この記事は2026年7月30日に三菱UFJ信託銀行で公開された「不動産マーケットリサーチレポートvol.311『東京都心における立地・部屋面積と賃料単価』」を一部編集し、転載したものです。
目次
この記事の概要
• 立地・部屋面積の組み合わせに着目し、東京都心における賃貸マンション市場を概観
• 都心5区でも、エリアによって商品構成に違い
• 湾岸エリアで高所得世帯、富裕層世帯のニーズを狙う動きも
立地・部屋面積の組み合わせに着目
マンションに投資、開発するにあたっては、立地、専有面積、仕様等を組み合わせて収益をどのように最大化するかを検討する。その組み合わせは無限であり、包括的に把握することは難しい。とりわけ、大型住戸<1>はエリアによって賃料単価が異なるが、これはファミリー世帯と国内外の富裕層のニーズが混在し易いためである。エリアによってその混在のグラデーションの濃淡が異なり、例えば、グローバルにブランド力の高いエリアでは富裕層をターゲットとした住戸、職住近接性が魅力となるエリアでは都心通勤世帯の予算に合わせたリーズナブルな住戸が供給され易い。
本稿では、株式会社estieが提供する情報サービス「estieレジリサーチ」に登録された東京23区の2025年の募集情報10万件を用い、「立地・部屋面積の組み合わせ」に着目して行政区、エリア毎の賃料単価を概観する<2>。なお、本稿では、賃貸専用マンションに限らず、分譲マンションの賃貸住戸を含めた市場全体を対象とする。
行政区間の比較:エリアによって単価設定のパターンに違い
本稿では、行政区間の大まかな比較と、行政区内の詳細な分析の2通りのアプローチを行う。本節では前者の分析を行い、東京都心5区の賃料単価の傾向を把握する<3>。具体的には、ヘドニックアプローチを適用し、築年数、駅からの距離等の条件を標準化<4>したうえで、専有面積帯別の推定賃料単価(条件設定:築年数10年、駅徒歩分数5分)を示す。これらを比較することで、行政区ごとの特徴を浮き彫りにしていく。
1:本稿では80㎡以上の住戸を大型住戸と定義する。日本不動産研究所・アットホーム・ケンコーポレーションが2024年度下期まで公表していた「住宅マーケットインデックス」が挙げられる。同インデックスでは、40㎡未満を単身者タイプ、40㎡以上80㎡未満をファミリータイプ、80㎡以上を大型タイプと分類していた。そのうち、大型タイプについては、「≒高級タイプ」と表現している。大型住戸に高級賃貸住戸が多いとされる一例である。
2:賃料設定の背後にある部屋・共用部のグレード、マンションシリーズのブランド力、開発上の事情等の分析については次稿以降の課題とする。
3:その他東京23区については、Appendixにて専有面積帯別の推定賃料を掲載している。
4:行政区によってマンションストックの状況は大きく異なっており、例えば物件開発が減って築古化が進む行政区もあればその逆もあるため、地域間での比較にはこうした標準化が必要になる。
同じ東京都心であるにも関わらず、東京都心5区の賃料単価は行政区間で大きく異なる。図表2では専有面積帯を6つに分けた推定賃料を示している。単価設定のパターンは大きく2つのタイプ、具体的には、大型住戸の賃料単価が他専有面積帯よりも高いタイプ、安いタイプに分かれていることが読み取れる。本稿では簡易的に、18㎡以上30㎡未満の住戸よりも80㎡以上の賃料単価が高い場合をプレミアム型、安い場合を通常型とする。
この区分では、東京都心5区では千代田区、港区、渋谷区がプレミアム型、中央区、新宿区が通常型となることが分かる。一般的に賃料単価は、自然体では、面積が広くなるほど低下しやすい。同じ仕様であれば、水回り設備等の固定的費用の比率が下がるためである。プレミアム型の行政区においては、高所得の世帯や国内外の富裕層のニーズ等、高額の賃料を支払っても居住者が実現したいと考えるニーズを捉える何らかの特徴を持つ住戸が、他よりも多く混在すると想定される。高級仕様の賃貸マンションや分譲マンションの賃貸住戸が多い傾向があるかもしれない。
図表4では東京23区全体に上記の分析を拡張しているが、通常型の行政区がほとんどであること、賃料水準が高いほどプレミアム型の単価設定が行われているケースが多いこと、が読み取れる。ただし、中央区や新宿区の例のように、賃料水準が相対的に高くても通常型の設定が行われるケースも存在し、一概に賃料水準でタイプ決定されるわけではないことも分かる。
同一行政区内の詳細分析:コスト上昇下で単価設定に変化も
本節では、行政区内の分析を行う。プレミアム型の傾向が強い行政区として港区、通常型の行政区として中央区を例に挙げる。データ群の統計的な特徴を把握するため、本節では箱ひげ図を用いる<5>。箱ひげ図とは、あるデータ群を5つの数値(最小値、データを降順に並べたときの下位25%の値、中央値、上位25%の値、最大値)で要約した図であり(図表5ご参照)、データ群間のデータ分布を比較する際などに用いられる<6>。
観察の結果から読み取れることとして、(1)同一の行政区内においてもエリア毎の居住者ニーズの違いに応じて商品構成に違いがあること、(2)建築費等の高騰が進む中で、通常型のエリアにおいても富裕層、高所得世帯のニーズを狙う動きが見られること、等が挙げられる。
港区全体ではプレミアム型の傾向がある。都心に通勤する独身世帯、共働き世帯向け住戸以外に、富裕層や高所得世帯向け住戸が広範囲に見られる。図表のようにエリア分けを行った場合においても、全てのエリアでプレミアム型であることが読み取れる<7>。
5:箱ひげ図とは、あるデータを最小値、第1四分位数、中央値、第3四分位数、最大値の5つの数で要約した図であり、データの統計的なばらつきを比較する際等に用いられる。第1四分位数とはデータを降順に並べたときの下位25%の値、第3四分位数とは上位25%の値である。箱ひげ図においては、上方に伸びた直線の先が最大値、箱の上辺が第3四分位数、箱内の直線が中央値、箱の下辺が第1四分位数、下方に直線の先が最小値となる。なお、本稿の箱ひげ図では、下方の外れ値を“箱”の下辺-1.5×第3四分位と第1四分位の差、上方の外れ値を“箱”の上辺+1.5×第3四分位と第1四分位の差として図表より除いている。
6:なお、本節の分析にあたっては、住戸条件の標準化処理は行っていない。
7:その他、80㎡超の住戸は築古化が進んでいることも特徴として挙げられる。再開発等で新たに加わる住戸は、財閥系デベロッパーの分譲住戸などが多いため、賃料単価の平均値が引きあがりやすい。
まず、赤坂・六本木・麻布・白金エリア、新橋・芝・三田・高輪エリアでは、80㎡未満の専有面積帯において月坪1万円台後半から2万円台前半が平均的な設定となっている。ただし、特に赤坂・六本木・麻布・白金エリアでは、箱ひげ図の“ひげ”が2.5万円、3万円超に伸びているように、専有面積が広くなるにつれて中央値はやや右肩上がりとなる。80㎡以上については、募集情報を確認すると、財閥系デベロッパーによる賃貸マンションブランド、分譲マンションブランドの住戸が増える。中央値の切り上がりとともに“箱”の高さも高くなる。月坪3万円以上に設定される住戸も珍しくはない。
一方、芝浦・港南・海岸エリアでは、80㎡未満の専有面積帯において特徴がある。中央値はやや右肩下がりとなる。特に60㎡以上80㎡未満の中央値が月坪1.6万円であり、データを降順に並べたときの下位25%の値である箱ひげ図の“箱”の底辺も月坪1.2万円弱である。交通利便性に比しての割安さを求める都心通勤のファミリー世帯中心の市場が形成されていると思われる。ただし80㎡以上では中央値が切りあがると同時に、“箱”の高さが高くなり、賃料のばらつきが大きくなることが観察される。財閥系デベロッパーによる賃貸マンションブランドの高単価の住戸等も混在するようになることが確認される。眺望や豪華な共用設備が魅力となる超高層のタワーマンション等が港区内の他エリアとは違う形で、富裕層、高所得世帯のニーズを捉えていると思われる。同じ行政区内においても、エリア毎の居住者ニーズに応じて商品構成に異なることが観察される。
中央区全体では通常型であり、主に都心に通勤する独身世帯、共働き世帯向け中心の商品構成となっている。図表8のように3つにエリア分けを行うと、銀座・築地エリアはプレミアム型、日本橋エリア、月島・勝どき・晴海エリアは通常型となる<8>。ただし、銀座・築地エリア、日本橋エリアについては、80㎡以上の住戸のサンプル数は少ないため(今回の分析ではそれぞれ20件未満)、参考値として掲載している。
3エリア共通する傾向として、80㎡未満の専有面積帯において賃料の中央値は右肩下がりに低下している(銀座・築地エリアでは月坪2万円から1.6万円、日本橋エリアでは月坪1.9万円から1.6万円、月島・勝どき・晴海エリアでは月坪1.8万円から1.6万円へ低下)。通常型の設定が優勢であることが分かる。
8:その他、全体的に築年数が浅いことからも明らかなように、HARUMIFLAG等の分譲マンションに限らず、マンション供給が近年多いことも注目される。小規模オフィスビルや商業ビル、戸建住宅の跡地に建てられる1Kから1LDKの住戸によって構成された、都心に通勤する独身世帯、DINKs世帯向けの賃貸専用マンションが典型的な供給例である。
中央区については、80㎡以上の住戸の賃料単価も注目される。まず、銀座・築地エリア、日本橋エリアでは月坪2万円から3万円程度のデザイナーズマンションや分譲マンションの賃貸住戸等の供給が一部見られる。月島・勝どき・晴海エリアでは、分譲マンションの賃貸住戸を中心に一定の市場が形成されている。同エリアでは60㎡以上80㎡未満から80㎡以上の間で中央値が切りあがっていることが注目される。現状、箱ひげ図上の外れ値(ドット)の位置づけではあるが、築浅の分譲マンションの一部で賃料単価が2.5万円を超える事例も直近複数見られるようになっている。港区の芝浦・港南・海岸エリアと同様に、湾岸ならではの眺望等を求める富裕層、高所得世帯のニーズを狙った動きとみられる。分譲マンションの賃貸住戸が中心ではあるが、「実際、一定のニーズがある」と市場参加者からの声がある。建築費上昇下、このような動きが賃貸マンションに広がる可能性も考えられる。
単価設定の背景分析、多時点分析は今後の課題
本稿では東京都心5区の部屋の広さに応じた賃料単価の違いを観察した。結果として、千代田区、港区、渋谷区ではプレミアム型、中央区、新宿区では通常型の賃料設定が行われていることが分かった。また、同一の行政区内においてもエリア毎の居住者ニーズに応じて商品構成が異なること、通常型の行政区においても新たなテナント層として富裕層、高所得世帯のニーズを狙う動きが見られること、等が確認された。当然ながら、単価設定の背後には、それに見合った仕様やブランド戦略の違い、開発上の事情等が存在する。また、今回は一時点の断面を分析したが、時間を通じたエリア賃料単価の相対的位置づけの変化等も想定される。次稿以降ではこれらの課題にも取り組みたい。
Appendix. 東京 23 区(都心 5 区以外)の専有面積帯別の賃料単価




