imasia_4708603_S
(写真=PIXTA)


はじめに

国内年金の投資運用で、海外不動産を対象とした私募ファンドへの投資が、少しずつ広がり始めている。海外不動産については、情報が少ないことや為替リスクがあることから、投資を躊躇する年金基金も多い。

しかし一方で、地域分散や投資機会の拡大を求めて検討に着手する基金も見られる。本稿では、国内の海外不動産投資商品の提供状況を説明するとともに、海外投資家のグローバル不動産投資にも触れる。


国内年金の不動産投資商品別投資状況

不動産証券化協会のアンケート調査(2014年7月実施。以下、「ARES調査」)(図表1)によれば、国内年金の不動産投資では、従来型の国内不動産私募ファンド(投資期間中は原則換金できず物件売却によりファンドを終了するタイプのクローズドエンド型の私募ファンド)への投資が最も多く、回答基金の28%が「投資済み」としている。

また、「投資済み」に「検討中」「興味がある」を加えた合計では、国内私募リート(投資期間は無期限で途中換金請求可能なオープンエンド型の私募ファンド)が38%と最も高く、今後は不動産投資対象としてシェアを拡大していくことが予想される。

従来型の国内不動産私募ファンドへの投資が多い背景には、金融危機前のファンドブーム時(2005年~2007年)に多数のファンドが提供され、国内年金の間で浸透したことがある。同じ頃、上場リートの銘柄選択を行う運用商品の提供も投信協会のルール緩和により可能となり、海外上場リートの運用商品が多く提供され、国内年金の間で浸透した。

ローカルなアセットとされる不動産でありながらグローバル分散ができることが海外上場リート投資のメリットと捉えられた。Jリート(国内上場リート)の「投資済」が12%であるのに対し、海外上場リートは18%とこれを上回っており、海外不動産投資の手法として流動性も備え国際分散が可能な投資として選択されてきたことがうかがえる。

最近では、海外不動産投資のもう一つの手法として私募ファンドの形態が選択されるようになってきている。年金基金による投資も少しずつではあるが増えてきており、ARES調査では、海外不動産私募ファンド(オープンエンド型、クローズドエンド型には分類しておらず双方が含まれる)について、回答基金の6%が「投資済」、16%が「投資に興味がある」という結果となっている。

図表 1 国内年金の不動産プロダクト別投資状況


国内年金による海外不動産投資の形態、投資地域・戦略

海外上場リートの運用商品には、米国、欧州、アジア(日本除く)の上場リートを対象とした「グローバルリート」が多いが、時価総額の大きい米国や豪州といった国や欧州、アジアなどの地域に特化した上場リートの運用商品もある。

一方、海外不動産私募ファンドについては、クローズドエンド型、オープンエンド型、それらに投資するファンドオブファンズも提供されている。その対象地域は、米国、欧州、アジアパシフィックに分類される。国内年金の投資対象としては、成熟国の不動産に投資するオープンエンド型ファンドが検討されるケースが多い。

また、不動産私募ファンドの主流は不動産やその持分権等を所有し、そこからの収益を投資家に分配するエクイティ型だが、海外不動産の所有者に対する貸付債権を投資対象としたデット型のファンドも提供されている(図表2)。

図表 2 国内年金が投資可能な海外不動産投資商品

ARES調査によると(図表3)、国内年金の海外不動産投資の対象地域は北米が47%で最も多く、次いで英国20%、豪国・ニュージーランド8%となっている。戦略別には、賃料収入からの安定したインカム獲得を目指すコア戦略が87%を占めていることから、リスクを抑えた投資を志向していることが分かる。

こうした海外不動産私募ファンドへの投資が増えてきている要因としては、提供されている海外不動産私募ファンドの多くがオープンエンド型で、この2~3年で急速に国内年金の間で認知度が高まった国内私募リートと同様の仕組みであるために、投資検討がしやすかったことが挙げられる。

図表 3 国内年金が投資する海外不動産ファンドの対象地域・戦略