(写真=PIXTA)
“何度目”かのギリシャ危機が、ひとまず落ち着き、金融市場は日常を取り戻しつつある。遠く離れた日本でさえ「やれやれ」という感じだが、今回はIMF(国際通貨基金)が融資した16億ユーロ(約2200億円)が、期限の6月30日までに返済されずに事実上のデフォルト(債務不履行)に陥った。
ところが、IMFは今回のギリシャによる事実上のデフォルトを「延滞状態」に入ったという表現を使い、新たな融資はできないもののデフォルト扱いにしなかった。公的機関であるIMFの場合、これまでもジンバブエやスーダンに対して、融資が返済されない状態を延滞扱いにして、一般の金融機関の「デフォルト」とは異なる扱いをしてきた経緯がある。
これが、IMFではなく民間の銀行や投資家の債務になるとデフォルトと認定されて、ギリシャへの融資や取引がストップしたかもしれない。実際、ギリシャはIMF以外の民間の金融機関等への返済は実行し、日本円建てのギリシャ国債、いわゆる「サムライ債」も100億円程度が期限通りに返済されている。
その後、ギリシャは国民投票で緊縮政策に対して「NO」を意思表示したものの、最終的にはチプラス政権が自ら掲げた「反緊縮路線」を大きく転換。同政権はEUの意向を反映した新たな緊縮策をEU(欧州連合)に提出したことで、ECB(欧州中央銀行)の融資再開を引き出しギリシャ危機は収まった。
定義が難しいデフォルトの概念
そんな経緯で今回のギリシャ危機は収まったわけだが、そこで注目されたのが「デフォルト」の定義だ。IMFは「延滞」で、民間の金融機関は「デフォルト」というのではやや納得がいかない。
そもそもデフォルトの定義は、企業とソブリン(国家)とでは、その扱い方が微妙に違っている。企業が破綻する場合は、会社更生法といった法律によって処理されるのが一般的だが、国家の破綻の場合は歳出抑制、増税、債務の強制的な削減策など、国家としての「権限」を行使することが必要になるために、金融機関や格付け会社によっても、その基準があいまいになっているケースが多い。
こうした「国家の債務不履行=ソブリン・デフォルト」の判定基準といえば、S&P(スタンダード&プアーズ)、ムーディーズ、フィッチ・レーティングスといった大手格付け会社の定義が有名だが、これら大手3社の間でも格付けの表記方法が異なるなど、その基準は微妙に異なる。S&Pは、「SD(長期個別債務格付け、選択的債務不履行)」以下をデフォルトとし、ムーディーズは「Ca」、フィッチは「RD(一部債務不履行)」以下をデフォルトと規定している。
もっとも、ソブリン・デフォルトに対して表記方法は異なるものの、内容的にはほぼ同様の定義に基づいて判定されていると言っていいだろう。ただし、格付け会社の場合、融資している金融機関などと異なり「債務交換(ディストレスト・エクスチェンジ)」を行った場合もデフォルトとみなす場合がある。
さらに、ソブリン・デフォルトの判定基準で忘れていけないのは「CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)」の動向だ。CDSというのは、信用リスクを対象にした金融派生商品「クレジット・デリバティブ」の一種で、企業やソブリン債でデフォルトが起こった場合の保険となる機能を持つ。
デフォルトした際に補償を受けるCDSの買い手に対して、売り手はデフォルトした際に補償金を支払わなければならない。買い手は一定額のプレミアム(手数料)を支払い、売り手は一定額の補償相当額を受け取ることができる。
このCDSが支払われるようなケースを「クレジット・イベント」と呼ぶのだが、企業とソブリンのケースではクレジット・イベントの定義がやや異なる。当然のことながら、ソブリン債のデフォルトとも違っている。たとえば、ギリシャが使った「履行拒否」や「支払い猶予」といったものも、企業ではクレジット・イベントになるのだが、ソブリンの場合は該当しない。一方で、2012年にギリシャが実施した民間投資家の債務強制削減では、CDSではクレジット・デフォルトとなり債務不履行と認定され、デフォルトに伴い発生した損失に対して補填がなされている。
ギリシャの脅しに揺れる金融マーケット
要するに、デフォルトの定義や判定基準がはっきりしない中で、ギリシャのように「デフォルト」をちらつかせながら、自国に有利な交渉を導こうとするケースがある、ということだ。今回のギリシャ危機も、9月には資金が枯渇すると言われている。
そういう意味で言えば、EUはギリシャのような“デフォルト常習者”と今後も付き合っていかねばならないし、為替や株式、商品の各市場もデフォルト騒ぎのたびに揺れ動き、変動幅の大きなマーケットと向き合わなければならない。
特に面倒なのは、格付け機関がデフォルトと認定したのに、EUやIMF、そしてCDSのデフォルトを判定する「ISDA(国際スワップデリバティブ協会)」が認定しない…、といった具合にデフォルトの定義が、バラついて市場が混乱することだ。
デフォルトは、される側も、する側も大きなダメージを覚悟しなければならない。安易に、デフォルトを起こしたくないというバイアスが働くことも容易に想像できる。そういう意味で言うと、投資家はデフォルトに際しても一元的な捉え方をするのではなく、幅広い見方をしたほうがいいのかもしれない。
※この記事は2015年8月29日に掲載されたものです。
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