この記事は2024年12月16日に「第一生命経済研究所」で公開された「12月短観から見た24年度業績見通し」を一部編集し、転載したものです。


目次

  1. 売上高・経常利益いずれも上方修正
  2. 売上高大幅上方修正の「宿泊・飲食サービス」「情報サービス」「業務用機械」
  3. 経常利益大幅上方修正期待は「宿泊・飲食サービス」「非鉄金属」「物品賃貸」
  4. 為替レートの変動で業績が修正される可能性も

売上高・経常利益いずれも上方修正

12月13~16日にかけて公表された12月短観の大企業調査は、11月上旬~12月上旬にかけて資本金10億円以上の大企業約1700社に対して行った調査であり、先日公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。

そこで本稿では、同調査を用いて、1月下旬から本格化する四半期決算発表で今年度業績計画の上方修正が見込まれる業種を予想してみたい。

資料1は、12月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、24年度は年度全体で上方修正となっている。

一方、経常利益を見ても、24年度下期は前回から下方修正となったものの、24年度通期で見れば上方修正となっている。このことから、四半期決算発表では24年度の企業業績見通しを引き上げる企業が増えることが予想される。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

売上高大幅上方修正の「宿泊・飲食サービス」「情報サービス」「業務用機械」

続いて、12月短観の売上高計画を基に、大幅上方修正が見込まれる業種を選定してみたい。資料2は24年度の業種別売上高計画の前年比と修正率をまとめたものである。

結果を見ると、24年度も多くの業種で増収計画となる中で、最大の上方修正率となっているのが「宿泊・飲食サービス」である。それに続くのが「情報サービス」となり、以下「業務用機械」「建設」「物品賃貸」と続く。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

まず、「宿泊・飲食サービス」の上方修正については、国内旅行やインバウンド消費が活発になっていることに加えて、円安や原材料高、人件費高騰などに伴う値上げも追い風となっていることが推察される。

また、「情報サービス」の上方修正については、経常利益計画でも上方修正されているものの、減益計画となっているため、人材不足などに伴う人件費高騰などのコスト高に応じて価格転嫁が進んだ可能性が示唆される。

一方、「業務用機械」や「物品賃貸」の上方修正は、新紙幣発行やインバウンド客に伴う両替需要の増加等により、自販機や両替機等の購入やリースの需要拡大が織り込まれたことが推察される。

なお、「建設」については経常利益計画も大幅上方修正されていることから、建材価格上昇などに伴う価格転嫁に加え、再開発や工場新設、復興等の建設需要が高まっていることが推察される。

従って、次の四半期決算における業績見通しでは、こうした業種に関連する企業について売上高計画がどの程度上方修正されるかが注目されよう。

経常利益大幅上方修正期待は「宿泊・飲食サービス」「非鉄金属」「物品賃貸」

続いて、12月短観の経常利益計画から大幅上方修正が期待される業種を見通してみよう(資料3)。結果を見ると、上方修正率が最も大きいのは「飲食・宿泊サービス」となっている。こちらは売上高同様に、国内旅行やインバウンド消費が活発になっていることに加えて、値上げも押し上げに効いていることが推察される。

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(画像=第一生命経済研究所)

それに続くのが「非鉄金属」である。ただ、こちらは減益計画となっているため、一部品目の需要拡大に加えて国内業務のリストラ効果等も寄与しているものと思われる。なお、上方修正率5位の「化学」も小幅増益計画にとどまっているため「非鉄金属」と同様の理由が推察される。

また、「物品賃貸」については売上高同様に、新紙幣発行やインバウンドの両替需要拡大などに伴う券売機や両替機のリース需要拡大の影響が大きいことが推察される。

それに続くのが「建設」である。こちらも売上高の上方修正と同様に建材価格上昇などに伴う価格転嫁に加え、再開発や工場新設、復興等の建設需要が高まっていることが推察される。

このように、次の四半期決算で経常利益見通しの上方修正が期待される業種としては、宿泊・飲食サービス関連に加えて、需要拡大が見込まれる物品賃貸や建設関連、国内業務のリストラ効果等が見込まれる素材関連が指摘できる。

為替レートの変動で業績が修正される可能性も

なお、12月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。

資料4にて実際に今年度の想定為替レートを確認すると、大企業における事業計画の前提となる想定為替レートはドル円で146.9円/$、ユーロ円で159.4円/€となっている。しかし、足元のドル円レートは150円台となっている。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

中でも、製造業で足元のドル円レートよりも特に円高で今期の為替レートを想定しているのが円安の恩恵を受けやすい「造船・重機、その他輸送用機械」となっている。

なお、物品賃貸や情報通信など輸入依存度の高い内需関連産業の一部では、円安でむしろ業績の下押し要因となる企業も含まれている可能性があり注意が必要だが、特に輸出関連の製造業が多く含まれる加工業種では146円/$台と円高気味の想定をしていることに注目すべきだろう。

以上の結果を踏まえれば、今後は欧米における想定外のインフレ鈍化等に伴う過度な利下げ観測の強まりや、日本企業の賃上げ圧力の高まり等に伴う日銀の過度な利上げ期待の高まり等を通じて為替レートの水準が急速に円高方向に進まなければ、こうした今期の為替レートを円高水準に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性があることにも注目すべきだろう。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣