海外投資家のグローバル不動産投資(投資対象地域・戦略)
不動産へのグローバル投資を先んじて行っている海外投資家の多くは、世界の各地域の不動産市況等を踏まえながらどの地域に投資するか選択している。
Preqin社は、今後1年に投資する地域・戦略について調査しており、15Q2調査(図表4)では、北アメリカを対象としたファンドに投資するとした投資家の割合が、前年の52%から55%にやや増加している。欧州のファンドについては46%から43%に低下した。米国は底堅い経済に支えられて不動産市況も好調であることから、今後投資すると回答した投資家が増加したものと思われる。
また、「新興国」と「グローバル」の割合も8%から12%、27%から32%へとそれぞれ増加しており、成長期待を海外新興国に求める投資家、グローバルファンドで国際分散を目指す投資家も増加している。グローバルファンドについては、ファンドオブファンズ形態に加え、単独の運用会社による大型ファンドの新規組成も伝えられている(*1)。こうしたファンド組成の動向も投資家の判断に影響している可能性がある。
投資戦略では、賃貸収益からのインカムを重視し低リスクの「コア」に投資するとの回答割合が60%から47%へと大きく減少し、「コア」よりややリスクの高い「コアプラス」、賃貸収益+不動産価値の向上を目指す「バリューアッド」、投資機会を選別して高いリターンを目指す「オポチュニスティック」等の割合が増加している。
この背景としては、各国の主要都市で既に低リスクの「コア」不動産への投資が増加、価格が上昇し、国内年金等に比べて高い目標リターンを持つ海外投資家が「コア」投資で条件を満たすことが難しい状況になっていることが考えられる。
各国・地域の市場動向を踏まえた投資検討
海外不動産私募ファンドの総合収益率を対象地域別にみると(図表5)、金融危機前後で類似のトレンドとなっているものの、下落幅や回復の過程がそれぞれ異なっている。
英国の回復が顕著に早く2010年3月にプラスに転じおり、その他では1~2四半期後にプラスに転じている。14年に入ってからは、英国が既に低下し始めているのに対し、米国やその他の欧州ではまだ上昇基調にある。英国についてはロンドンの投資用不動産に占める割合が高く、世界の投資家から資金が集まり価格上昇のタイミングが早かったため、キャピタルリターンの上昇が早かったことが影響していると思われる。
どのような国・地域を対象としたファンドに投資するのか、あるいはグローバルファンドに投資をするのかといった方針を定めるにあたっては、こうした国・地域ごとのパフォーマンスを踏まえることも求められる。また、都市や地域ごとのサブマーケットによっても市況が異なることから、投資を任せる不動産運用会社がそれらを適確に選別して投資しているかがパフォーマンスを左右する。
国内投資家による海外不動産ファンド投資はまだ黎明期であるが、投資商品の選択肢は広がりつつある。それらのファンドから投資対象を選定するにあたっては、市況やファンド運用実績等を検討するプロセスも求められる。
(*1)2015/8/4PEREによれば、モルガンスタンレーはグローバル・オポチュニスティック・ファンドの出資を募り約17億ドルを集めた。
加藤えり子
ニッセイ基礎研究所 金融研究部
不動産運用調査室長
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