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(写真=PIXTA)


4-6月期は前年同期比+0.6%

台湾の2015年4-6月期の実質GDP成長率(1)は前年同期比(原系列)+0.6%と、前期(同+3.4%)から大きく低下した。これは7月に行政院主計総処が公表した見通し(2)(同+3.1%)、市場予想(3)(同+2.6%)を大きく下回る結果であった。

需要項目別に見ると、純輸出の悪化が成長率低下の主因であったことが分かる(図表1)。

消費は、民間消費が前年同期比+2.8%(前期:同+2.5%)と堅調に推移し、政府消費が前年同期比+0.2%(前期:同▲2.2%)と改善した。また資本形成(投資+在庫変動)は前年同期比+5.4%(前期:同▲1.3%)とプラスに転化した。

その結果、内需の成長率への寄与度は+2.7%ポイントと前期の同+0.8%から拡大した。純輸出については、輸出が前年同期比▲1.3%(前期:同+5.9%)とマイナスに転じ、輸入が前年同期比+1.9%(前期:同+2.5%)と小幅に低下した。

その結果、純輸出の成長率への寄与度は▲2.1%ポイントと前期の同+2.6%ポイントから下落した。供給側では、主要産業である製造業が前年同期比▲0.2%(前期:同+7.1%)と下落した(図表2)。

その他の第二次産業では建設業が前年同期比▲1.9%(前期:同+0.4%)、電気・ガス業が前年同期比▲9.7%(前期:同▲1.8%)と下落した。

またサービス業については、金融・保険業が前年同期比+5.8%(前期:同+2.6%)と上昇、不動産業が前年同期比+0.9%(前期:同+1.0%)と概ね横ばいとなったが、卸売・小売業が前年同期比▲1.5%(前期:同+1.3%)、宿泊・飲食業が前年同期比+0.9%(前期:同+0.3%)、運輸業が前年同期比+0.8%(前期:同+3.2%)と低下した業種が多かった。

台湾の実質GDP成長率(需要側)


スマホ需要減速で失われた成長基盤

実質GDP成長率(前年同期比)は6四半期続いた+3~4%台から4-6月期は+0.6%まで急減速した。この経済の失速は、これまで成長を牽引してきた輸出が停滞した影響が大きい。一方、内需は民間消費が堅調を維持し、投資が改善するなど景気の下支え役となった。

GDPの7割を占める輸出は、これまで半導体や光学機器などIT関連産業が全体を押上げてきたが、足元では最大の輸出先である中国経済の鈍化など世界経済の回復の遅れや中国企業の台頭による現地調達率の増加、スマホ需要の伸びの鈍化など外部環境は厳しさを増し、輸出停滞局面にある。

実際、輸出の約半数を占める台湾の主要エレクトロニクス企業の売上高は前年同期比で見ると4-6月期に急低下している(図表3)。

また昨年まで好調が続いた訪台外国人旅行者数は中国人観光客を中心に伸び悩む一方、円安・ユーロ安の影響で日本・欧州行きの海外旅行が増加したこともサービス輸出の重石となった。

輸出の先行きは、先進国を中心とした世界経済の回復が見込まれるほか、Windows10搭載のPC需要や受託生産する米アップルの新型スマホ需要によってIT関連産業を中心に一時的に上向くだろうが、モノのインターネット(IoT)やビックデータなどモバイル端末の次の成長分野が伸びない限り、好調を取り戻すには至らないだろう。

一方、成長を支えた内需については、消費は就業者数や賃金の増加、資源価格の低迷によるインフレ率の低下を通じた家計の実質所得の向上などから堅調を維持した。また投資の改善は、エレクトロニクス産業を中心に在庫積み増しが寄与したと見られる(図表4)。

しかし、内需の先行きは輸出の不振が波及して景気の牽引力は失われるだろう。軟調な企業業績を受けた雇用・所得環境の悪化、株価と住宅価格の下落を受けて民間消費が伸び悩み、在庫調整や企業の設備投資意欲の減退で投資が鈍化すると見られる。

また今後は来年1月の総統選・立法委員選に向けた前哨戦が過熱する。公認候補は与党・国民党が洪秀柱立法院副院長、野党・民進党が蔡英文主席に決まったが、両者の支持率4は蔡氏の54.0%に対して洪氏は19.5%と、与党の急速な対中融和策を国民が拒否して大差がついている。

しかし、蔡氏が明言する両岸関係の「現状維持」となれば、輸出の4割が中国向けである台湾経済の停滞は避けられない。政権交代が現実味を帯びるなか、企業は投資の様子見姿勢を続けることから当面は景気停滞局面が続くと見られる。

台湾の主要エレクトロニクス企業の売上高

(1)7月31日、行政院主計総処(DGBAS)が2015年4-6月期の実質域内総生産(GDP)の速報値を公表した。
(2)5月22日、行政院主計処は成長率見通しを公表した。2015年通年の成長率は前年比+3.28%(4-6月期が前年同期比+3.05%、7-9月期が同+3.14%、10-12月期が同+3.53%)とし、2月時点の前年比+3.78%から下方修正した。
(3)Bloomberg調査

斉藤誠
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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