(この記事は2015年5月21日に掲載されたものです。提供: Leeways Online

2014年にヘルスケアリートが上場したことにより、J-REITのアセットバリエーションが増えた。J-REITのアセットタイプは、その運用資産からオフィス、住宅、商業、ホテル、物流、ヘルスケアに分類される。また複数のアセットタイプが混在した総合型REITもある。

昨年はJ-REITの時価総額が4割程度膨らんだが、アセットタイプ別に見ると大きく成長したものと成長が見られなかったものに分かれた。そこで今回は、そのアセットタイプ別に、資産額を伸ばしたREITとそれほど伸ばせなかったREITについて見てみることにしたい。


用途別不動産額の変動推移

まず、不動産証券化協会が発表している2014年のJ-REIT用途別不動産額の変動推移を見てみよう。

2014年1月から2015年1月の不動産額の変動率をアセットタイプ別にランキングする。すると、1位がホテルで31%、2位が物流の18%、3位がオフィスの13%、4位が住宅の11%、5位が商業の7%となった。ホテルREITや物流REITはかなり積極的に物件を購入した。

一方で、商業は7%と一番低く、好景気という状況下でも物件の取得は低調だった。


産業構造の変化に着目 ホテルの利用目的の変化

なぜこのような結果になったのか、産業構造の変化から見てみよう。

ホテルについては、昨年外国人観光客が増加したことにより、宿泊ニーズが増えた。J-REITのホテルはビジネスホテルを扱うものが多いが、昨今のビジネスホテルの稼働率は土曜日が一番高く、月曜日が一番低いという傾向を示している。これが意味するのは、ビジネスホテルを観光で利用するニーズが増えているということだ。ビジネス目的ではなく「外国人が都内の安くて清潔感のあるビジネスホテルを利用する」というように、その産業構造に変化が見られている。
一番人気のあったホテルREITであるが、現在は観光というレジャー利用に支えられているため、不況になった時、直接その影響を受ける可能性がありそうだ。


商業・物流に見られる産業構造の変化とは

一方で、物流についてもその産業構造に変化が見られている。1つはネット販売による電子商取引の拡大だ。スマートフォンの普及が電子商取引の利便性の向上に影響し、更なる需要を生み出している。この構造変化がリアル店舗の動向に関連し、商業REITにダメージを与えているとみられる。物流REITは大きく成長しているものの、商業REITの成長率は最も低かった。
消費者の行動が、店舗に足を運んで、実物を手に取って確認してから購入を決めるというスタイルから、ネットで見て、通販で買うというスタイルに変わってきている。そのため、ネット通販用の倉庫の需要が高まり、実店舗である商業施設の需要が弱まっていると考えられる。

また、倉庫の工場化も変化の一つとして挙げられる。最近の大型倉庫では、組み立てや梱包といった単純作業を実施している。物流会社はタイムリーに商品を発送でき、また工場側も在庫を抱えなくて済むというように、双方にメリットがあるためだ。このような産業構造の変化が大型倉庫の需要を底堅くしているといえるだろう。


オフィスの構造変化 新築のフリーレントが当たり前

次に、オフィスビルの産業構造の変化についてはどうであろうか。J-REITに組み込まれているオフィスビルは、大型のマルチテナントビルが多い。一棟貸しが多いホテルや物流に比べ、空室リスクのリスク分散は図れているものの、空室率が賃料に直接影響してしまう。

特に、オフィスについては、昨年では、賃料の劇的な回復は見られていない。オフィスビルの産業構造の変化という意味では、団塊の世帯の退職に伴い、就労人口が減っているにもかかわらず、オフィス供給が増え続けていることだろう。オフィスは、一旦供給されてしまうと、50年以上にわたり、そのビルはオフィススペースを供給し続けることになるため、供給量の調整は難しい。そのため「新築オフィスはフリーレントが当たり前」という産業構造の変化を生んでしまった。


住宅の構造変化 単身世帯はシェアハウスへ流れるも需要は堅調

住宅に関しては、昔から賃料のボラティリティこそ低いが、東京23区内では厳しいワンルーム条例が規制されているため、供給量が少ない。晩婚化や高齢化により単身世帯は増えつつある。そのため、産業構造の変化としては、若い単身世帯がシェアハウスに流れているという状況が生まれつつあるものの、住宅需要は今後も底堅いと見られている。


景気変動に強いREITは物流と住宅

このように産業構造の変化から見ると、アセットタイプとして物流や住宅は景気変動に強いといえよう。一方で、ホテルは余暇需要に支えられているため、景気の反動を受けやすい。また、オフィスや商業については賃料回復が上昇のきっかけになると思われるが、その兆しは未だ不透明なままだ。

2020年の東京オリンピックまでは好景気が続くとの見方が強い。既述のような産業構造の変化にも着目しつつ、購入を検討するのが良いだろう。

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