本記事は、上野 泰也氏の著書『本当の自由を手に入れるお金の減らし方』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。

本当の自由を手に入れるお金の減らし方
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

お金は「信用」

【父】お金ってね、そもそも「信用」で成り立っているんだよ。大人がクレジットカードで買い物できるのは、カード会社が「この人はあとで必ず払ってくれる」と信用しているからなんだ。現金をその場で渡しているわけじゃないのに、店は商品を渡してくれる。これは全部、信用があるからできることなんだ。

【娘】なるほど、「信用されているから買える」ってことなんだね。

【父】そう。だからローンやクレジットカードの利用では必ず「与信よしん審査」というものがある。これは「あなたを信用しても大丈夫かどうか」を数字や記録で判断する仕組みなんだよ。たとえば年収や勤続年数、勤務先の規模や安定性、過去の支払い履歴などが細かく調べられる。そしてそれらを総合して信用度を点数化するんだ。点数が高ければ「この人は安心して貸せる」とされて、クレジットカードもローンも申請が通りやすい。

【娘】信用度を点数で決めるなんて、ちょっと冷たい気もするなあ。

【父】そう感じるかもしれないね。でも実際の世の中では、それくらい慎重に人の信用を測っているんだ。「与信」という言葉は、簡単に言えば相手に信用を与えることを指す。たとえばクレジットカード会社が「この人なら10万円までなら安心して貸せる」と判断して、その範囲を利用できるようにする。これが「与信枠」だ。

【娘】へえ、じゃあ「枠」っていうのは、その人がどれくらい信用されているかの目安なんだ。

【父】その通り。与信は個人だけじゃなく、会社同士の取引でも欠かせない。企業が掛け取引をするとき、先に商品やサービスを渡して、代金はあとで受け取る。これも「与信取引」といって、相手を信用しているからこそできる仕組みなんだ。もちろんリスクもあるから、取引を始める前には「与信審査」をして本当に信用できるかを調べる。これが通らなければ取引自体が見送られることもあるんだよ。

【娘】信用されるって、生活だけじゃなくて会社同士の世界でも大事なんだね。

【父】その通りだ。信用は便利さを生む大事な仕組みだ。とはいえ、それ自体が幸せを保証してくれるものじゃない。ただの“条件”にすぎないんだ。だから「信用= 幸せ」と思い込むと危ないよ。

【娘】へえ。「お金= 幸せ」って思い込むのもまずいけど「信用= 幸せ」って思い込むのも良くないのね。

「信用」は「信頼」ではない

【父】実はね、信用とよく混同している人がいるけれど、少し違う概念があるんだ。それが「信頼」だ。

【娘】信用と信頼って、同じような言葉に聞こえるけど、違うの?

【父】英訳すると、信用は「CREDIT」、信頼は「TRUST」。そもそも言葉からして違うんだよ。

【娘】確かに!

【父】「信用」と聞くと、多くの人は「信用取引」とか「信用金庫」を思い浮かべるだろう。金融やビジネスの世界で使われることが多い言葉なんだ。では、これを「信頼」に置き換えたらどうなる? 「信頼取引」「信頼金庫」と言われても、あまりピンと来ないだろう。それは「信用」と「信頼」が明確に違うからなんだ。

【娘】どう違うの?

【父】信用というのは、裏付けや担保があって初めて成り立つものなんだ。預金残高や資産、過去の取引実績など、根拠があるから「この人なら大丈夫」と判断される。つまり信用とは「条件つきで信じること」なんだ。

【娘】なるほど。点数や記録があって初めて「信用」されるんだね。

【父】そう。それに対して「信頼」は裏付けがない。担保も保証もなく、裏切られるかもしれないのに、それでも相手を信じることを「信頼」と呼ぶんだ。信用が過去の実績に基づくなら、信頼は未来への期待に投資することなんだよ。

【娘】裏切られるかもしれないのに、それでも信じるのが信頼…… なんだか勇気がいるね。

【父】その通り。君も『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健著/ダイヤモンド社)は少し読んでみたかな? あれはアドラーの思想をもとにして書かれたんだ。

【娘】ああ、私にはちょっと難しかったけれど、すごく考えさせられた。



【父】アドラー心理学では、人間関係において他者を信頼することの大切さが説かれている。信頼とは相手の行動を制約することなく、無条件に信じることだと考えられているんだ。人間関係は対等であることが前提で、過去の履歴ではなく、今この瞬間の相手を受け入れること、そこから信頼は始まるんだ。

【娘】じゃあ、「信頼する」って無条件に信じることなのね?

【父】そうだ。だから信頼関係は自分から始めるんだ。相手を疑っているうちは信頼は生まれない。裏切られるかもしれない、それでも信じる勇気を持つこと。これがアドラー心理学でいう「共同体感覚」にもつながる考え方なんだ。人は自分と他者を信頼することで、共同体の一員としての安心感と幸福を感じられるとされているんだよ。

【娘】信用は条件つき、信頼は無条件。なんだか、だんだんと見えてきたよ。

【父】その通り。信用は暮らしを便利にする。信頼は人を幸せにする。どちらも大切だけれど、意味も役割もまったく違うんだ。

本当の自由を手に入れるお金の減らし方
上野 泰也(うえの・やすなり)
株式会社マーケットコンシェルジュ代表。元・みずほ証券チーフマーケットエコノミスト。
1963年青森県八戸市生まれ、育ちは東京都国立市。85年上智大学文学部史学科卒業。法学部法律学科に学士入学後、国家公務員I種試験に行政職トップで合格し、86年会計検査院入庁。
88年富士銀行(現みずほ銀行)入行。為替ディーラーを経て為替、資金、債券の各セクションでマーケットエコノミストを歴任。2000年みずほ証券設立後、25年6月までチーフマーケットエコノミスト。
質・量・スピードを兼ね備えた機関投資家向けのレポート配信、的確な経済・市場予測で高い評価を得て、「日経公社債情報」エコノミストランキングで2002年から6年連続で第1位、その後身の「日経ヴェリタス」エコノミストランキングで2011年、16~21年に第1位(トップは通算13回)。2025年7月にマーケットコンシェルジュを設立、代表に就任。

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