本記事は、上野 泰也氏の著書『本当の自由を手に入れるお金の減らし方』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。

本当の自由を手に入れるお金の減らし方
(画像=daimath/stock.adobe.com)

「手段の目的化」を脱しよう
―「お金を何に使うか?」こそ本来の幸福

皿の塔が崩れそうに高く積まれ、レーンの上には次々と新しい寿司が流れてくる。満腹になった父と娘はタッチパネルのメニュー画面を閉じ、店員に「お会計お願いします」と声をかける。店員が皿を数え、「25皿ですね」と応じると、娘は目を丸くした。

【娘】うわあ、思ったより高くついたね。お寿司って安い皿を選んだつもりでも、積み重なるとけっこうな金額になるんだ。やっぱり何かを買って貯金の残高が減ると思うと、ちょっと不安になるなあ。

【父】日本人らしい感覚だね。

【娘】でもさ、うちのおばあちゃんもそうだけど、なんで日本人ってこんなにお金を貯めたがるの? お金使うのに罪悪感を持つっていうか。

「倹約は美徳だ」は日本人ならでは?

【父】実は深い歴史があるんだ。戦争中に「倹約は美徳」「ぜいたくは敵」というスローガンがあって、みんな華美な生活をやめて戦費を支えろって言われてたんだよ。パーマも禁止、洋服もダメで、もんぺを着て質素に暮らせって。

【娘】戦争が終わってもその考え方が残ったの?

【父】そうだ。君のおじいちゃん、おばあちゃん世代は子どもの頃にそれを刷り込まれている。だから「とにかく貯めなさい」って教えるんだ。それに日本人の国民性もある。

【娘】どんな国民性?

【父】たとえば日本人は借金の残高を気にするんだ。「あと何千万円残ってる」って。でもアメリカ人は毎月の支払額を気にする。「月々このくらいなら大丈夫」っていう考え方なんだ。だからリボ払いが広がったのもアメリカが先だった。

【娘】アメリカ人って、そんなに違うの?

【父】全然違うね。アリとキリギリスの寓話になぞらえて、アメリカ人はキリギリス、日本人はアリってたとえられるけど、それも国民性の違いなんだ。それにアメリカ人は投資好きだ。現金や預金を貯め込むより、株や投資信託に積極的に回す。リスクを取るのを良しとする国民性で、長期的に経済が成長してきた実績があるから投資が根づいているんだ。戦争の体験や文化の違いで、お金に対する考え方がこんなに変わる。

【娘】じゃあ、私たちはどうすればいいの?

【父】大事なのは、戦争中のスローガンに今も縛られる必要はないってことだ。倹約すること自体は悪いことじゃないけど、お金を貯めること自体が目的になってしまうのは問題なんだよ。

【娘】つまり、さっきの「残高が減ると不安」っていうのも、そういう考え方の影響?

【父】そうかもしれないね。君の不安も理解できるよ。でも今日は家族で楽しい時間を過ごせた。それこそがお金の本当の価値なんだ。

【娘】なるほど。お金は使うことに意味があるんだね。

【娘】日本人とアメリカ人で、お金の見方が違うんだね。

【父】そう。日本では「倹約は美徳」とされやすい。お金を使うことにどこか後ろめたさを感じる人も多い。でもアメリカでは「お金は回してこそ意味がある」と考えられる。どちらが正しいというより、国民性の違いなんだよ。

【娘】結局、お金って「何に使うか」が一番大事なんだね。

【父】その通り。残高が減ることに怯えたり、割引に振り回されたりするのは手段の目的化にすぎない。本当の幸福は、そのお金で何を得たか、誰を笑顔にできたかにあるんだ。

お金の「その先」にある幸せ

【娘】それなら、お金がたくさんあるほうが幸せになれそう。

【父】それは、半分正解で、半分不正解だな。

【娘】どういうこと?

【父】たとえば家賃や光熱費、スマホ代とか、毎月必ず払わなきゃいけない固定費をちゃんと支払えたとするよね。そうすると「とりあえず生活は回ってる」っていう安心感は得られる。不安は消えるし、マイナスからゼロに戻ったということになる。これはすごく大事なことだし、立派なことなんだ。

【娘】うん。確かにそれが払えなかったら大変だもん。

【父】そうだろう? でも、家賃を払って屋根のある場所で眠れて、電気や水道が通っていて、スマホがちゃんとつながる。それだけで「幸せ」って言えるかというと、そうじゃないよな。衣食住が整ったことは出発点であって、そこから先に何を積み重ねるかが幸せを左右するんだ。

【娘】出発点か。

【父】そう。たとえば今日のお寿司だって、お腹を満たすだけならもっと安く済ませられた。
でも君と一緒に食べて、話して、母さんや息子へのお土産を選んで…… そういう時間があったから「楽しかった」「幸せだった」って思えるんだ。つまり、ただ生きるだけじゃなく、誰と、どんなふうに過ごすかが大事なんだよ。

【娘】確かに。学校でも、ただ授業を受けるだけじゃなくて、友達と話したり部活をやったりするほうが楽しいもんね。

【父】そうだろう。仕事でも同じだ。生活のために働くだけならゼロに戻す作業で終わってしまう。だけど、自分がやりたいことに挑戦したり、人の役に立ったりすることで「幸せ」が積み重なっていくんだ。お金もそれと同じ。貯めること自体が目的じゃなくて、「どう使うか」「どう生きるか」と結びついて初めて意味を持つんだね。

本当の自由を手に入れるお金の減らし方
上野 泰也(うえの・やすなり)
株式会社マーケットコンシェルジュ代表。元・みずほ証券チーフマーケットエコノミスト。
1963年青森県八戸市生まれ、育ちは東京都国立市。85年上智大学文学部史学科卒業。法学部法律学科に学士入学後、国家公務員I種試験に行政職トップで合格し、86年会計検査院入庁。
88年富士銀行(現みずほ銀行)入行。為替ディーラーを経て為替、資金、債券の各セクションでマーケットエコノミストを歴任。2000年みずほ証券設立後、25年6月までチーフマーケットエコノミスト。
質・量・スピードを兼ね備えた機関投資家向けのレポート配信、的確な経済・市場予測で高い評価を得て、「日経公社債情報」エコノミストランキングで2002年から6年連続で第1位、その後身の「日経ヴェリタス」エコノミストランキングで2011年、16~21年に第1位(トップは通算13回)。2025年7月にマーケットコンシェルジュを設立、代表に就任。

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