実施する場合は、将来における転勤制度の永続性に関しても併せて考慮したうえで、必要なキャパシティや機能を検討する必要があるといえるでしょう。

さいごに

本稿では、①若年・未婚の労働者が近年増加していること②人手不足の状況下において、寮を確保することの採用戦略上のメリットが高まっていること③90年代初頭に整備された寮が更新時期を迎えつつあること、以上の3点から、今後、寮の需要は一層高まっていくものと結論付けています。寮需要の高まりは、賃貸住宅需要への追い風となる可能性がありますが、寮としての利用を想定する場合、管理会社導入の可否、既存契約整理の難度等、事前に寮としての商品化プロセスを明らかにしておくことが肝要です。また、需要側にあっては、人事戦略上の題の可視化を進めるとともに、既存設備の改修、建替え、新規取得等、実現可能なプランのコストや社内価値の定量化を図ることが有用です。

牧坂亮佑
三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部