今回から「相続」をテーマに法務・税務についての記事を執筆させていただいていこうと思います。相続についてご関心のある多くの方にお読みいただけるよう幅広いテーマで執筆させていただきたいと考えています。
どうぞよろしくお願いします。
相続について考えるということ・コミュニケーションの重要性
相続というとどうしても嫌煙したいテーマではないかと思います。
どなたでも「死」を連想してしまう相続は話したいテーマではありません。また、相続に絡み「お金」「遺産」といった話も発生してしまいます。相続についての話をしていくその中で、家族の中で気持ちのすれ違いが生じてしまい、ときにはケンカになってしまうこともあるかもしれません。今まで考えたこともないような家族のメンバーの心中が垣間見えてしまうこともあるでしょう。このような「死」「遺産」「もめごと」こういったことを話したくないのは人として当然の感情です。
しかし、相続は誰にでも訪れることもまた確かです。その時になって全く話し合いができていなければそれこそ「遺産」をめぐり「もめごと」が起きてしまいます。相続を巡って権謀術数・陰惨な泥沼争いが生じる可能性はどのご家庭にも存在します。夏目漱石は小説「こころ」の中には「平生はみんな善人なんです、 少なくともみんな普通の人間なんです。 それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです。」といった
一文があります。人間である以上、どの方でも良い面と悪い面が心の中にあります。相続という場面は心の良い面と悪い面のどちらもが表に出てしまう可能性のある場面と言えます。
そういった相続の場面で、心の「悪い面」ではなく「良い面」によって乗り切るためにはなにより普段からあえて触れにくいテーマである「相続」ということに関してコミュニケーションを取っておくことが大切です。相続は、事前のコミュニケーションが半分、民法や税法などの法技術半分で解決する問題です。
例えば納税資金という問題について、事前に誰がどれくらい用意できるか、仮に不足しそうな時は誰が援助してあげることが可能かということをあらかじめ話しておくこととで、ご子息間の兄弟の絆が再燃することもあるでしょう。子供の時にお兄ちゃんが妹を助けたような気持ちが沸き上がってくるかもしれません。
また、本当に経済的に辛いということであれば、親御さんがご存命のうちに資金を遺言書などで遺産を多めに分けてあげるということも可能でしょう。
このように相続の問題は、法律は後、コミュニケーションが先です。
私たち行政書士は弁護士さんのようにトラブルは扱わない法律家です。その分、手続きの中でコミュニケーションの重要性を深く感じます。税理士さんも同じではないでしょうか。
相続人・被相続人の方の意思がはっきりしてさえいれば泥沼の法廷闘争を避けるためにいくらでも事前の予防案はありますので、相続については事前にしっかりと話し合いをされていただきたいと心底願う次第です。
なお、テーマによってはご家族で決して離せないという内容もあるでしょう。例えば、いわゆる隠し子さんがおられるような場合です。このようなケースについては別の機会に触れたいと思います。
相続についてのポイント1・法律上のテーマと背後の感情面~まずは思い出話から
さて、具体的な話としましては、法律的な面から相続を突き詰めると、
相続とは
①遺産が承継されるので、その分配を不満がないようにしておくこと。
②負債も承継されるので、どのように負債に対処するかということ。
③相続税が生じる可能性があれば節税対策と納税資金を捻出すること。
この3点が最終的には主要な話し合いのテーマとなります。他にはお墓など(祭祀財産といいます)をどなたが承継するかなどもテーマとなり得るでしょう。
ただ、基本的には相続は法的には上気3点をテーマとして話し合い・対策をしていくことになります。
しかし、実際には法律の結論が出るまでには、実は非常に多くの感情的な軋轢や問題が重なり合います。相続の話をすると、なぜか人は自然に過去の思い出をさかのぼります。相続は「家族の総決算」と言われることもあり、一生分の家族中の思いが思い起こされます。
そして、その思いが法律や税金という問題を通して反映されます。
例えば、「子供の頃に塾に行かせてもらえなかった、だから塾に行って勉強した弟の方が多く相続税を払うべきだ」ということや「家のために会社を辞めて家業を継いだんだ、これ以上負債を負うのはまっぴらだ。将来の遺産分割では弟が負債を承継しろ」などといった会話が交わされることがありえます。
冷静に考えれば塾に行かなかったことと相続税の支払いは何も関係がありません。しかし、家族で「自分だけが負担を負っている(特にご長男・ご長女に多いと言えます)」と感じておられる方は意外に多く、それが相続という問題を通して不満が噴出しえます。親御さんの思いもつかない不満や思いがご子息の心の中には渦巻いていることがあります。
このように相続の話し合いは基本的に感情の話し合い場です。
しかしこの点は逆に、些細なことが子息の琴線に触れることもあるということを示します。例えば「子供の頃、お兄ちゃんはどうしても眠らないから眠るまでおんぶをして歩いたなあ」などといった一言が心に触れることもあり、感情的なしこりが消えて上記の3つの問題解決がスムーズとなることもありえます。
相続についてはまずはゆっくりと思い出話をしながら次第に①~③というテーマに近づいて話すということがとても大切ということができます。