昨秋の全米オープン準優勝で一躍、日本人の期待の星となったプロテニスプレーヤーの錦織圭。今年に入っても好調は続き、世界ランキング5位と、いわゆる「ビッグ4」を脅かす位置をキープしている。

その錦織人気の追い風を受けている、テニス関連ビジネスの動向を探るとともに、国際的なプロスポーツとして目覚ましい発展をみせる、テニスの「経済的実力」について考えてみよう。

「錦織銘柄」はおおむね好調

錦織の快進撃は、日本のテニスビジネスの環境にどんなインパクトを持つのだろうか。まず、数字の上で錦織効果を見いだしやすいのは、いわゆる「錦織銘柄」の株価推移だ。錦織とスポンサー契約している企業は、国内外合わせて8社に上るが、そのうち東証一部上場4社の株価上昇率をみてみる。

錦織がラオニッチを破って全米ベスト8を決めた2014年9月1日から、現在(2015年3月下旬)までの約半年で、森永製菓 <2201> 94%、WOWOW <4839> 78%、ユニクロのファーストリテイリング <9983> 38%など、いずれもこの間の日経平均の上げ26%を大きく上回る好調さをみせている。

しかし、専属契約をしている日清食品ホールディングス <2897> の上げはなぜか8%弱とさえない。

このほか、デサント <8114> 、ヨネックス <7906> など、テニス関連の用品、シューズ、衣料などを扱う企業の多くも、概して好調な株価推移をみせている。

テニス人口は年々減少傾向

こう見ると、錦織様様、テニス万歳の感もあるが、ことはそう楽観的ではない。長い目でテニスビジネスの成長を期待するなら、テニス人口の増加が不可欠だろう。かつて1990年代半ばにも、松岡修造や伊達公子などの世界的活躍で、テニスブームが盛り上がったかに思えた時期もあった。

しかし、バブル崩壊後で不況が本格化したこともあって、あっという間に全国のテニスクラブに閑古鳥が鳴きだした記憶はまだ新しい。日本テニス協会による「テニス人口等環境実態調査」(2013年)によると、日本のテニス人口(過去1年間に1回以上、硬式テニスを行った推計人口)は約373万人。10年前に比べて約50万人減少している。

高齢者層では増加がみられるので、若年層のテニス離れは相当深刻である。少子化によるスポーツ離れはテニスに限ったことではないが、減少傾向に歯止めがかからないのが現状だ。

また、テニスコートの面数も2008年までの13年間で3分の2に減少した。公共、職場(厚生施設)のコート減少に加え、民間コートの減少も大きく、民間テニス事業者の厳しい経営状況がうかがえる。

日本テニス協会も人口の縮小に危機感を抱き、10歳未満を対象とする導入プログラムなどのプロモーションを積極的に推進している。
国際プロテニスの人気は長期的トレンド

しかし、自らプレーするテニス人口は減っているものの、テニスを観て楽しむ人の数は増えている。日本テニス協会調べによると、「楽天ジャパンオープン」など、日本で行われる主要3大会の延べ観客数は2012年が16万4千人と、2003年に比べて4割も増加した。

テレビ中継の増加も目立つ。数年前から四大大会(グランドスラム)の中継を行っているWOWOWに加え、今年はNHKもマスターズ1000大会(四大大会に次ぐATPツアーの最高峰)をカバーし始めた。

このほかCS放送や、インターネットの動画中継も含めると、世界中のどの試合でも、日本にいながら観ることのできる環境が整いつつある。観戦人口の増加がスポンサーの増加にもつながるのだ。