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(この記事は2015年4月29日に掲載されたものです。提供: Vortex online


不正なIPO企業の続出

アベノミクスによる経済効果によって、長く沈滞していた日本の株価は徐々に上昇に転じてきており、本格的な景気回復への期待感が高まっている。ただ、そのような明るい話題に冷水を浴びせるような事態が他ならぬわが国の株式市場で発生している。

円安効果もあって活気を呈し始めた株式市場には、新規株式公開(IPO)企業が2013年以降から増え始め、当時の経済界はIPO企業の増加がまさに景気回復の象徴であると歓迎した。

しかしながら、自社の上場を不正な目的によって利用するIPO企業が続出し、大きな社会問題となっている。本来、業績のよい未上場企業は、次のステップとして株式市場に上場し広く一般投資家から資本を集め、さらに会社を大きくしようとする。すなわち、未上場企業にとって上場は会社発展の手段であるはずのものだ。

ところが、残念なことに自社の上場によって不正な利益を得ようとする経営者がIPO企業の中に少なからず存在しており、株式市場を混乱させている。


上場後に発覚した不祥事

問題となったIPO企業の実例を以下に紹介しよう。

1、原発事故以降に急成長した新電力企業のE社は、2013年10月の上場時には大いに注目を浴びたが、上場直後に取引上の不正会計が発覚し、2014年12月には創業時からの経営者が引責辞任するという事態になった。

同社は2011年に11億円だった売り上げが2014年には10倍以上の124億円に達していたものの、利益率は横ばいという不明朗な経営実態も暴かれている

2、液晶ディスプレイの製造企業として創立されたJ社は大手家電企業3社のバックアップもあり、創業から約3年半後の2014年3月に上場した。

ところが、上場直後に3度も業績の下方修正を発表したことで同社の信頼度は失墜し、株価は一気に公募価格の3分の1にまで暴落するという事態を招いた。上場前に、正確な業績予想を故意に隠蔽していたのではないかという疑惑が持たれている

3、「ベンチャー企業の旗手」としてもてはやされ、鳴り物入りで2014年12月に上場したのがスマホゲームの開発で業績を伸ばしたG社。

しかし同社は、なんと上場2ヶ月後に業績を下方修正したばかりか翌2015年4月期には4億円の営業赤字を計上するとの見込みを公表した。株価は公開時の3,300円から半分以下の1,400円台まで急落し、「最悪のIPO企業」とまで酷評された


不名誉な俗語「上場ゴール」

上記の他にも、初めから上場後の株の売買益だけを目論んでいたとしか思えないIPO企業が相次ぎ、これらの企業の実態を総称して「上場ゴール」という俗語まで生まれた。

本来は手段であるはずの上場を、ただ利益確保のための目的=ゴールとしてとらえ、上場によって不正な利益を得ようとする行為を揶揄した業界用語として、「上場ゴール」は一般にも知られる流行語となりつつある。

このままでは株式市場全体の信頼性が大きく揺らぐと事態を重く見た日本取引所グループ(JPX)は、各証券会社や監査法人に対してIPO企業の審査の厳格化を通達し、投資家に対する信用回復に努めている。

未上場の中小企業にとっては、上場は企業のステータスシンボル的な意味を持っている。業績が好調で「○年後には上場を」という全社的目標を掲げて努力している企業も少なくない。「上場ゴール」との烙印を押された企業にしても、創業時の理念を忘れ上場によって得られる多額の資金に目がくらみ、いつしか「上場ゴール」を目指して走る企業に変質してしまったのではないだろうか?

上場を目指す企業の経営者たるもの、これらの不祥事を教訓にして、会社は経営者の所有物ではなく社会的使命を持った公共の組織であるということを強く心に留めてほしいものだ。

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