激化する富裕層ビジネス 

富裕層の取り込みに本腰入れる金融機関

近年、金融機関の富裕層向けビジネスの激化が著しい。メガバンク系では、三井住友銀行が2014年10月に外資系のソシエテジェネラル信託銀行を買収完了するなど、プライベートバンク業務を強化している。また、12月25日には同行子会社のSMBC信託銀行が、シティバンク銀行からリテールバンク事業を取得することに合意したと発表しており、今後はより富裕層向けビジネスに力を入れていくことになる。

上記に限らず、各金融機関で富裕層向けサービス『プライベートバンク』部門の強化や、金融グループ内の銀行、証券、信託、保険のワンストップ化に動いている。各社が富裕層ビジネスに特化する理由は、過去に1億総中流と言われ貧富の差が少ない国と称されていた日本での富裕層の増大にある。富裕層の増加により、これまでのサービスでは様々な取引へ結びつけることが困難になっているためだ。

また国内は、少子高齢化、中小企業の後継者不足などにより、市場自体が変化している。

地方銀行を例に挙げると、少子高齢化や中小企業の後継者不足による廃業や事業の停滞から融資先が消失、遺産相続で地方から都市部へ資産が流出するなどが考えられる。

また、証券会社を例に挙げると、主要顧客の高齢化が進んでいるなか、従来の対面型では遺産相続による預かり資産の流出への対応が喫緊の課題となっている。最悪の場合、相続人は安価な手数料が魅力のネット証券へ資産を移してしまうこともある。

各金融機関の現状に共通して言えることは、「相続・事業承継」の提案が一個人のみならずファミリー全体の取引に繋がり、新しいビジネスへの可能性を生み出すことができるということだ。そのためには、資産のある顧客の悩みを解決する必要がある。

富裕層が本当に求める提案とは?

一般的に、富裕層には「資産を増やしたい」「万が一に備えて資金の準備をしておきたい」といったニーズは少ない一方で、「減らしたくない」という保守的な意向が大きく、売却できない資産比率も高い。

では、富裕層は具体的にどのような提案が求められているのだろうか。相続・事業承継、金融商品、信託を例にみていく。

まず、相続・事業承継についてだが、今年から相続税の基礎控除額が大幅に下がり、相続税・贈与税の最高税率が引き上げられた。一方で現安倍政権は、法人税を減税するといった方針を打ち出している。これは、個人より、法人で収入を受け取る方が、税金が低い可能性があるということを示唆している。そういった環境を踏まえた際に、企業オーナーへの提案例として資産管理会社の設立が挙げられる。一族の株式を集約することで、事業会社の株式の分散防止に繋がり、経営の安定に寄与するといったメリットがある。他にも、株式移転の際に自社株の価値を下げるための運用商品・保険・リースなど様々な商品に精通している必要がある。

次に、金融商品でいえば単純に募集商品を案内するのではなく、顧客の資産全体を考えた上で、中長期目線での提案が求められる。そのため、アセットアロケーションやポートフォリオの概念は深く理解しなければならない。株式や債券のような定番商品は当然ながら、非伝統資産といわれるデリバティブやコモディティといった分野に関する運用商品の知識も必要となる。

最後に信託の活用について言えば、既に欧米諸国がそうであるように、これからの時代、富裕層の相続や事業承継には不可欠のスキームとなることが予想される。例えば信託には、相続人を次の次まで指定できるなど、遺言にはない機能があったり、あるいは非上場株を受益権と議決権に分離して、次期経営者には議決権を集中させ、受益権は相続人で均等に相続させるなど、それぞれの顧客のニーズに応じた仕組みが実現できる。

こうした信託の持つユニークな特徴を活用すれば、オーダーメード的な相続・事業承継対策の提案が可能となってくる。

資産管理のエキスパート「プライベートバンカー」

このように、金融機関担当者に本当に求められている助言は一般的なものではないことが分かってもらえただろう。

そして、そのアドバイスが可能な存在こそが『プライベートバンキング』サービスであり、プライベートバンカー(PB)である。プライベートバンカーとは、資産運用に限らず、税金、相続、不動産のことなど資産全体に関して横串をさすような目線を持つエキスパートのことだ。

2014年8月に電通が行った調査では資産家が信頼できる金融機関担当者の条件として、「関心・懸念事項について知識が豊富」「金融商品・サービスに係る知識が豊富」「金融専門性の知識やスキルに係る資格を持っている」を挙げており、プライベートバンカーとの親和性が非常に高い。また、優先順位が低いものとしては、「親近感」や「金融商品・サービスの推奨・販売」「コミュニケーション能力」などの営業スキルという傾向が見られる。

同調査で金融機関担当者に対するプライベートバンカー 資格の保有希望とプライベートバンカー資格保有者への取引優先度のアンケートを行っており、資格保有希望者は6割を超え、取引を優先させる可能性も6割強と「取引優先は金融機関担当者の資格に関係ない」とする意見は少ない。金融機関のリテール担当者にとってプライベートバンキングビジネスの知識を体系的に身につけることで顧客からの信頼も増すだろう。