本記事は、財務コンサルタント・税理士のはたけ氏の著書『なぜ、「節税」しているのにお金が残らないのか? 財務に強い社長だけが知っている“つぶれない”経営』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。
なぜ予実管理が必要なのか?
「当期も利益がほぼ残らないよ。何をどうしたらいいかわからない」
税理士事務所のスタッフ時代に、顧問先の社長が私にこぼしました。
20代の私は「人件費を削りましょう」「設備投資は後回しにしましょう」など、今思えば恥ずかしいアドバイスばかりしていましたが、今ならしっかりしたアドバイスができます。
それは、「毎月、予実管理をしっかりやりましょう」ということです。
何をどうしたらいいのかわからず、年に一度の決算のときだけあれこれ考える。そんな経営者が倒産に向かってしまうのです。
予実管理とは、「予算」と「実績」を比較して経営の方向性を修正していく管理手法です。
3月決算の会社なら、年明けから2ヶ月間くらいかけて翌期の予算を作成し、遅くとも3月にはその予算を完成させます。過去の実績値と、新入社員の入社など翌期に発生することがわかっているものや確度の高いもの、また目標値を念頭に置き、翌期の予算を作成します。
予算作成は次の手順で行うことが重要です。
■予算作成の手順
① 経常利益を決める
② 固定費を決める
③ 粗利率を決める
④ 売上高を決める
よくある悪い例を1つご紹介すると、「当期比で売上高110%」などと、売上高から翌期の予算を作成してしまうことです。このような予算の立て方をする社長に対して、「なぜ当期比で売上高110%なんですか?」と質問すると、「右肩上がりの売上高のほうが良いから」ぐらいしか返ってきません。なんとなく、予算を決めているのが現状なのです。
その場合、私は次のような話をします。
「まずは個人の場合で考えてみてください。年間にいくら貯金したいですか? 貯金するためには、家賃や教育費などの固定費を下げることは許容できますか? 許容できるなら固定費を下げましょう。許容できないなら、固定費はそのままにして給与を上げる努力をしましょう」
つまり、個人の場合では次の手順になります。
① 手取り(貯金額)を決める
② 固定費を決める
③ 給与を決める
このように、まずは個人をベースに予算の立て方をイメージしてもらいます。個人と会社で違うのは、会社には変動費(仕入や外注費など)があるということです。そのため、会社の場合は、変動費を下げられるかどうかも検討する必要があります。
- 経常利益を決める
- 固定費を下げられるか、下げられないかを決める
これにより、粗利(限界利益)が算出されます。 - 変動費を下げられるか、下げられないかを決める
これにより、売上高が算出されます。 - 売上高を単価と客数(数量)に分解して、それぞれを決める
売上高は、客数(数量)は変更せずに単価を変更するのか、単価は変更せずに客数(数量)を変更するのか、単価と客数(数量)の両方を変更するのかを決定します。これを商品別・製品別・サービス別・顧客別に行って、最後に合算して売上高を導き出します。
このようにして翌期の年間の予算を作成し、その予算を1ヶ月ごとに分割していきます。単純に12等分すればよいものと、社員の増減や給与の変動があるため、12等分が適さない場合があります。あらかじめわかっているものや確度の高いものは、予算に反映させることが重要です。
予算を立てた期が始まったら、期首から月ごとの実績を集計します。
毎月行うことが重要です。理想は、毎月5営業日までに前月分の数字を確定させること。遅くとも10営業日までには確定させてください。
実績が出たら、予算と実績を対比して分析し、良かった点と悪かった点を洗い出します。そのうえで会議を開き、前月を振り返ります。
良かった点の共有はもちろんのこと、悪かった点については、部長や課長などの管理職に改善を指示し、あるいは改善策を考えてもらい、全社一丸となって改善していくのです。
私が一般企業の財務部長だったころは、早ければ1営業日目、遅くとも2営業日目の午前中には前月の数字を確定させていました。そして数日後の経営会議で、社長・役員をはじめとした幹部社員に対し、変動費・固定費・損益分岐点売上高を明らかにするとともに「予実対比」の数字を示しました。前月を振り返り、予算を達成できるように、次の経営会議までの役割を各々に与えていました。
この習慣が身につくと、「節税しなければならない」ではなく、「どれだけ利益を確保できるか」で判断できるようになります。
経営者が会社をつぶす最大の原因は、会計を疎かにすることです。
毎月の利益、そしてお金の動きを感覚でしか把握していない会社は、必ず資金繰りでつまずきます。つまり、経営の最大のリスクは「見えていないこと」。
その“見えない経営”を“見える化”し、行動に移すのが予実管理です。
■“手遅れ”を防ぐための予実管理
たとえば「当期の売上高は5億円を目標にする」と決めたら、毎月の売上を予算として立てます。そして、実際の数字がどう動いたのかを月次で照らし合わせ、予算との差を分析します。
もし売上が予算を下回っていれば、「原因は客数なのか、単価なのか」を探る。また、「商品別・製品別・サービス別」「前期比」などを、データをもとにチェックする。これは売上が予算を上回った場合も同様で、このような分析をかけていきます。
- 売上高の増減
- 粗利率の増減
- 固定費の増減
- 経常利益の増減
上記は必ずチェックしましょう。これを繰り返すことで、経営を“数字でコントロール”できるようになります。
予実管理がない会社の多くは、決算を迎えて初めて「当期の赤字」などを知ります。税理士から決算書を渡されたときに、「もう少し早くわかっていれば手を打てたのに」と悔やむのです。しかし、決算の数字は“過去の結果”でしかありません。
予実管理をしていれば、毎月決算を行うことになるので、もっと早い段階でその兆候に気づけたはずです。
「上期を終えたが、固定費をまかなうだけの利益を確保できていないから、下期からの値上げはやむを得ない」
「2ヶ月後に新人の入社が控えている。新人が入社すると◯円かかるから、損益分岐点売上高は△円の確保が必要だ」
このように、予実管理があれば“手遅れになる前”に対処できるのです。
■銀行の評価が上がる
また、予実管理は銀行対策としても非常に効果的です。
銀行は「数字で説明できる経営者」を信用します。「当期の予算と実績をこのように管理しており、今後はこのように見込んでいます」と説明できる会社は、融資審査で高く評価されます。
逆に、「経理は税理士任せで数字はよくわかりません」と言う社長には、銀行はお金を貸したくないでしょう。数字を把握していることが、信用力の証なのです。
さらに、予実管理を通じて「経営の精度の高さ」が得られます。
予算を立てるときに、自然と「翌期はどんな戦略を取るか」「どこに投資するか」を考えます。
つまり、予実管理は単なる数字合わせではなく、経営計画そのものを磨く行為なのです。目標の利益、そして、売上と経費の全体像を把握することで、社員にも「今、会社はどこに向かっているのか」を共有できます。
数字で語れる会社は、組織が一枚岩になりやすいです。現場のモチベーションも、自然と高まります。
節税ばかりを考えているとお金が貯まりにくくなり、予実管理をしているとお金を残しやすくなります。
両者の差は、3年後には明確に現れます。節税重視の会社は、利益を削ってお金を失い、チャンスを逃します。予実管理を重視する会社は、数字を味方にして戦略的にお金を増やしていきます。
「会社を守るのは節税ではない。数字を見える化してお金を残すこと」
これが、私がのべ1,000社の会社を見てきた中で、断言できる真実です。
予実管理を導入すれば、会社の未来は見えるようになります。見える会社は、つぶれません。
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