ビットコインは企業間ビジネスには使いにくい通貨

物やサービスを購入するときに支払いを済ませる個人取引であれば問題はないが、企業間ビジネスでは事前に決められた日に支払いをするのが一般的である。それゆえ、輸出・輸入企業にとっては売買から支払いまでの期間の為替リスクが問題となり、このリスクを回避するために為替予約が行われている。

こうしたなか、「金利」が存在しないために為替予約が難しいということは、ビットコインは企業間ビジネスには使いにくい通貨ということでもある。

仮に、ビットコインの価格がドルやユーロ、円などと比較して価格変動リスク(ボラティリティ・Volatility)が小さいのであれば、販売契約から資金の受け渡しまでの期間のリスクを企業が取ることも可能かもしれない。

しかし、ビットコインは決済までの変動リスクを負うには、価格変動リスクが大き過ぎる。ビットコインの過去約2年半の価格変動リスクは平均87.4%である。同じ期間のドル円の価格変動リスクは約9.0%であるから、ビットコインの価格変動リスクはドル円の10倍近い。

また、為替より価格変動リスクが高い日経平均株価の価格変動リスクの平均値はおよそ20%であり、ビットコインの価格変動リスクに比較すると4分の1程度に過ぎない。

リスクが高いと思われている日本株だが、価格変動リスクの最高は、1987年10月のブラックマンデー(暗黒の月曜日)長後で約80%、90年のバブル崩壊後では60%であった。こうしてみると、ビットコインの87.4%という価格変動リスクがすさまじく大きいことが分かる。

過去日経平均株価の価格変動リスクが87.4%超まで上昇したのは、リーマンショック後の2008年11月に記録した115%強ただ1回だけである。つまり、企業が販売から決済までの期間の為替リスクをとるのはとても無理な話しなのである。なにしろ、毎日リーマンショック直後の日経平均株価くらいの価格変動リスクを負うことになるのだから。

ビットコインは品物やサービスの受け渡しと決済が同時に行われる個人取引においては拡大する余地はあるが、ビジネスシーンで利用が広がっていく余地はそれほど大きくはない。

ビットコインの課題は「市場の厚さ」

個人取引でのビットコインの利用が拡大して市場の厚みが増して行けば、価格変動リスクは低下して行くという主張も出て来るはずである。確かにそれは考えられることである。しかし、為替市場の価格変動リスクを小さくするために不可欠なのは「金利裁定」が効くことである。

これまで1985年のプラザ合意を受けて1ドル240円前後であったドル円が1ドル120円台まで急騰(ドル急落)し市場が大混乱に陥ったこともあった。もし当時為替市場でデリバティブ取引が存在していなければ、ドルの買い手がいなくなり、世界経済はもっと大きな混乱に陥った可能性がある。

不安定な「相場観」ではなく、無機質な「金利裁定」によってその通貨を購入することが出来る参加者がいてはじめて市場の厚みが増し、価格変動リスクが低下して行くのである。

「中央銀行の関与がない」というビットコインの強みは、同時に「金利が存在しないことで市場に厚みが生まれにくい」という弱点でもある。こうしたビットコインの弱点を考えると、ビットコインがドルやユーロ、円など「中央銀行の関与が強い通貨」にとって替わって行くには金融面での限界があるといえそうだ。

近藤駿介 (評論家、コラムニスト、アナザーステージ代表)
約20年以上に渡り、野村アセットを始め資産運用会社、銀行で株式、債券、デリバティブ、ベンチャー投資、不動産関連投資等様々な運用を経験。その他、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・運用責任者を務めたほか、投資信託業界初のビジネスモデル特許出願を果たす。現在は、 「近藤駿介流 金融護身術、資産運用道場」 「近藤駿介 In My Opinion」 「元ファンドマネージャー近藤駿介の実践資産運用サロン」 などを通じて、読者へと金融リテラシーの向上のための情報発信をおこなう。