見えてきた「福祉」が抱える3つの課題

飯田さんが福祉に携わるようになったのは全くの偶然だった。社会福祉法人の設立を準備していた母が亡くなり、必然的に立ち上げに参加することになった。まずは現場を知らなければと、福祉の学校に通いながら、200か所もの福祉の現場を見てきた。そうしているうちに、施設の良し悪しが自然とわかるようになり、「福祉」が抱える問題点が見えてきた。

「問題点は3つあります。1つめは、経験や勘でケアが行われており、エビデンスに基づいたケアが行われていないこと。『看護は新しい芸術であり科学である』これはナイチンゲールの言葉ですが、科学に基づいたケアをしなければいけません。2つめは施設も考え方も閉鎖的であること。たとえば、家の近くにある福祉施設に行ったことがある人がどれだけいるでしょう。これからは考え方もハードもオープンにして、《地域の中のコモンズ》を目指していくべきです。3つめは、福祉の《縦割り》です。高齢者、障がい者、児童など縦割りで行っているので、地域全体をケアできていません」

こうした課題を解決するべく、福祉楽団では「恋する豚研究所」を設立して以降、地域全体のあらゆるケアを行う拠点として「多古新町ハウス」(2013年)、団地の過疎化に目を向けた「地域ケアよしかわ」(2014年)を開設し、この問題に立ち向かっている。


福祉はクリエイティブ ──地域経済を活性化する要に

「多古新町ハウス」は高齢者のデイサービス、ショートステイのほかに、訪問介護や子ども向けのデイサービスなど、地域の在宅ケアを支えるサービスを複合的に提供。また、経済的な理由で学習塾に行けない子どもたちに無料で学習支援を行う目的で「寺子屋」を併設。退職した元教員に苦手科目を教えてもらえるので、連日、近所の子どもたちが集まっている。

「ここに集まる中学生や高校生の生活の中に自然と福祉が溶け込んでゆく。そして、地域のさまざまな問題をケアしていくコモンズになればと思っています」

また新たに、荒れている地域の里山を間伐して再生させる《里山はたらくプロジェクト》を始めている。このプロジェクトが本格化すれば、地域の里山を再生させるだけでなく、若者や障がい者の雇用も生み出せる。さらに農業施設などに薪ボイラーを普及させれば、地産地消のエネルギーとすることも可能だ。こうした新しい薪ボイラーの開発や、循環型エネルギーのパイロットモデルをつくろうと大手の機械メーカーや外食チェーンと連携して取り組んでいる。

「福祉は同じことを再現できないという意味でクリエイティブです。でもクリエイティビティは評価されづらい。だから、クリエイターと協働して対外的に表現していく。また、市場も意識しなければなりませんが、福祉の人たちが考えるべきはローカルなコミュニティ。半径5㎞の人たちが幸せになれるように地域経済をいかに回していくかというのが、僕たちの役割だと思います。いわゆる『福祉』をしているという意識はなく、ソーシャルアクションに近いかなと思います。それが本来の『福祉』の姿ではないでしょうか」

(記事提供: 投資家ネット『ジャパニーズ インベスター』

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