食材の安全性問題で業績が悪化している日本マクドナルド <2702> が、5月中旬に発表した「ママズ・アイ・プロジェクト」。同社商品の製造工程や品質管理についての疑問や意見をインターネット上で募った上で一般の母親らが店舗や工場を視察して商品の安全性を確認し、視察結果を公開するというもの。集まった意見や質問は、月1回実施される意見交換会「ママズ・アイ・テーブル」で提示される。

信頼回復のために、マクドナルドが打ち出した「母親目線」だが、いくつかの疑問が湧き上がってくる。はたしてこのプロジェクトが業績回復にどれだけ寄与するのだろうか?本当に母親はマクドナルドを求めているのだろうか?または母親が求めているものを実現し提供できるのだろうか?

すでに落ち込んでいた業績

改めてマクドナルドの業績の推移を見てみると売上高は、2008年度(プレミアムコーヒー導入期)の4,064億円をピークに減少に転じている。営業利益のピークは2011年度の282億円強で、当時の営業利益率は9.3%であった。売上げ高低下期間も営業利益率は伸びていたものの、2013年(カサノバ社長就任期)に大きく落ち込んだ。事件の前から既に業績はマイナストレンドにあり、業績低下の原因は食材の安全問題だけでないのは明らかだ。

カサノバ社長は就任時に、業績悪化の原因として、価格、メニュー、店舗を挙げたが、いずれもマクドナルド自身の内部要因だ。価格はマクドナルド自身が仕掛けた価格破壊のツケであり、メニューはアメリカ本社主導の体制への変化によって日本市場の変化に柔軟に対応できなかったこと、また店舗は業績悪化がオペレーションに影響し、もっとも重要な衛生管理もおろそかになったことが指摘されている。

また「母親目線」から価格、メニュー、店舗について見ると、かつて訴求力のあったリーズナブルな価格、ファミリーでも日常的に繰り返して利用したくなる価格帯の充実や、決して目先の商品バリエーションの展開だけではない安心・信頼のおけるメニューの提供、顧客との最大のタッチポイントである店舗オペレーションの改善によるサービス向上と食材・衛生管理、などの点が重要課題として挙げられるだろう。

「プロ」発信は一般の母親に受け入れられるか

今回のプロジェクトの参加者は、カサノバ社長を含む社員、食や栄養に関心が高い「現役ママ」、プロジェクトリーダーに任命された放送作家・鈴木おさむ氏だ。ちなみに「現役ママ」の多くは、マクドナルド側の選んだ料理評論家やフードコーディネーター、ブロガーなどの「プロ」だ。

マクドナルドにとってこのプロジェクトの本当のゴールは、決して「プロ」ではない一般の母親がこのプロジェクトに自ら参加することだ。マクドナルドが発信する情報を信じ、再び顧客としてマクドナルドに戻ってくることだ。

マクドナルドのサラ・カサノバ社長は記者会見で、女性層やファミリー層の客離れがいちばん深刻であり、「食品について特に厳しい目を持ち、いつも家族のことを想う母親(ママ)」に「厳しい目で直接生産工程を見てもらい、安全に関する取り組みをチェックしてもらいたい」と語り、信頼回復につなげたい考えを示していた。

だが「プロ」中心の情報発信は、「これはマクドナルドの自己演出で、一方的に都合のいい情報だけ与えられている」と同じ安全・安心に関する情報でも、発信の仕方次第では、逆に疑いや反感を抱かれかねないリスクもはらんでいる。

求められる「プロ」としての姿勢

確かに食の安全・安心はいまホットなトピックであり、これに早急に対応することが重要であることは間違いない。だがそもそも、外食産業の安全性について母親はまったくの素人である。そんな素人が考えつくような疑問には答えられて当然だろう。先にマクドナルドというプロの集団が素人である母親には考えもつかないレベルで提案し、それに対する母親の意見を聞く、というプロセスになぜできなかったのだろうか。

素人がプロの上をいく有効なアイデアやプランを提案することは困難だ。そもそもそんなことがまかり通るのであれば、プロ失格になってしまう。先に素人の疑問や意見を聞いて、それをもとに企業が専門家を集めて検討するというプロセスは、「消費者目線で考えた」というアリバイづくりともとられかねない危険性をはらんでいる。

「顧客目線」でのプロモーションは一見正しいようだが、顧客がマクドナルドに求めているものは、安全性の問題だけではない。あらゆる点における「食のプロ」としての姿勢と発想、そして実行力ではないだろうか。これらは一過性のプロモーションで解決できるものではない。ましてやすぐに実現できるものでもないだろう。

食品・食材の安全性と衛生管理、顧客の信頼感・安心感は、外食産業の基本中の基本である。これなくしていかなる施策も意味をなさないのはいうまでもない。この解決が、マクドナルドの信頼回復、ひいては業績回復につながる、唯一の方法ではないだろうか。(ZUU online)