ゆうちょ銀行,上場
(写真=PIXTA)

先日、日本郵政グループのゆうちょ銀行は三井住友信託銀行、および野村ホールディングスとの共同出資で、個人を対象とする資産運用会社の設立を発表した。また、運用責任者にゴールドマン・サックスの副社長を務めた人物を起用するなど、ここにきて攻めの姿勢を見せている。

ゆうちょ銀行は民営化後も民間金融機関とは一線を画した姿勢をとり続け、運用面に関しても国債に重きを置いていたが、今この姿勢が、冒頭の異例人事や金融大手2社に変わりつつある。こうした一連の動きは、上場を意識しているとも考えられる。

【1分でわかる!記事のポイント】
・ゆうちょ銀含む日本郵政3社が6月30日に株式上場本申請
・ゆうちょ銀では運用責任者にゴールドマン・サックスの元副社長が就任
・野村ホールディングスと三井住友投資信託銀行と提携
・ゆうちょ銀行の上場は"ある計画"に則っているが、はたしてIPO株は買いか!?
(読了時間:5分)

>>異例人事や大手金融2社との提携を先読みする


ゆうちょ銀行や日本郵政の大規模組織とは?

11月4日に上場することが見込まれているゆうちょ銀行の貯金残高は約180兆円で民間の三菱UFJフィナンシャル・グループなどのメガバンク3グループを圧倒している。また、直近(2015年3月期)の決算では、日本郵政グループ(連結)の経常収益は14兆円で、ゆうちょ銀行の経常収益は約2兆円を記録している。

データから見てもゆうちょ銀行が非常に規模の大きい組織であることがわかるだろう。このような大型の組織が上場するとなると、市場に少なからぬインパクトを与えるのは想像に難くない。


ゆうちょ銀行上場(IPO)の情報

【ゆうちょ銀行上場の基本情報】
ゆうちょ銀行は6月30日に東京証券取引所に株式上場の本申請を行う。承認されると、上場時期は今年の10月ごろと目されている。主幹事には国内証券7社と外国証券4社の合計11社が選ばれている。

またゆうちょ銀行の上場と合わせて、同グループの日本郵政やかんぽ生命も上場を予定している。これらと合わせると株式上場(IPO)の規模はさらに大きいものとなる。

【郵政3社の上場はNTT上場に匹敵する規模】
ゆうちょ銀行をはじめとする日本郵政グループの株式上場は、1987年のNTT上場に匹敵する規模だとされる。NTTは1987年当時の時価総額で18兆7000億円もの大型上場であった。

日本郵政グループもNTTと同様、大規模な上場だ。そのため巨額の資金流入により市場のバランスが崩れないように配慮しつつ、IPO(上場)時点では最初に1~2兆円程度の売り出しになると予測されている。市場に配慮して一気に売り出せないというのは異例の事態であり、日本郵政グループの上場の規模の大きさを物語っている。

また、政府が日本郵政株の売却によって得た資金のうち4兆円を東日本大震災からの復興財源に充てることが決まっている。今回の日本郵政グループ上場は、復興という大規模なプロジェクトの資金源になるほど多くの金額が動く上場なのだ。

【株式市場への配慮が必要な大型上場】
東京証券取引所にて企業が上場する際のルールとして、発行株式の35%以上を流通させること、と通常では定められている。しかし、日本郵政グループ株式の35%以上が市場に一気に流通すると市場に大きな混乱が生じることが懸念されるため、ゆうちょ上場の際には特例措置がとられる見通しだ。

特例措置の具体的内容としては、はじめは全株式の10%程度を流通させ、市場の様子を見ながら段階的に流通割合を引き上げていく。また、流通させる株式の比率も、50%程度にとどめると予想されている。大規模な上場であるがゆえに、通常とは異なるプロセスを経る必要があるのだ。

<ゆうちょ銀行など郵政3社の株式引受の可能性が高いネット証券会社>
■三菱UFJフィナンシャル・グループのネット証券会社
>> カブドットコム証券の口座開設はこちら(無料)

■岡三証券のグループ会社
>> 岡三オンライン証券の口座開設はこちら(無料)

では上場してから、ゆうちょ銀行及び日本郵政はどうなっていくのであろうか、見ていこう。


ゆうちょ銀行上場後はどうなる?

ゆうちょ銀行,上場
(写真=PIXTA)

【2015年発表の日本郵政中長期計画と経営方針】
日本郵政の上場後を語るには、2015年に発表した中長期計画を見ておく必要がある。日本郵政はこの中長期計画において、「上場を見据えた企業価値の向上」を経営方針の1つに掲げた。

具体的には、ゆうちょ銀行の収益を拡大させるべく、資金運用方針を高度化させることを目指している。これまでは国債での運用が中心となっていたものを、より収益性の高い株式の運用比率を高めていく方針だ。

また、上場後の配当性向については50%以上を目安とする計画を立てており、高い配当性向を目標として定めることで投資家に魅力を感じてもらえるように努力していく姿勢が感じられる。

これは投資家との対話が重視される傾向にある昨今の株式市場の流れを踏まえた方針だといえよう。このように、中長期計画からも日本郵政グループが上場に向けた準備を着実に進めていることが読み取れる。


ゆうちょ銀行上場に向けた収益拡大!民間金融機関との新会社の設立

冒頭で述べたように、ゆうちょ銀行は、金融大手である三井住友信託・野村ホールディングスと提携し、資産運用会社を設立するものと見られる。これら2社と提携することによって民間金融機関のノウハウを吸収し、これまで持っていたサービスのスピーディーな提供につなげていく狙いだ。

具体的に言うと、金融大手2社との提携によって低リスクの預貯金に近い投資信託や「※ラップ口座」も手がけて、全国に2万4千ある郵便局のネットワークを生かして、資産運用に不慣れな顧客に対して売りこんでいく予定としている。すでに資産運用を行っている顧客の取り込みを図るより、現在は現預金などの保有に留まっている顧客にアプローチすることで、市場の拡大を図る計画だ。

また民間の金融大手と連携し新たな商品開発を行うことにより、総預かり資産を3年で3兆円、資産運用商品についても1兆円増加させることを目標としている。こうした取り組みにより、役務手数料収入を拡大するとともに収益の拡大も狙っているようだ。

※ラップ口座・・・個人が証券会社や投資信託と提携し、個人資金の運用、管理や投資のアドバイスを一任するサービスのこと

【三井住友信託銀行のメリット】
三井住友信託にとって、三菱東京UFJなどのメガバンクなどと比べると、どうしても営業拠点網が見劣りしてしまう。営業拠点網をいかに補うかが、大きな課題なのである。

今回の新会社設立でリスクの低い投資信託商品を開発し、全国に2万4千ある郵便局での販売を強化する今回の提携が実現するのなら、三井住友信託の長年の課題を解決する糸口となるのである。

【野村ホールディングスのメリット】
一方、野村ホールディングスの狙いは、資産運用ビジネスの裾野の拡大である。野村ホールディングス傘下の野村証券は2015年3月末、個人から資産運用を請け負う「ラップ口座」の契約残高が約1兆3千億円となり、業界トップに立った。野村ホールディングスは資産運用会社を通じて、ラップ口座に関連した新会社を設立する計画なのであろう。


ゆうちょ銀行の異例人事に見る積極的な資産運用姿勢

2015年5月、ゆうちょ銀行は、運用担当責任者として元ゴールドマン・サックス副社長の佐護氏を起用する人事を発表した。これまで保守的な運用方針をとり続けていた同社にとって異例の人事といえる。

これまでゆうちょ銀行は、約180兆円の運用資産のうち100兆ほどを日本国債に運用を行うという、リターンは多少低くなってもリスクを極力避ける姿勢をとっていた。しかし、上場へ向けた準備として次第に国債の保有比率を減らしてきている。ここからさらに、2017年度までにリスク資産投資を47兆円から60兆円とし運用収益を拡大していく方針だ。

具体的な運用の変更点として、外債や株式への投資を向こう3年間で3割増やすことを予定している。当然リスクは高まるが、佐護氏の力を得て適切なリスク管理を行い、より高いリターンをめざすことが目的だ。

上場すれば株主から収益拡大を求められるであろうことを考えると、上場前に一定の収益拡大方針を定めておくことは有意義といえるだろう。そのための異例の人事であり、方針の変更が明確に市場にアピールできたことになる。上場に向けた道筋をしっかりとらえながら、着実に日本郵政グループは歩みを進めているようだ。


ゆうちょ銀行を含む日本郵政グループの上場株は?

日本郵政が現在持っているゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式を50%以上手放すと新規業務に進出する際に必要な認可が届け出制に変わる。ここから名実ともに民営化の方向が明確になり、完全民営化への第一歩を踏み出すこととなる。

現状、日本郵便の株式を保有しているのは財務省であるが、この株式を日本政府からすべて買い取る資金や、郵政民営化を円滑に進めるための資金として、今回のIPOによって得られる利益が充当されると公表されている。日本郵政・ゆうちょ銀行・かんぽ生命のIPOを成功させることができれば、政府や財務省にとってもプラスに働くというわけだ。

日本郵政グループのIPOについては、主幹事の1社である、「SMBC日興証券」、同じく主幹事である三菱UFJフィナンシャル・グループの「 カブドットコム証券 」、岡三証券グループの「 岡三オンライン証券 」でも取り扱われることが期待される。つまりオンライン証券でも一定数を購入するチャンスがあるかもしれないのだ。

さらに、IPOの成功のためには秋の上場まで株価が堅調に推移することが肝要となるが、幸いなことに2015年6月現在、株価は年初から大幅に上昇している。この状態が続けば、日本郵政グループの株式上場にとって追い風となり、多くの投資家から資金を集めることにもつながるのだ。日本郵政のIPOはまだまだ先だが、今からでもIPOを申し込む用意をしておいてもよいかもしれない。

【上場後の配当性向50%以上という目標】
また日本郵政が中長期計画において「配当性向50%」を目標としており、これは三菱UFJフィナンシャル・グループをはじめとするメガバンクの配当性向20~30%程度と比較しても高い数値である。株主還元の姿勢が重視された時代に相当する高い配当性向を目指しているようだ。

このような高い配当性向を実現するためには、安定的に収益を上げることが不可欠となる。日本郵政は投資運用方針の変更など具体的な方策を示しており、今後、配当政策が実現されるかが注目される。仮に50%の配当性向が継続的に実現できれば、多くの配当金を求めて投資家の資金が日本郵政株に流入することが期待されるだろう。

<ゆうちょ銀行など郵政3社の株式引受の可能性が高いネット証券会社>
■カブドットコム
>> 主幹事証券会社、三菱UFJフィナンシャル・グループの証券会社を見る

■岡三オンライン証券
>> 主幹事証券会社、岡三証券グループの証券会社を見る
※口座開設は無料で簡単5分で申し込み可。

【関連記事】
日本郵政3社の大型上場が日経平均株価へ与える影響とは?
IPO当選確率を上げる方法とは?
IPO株の初値予想のポイントと重要性を徹底解説!
​・ 日本郵政の上場は正しい選択なのか?
2015年IPO注目銘柄?ハリポタで好調のUSJ、上場情報を徹底解剖!