storieでは、不動産業界で行われてきたとされる「囲い込み」の問題について、何度か取り上げてきた。大手不動産会社の不正行為の報道や、業界事情に詳しいアルティメイテット総研 代表取締役の大友健右のコメントを紹介してきた。今回、「囲い込み」の違法性と経営責任について、星野法律事務所の星野宏明弁護士に質問し、回答をいただいた。なお、同じテーマで数名の弁護士に質問をしており、今後、不定期で回答を連載していく。(提供: storie 2015年8月29日掲載 )
以下、星野宏明弁護士とのQ&A
Q1.不動産会社による不動産仲介物件の「囲い込み」は宅建業法に違反しますか。
星野弁護士: 囲い込みは、一般に、顧客から売却依頼を受けた物件について、不動産仲介会社が自社内で情報を抱え込み、他社に照会しないこと、を意味します。これは、法律上、売主側仲介と買主側仲介でそれぞれ上限が定められているため、売主と買主の双方を見つけて仲介すれば、自社の仲介手数料が2倍になることを狙いとするものです。
不動産仲介会社は、在庫として売却依頼物件を抱えているわけではないため、売却時期が遅くなろうと不利益があるわけではなく、いわゆる両手仲介ができるまで、物件情報を自社で抱え込んでダブルの手数料を狙った方が、利益が大きくなる事業構造が背景にあります。
しかしながら、売却を依頼した売主からすれば、当然、早く売りたい事情もあるわけで、不動産仲介が物件情報を抱え込んで不当に売却が遅れることによる不利益は計り知れません。
この点、囲い込み行為は、そもそも物件情報を他社に漏らさないため、外部に発覚することがほとんどありませんでしたが、信義誠実義務違反その他の宅建業法の規定、民法上の受託者の委託者に対する善管注意義務違反にも該当します。
法的には、宅建業法違反であると同時に、売却依頼者(委託者)に損害が生じれば、受託者である不動産仲介会社側の損害賠償義務が生じます。
Q2.上場している不動産会社を含めて行った覆面調査を元に「囲い込み」があったとする一部の報道がありましたが、事実とすれば、コンプライアンス違反ではないでしょうか。
星野弁護士: 前記のとおり、信義誠実義務違反その他の宅建業法の規定、民法上の受託者の委託者に対する善管注意義務違反にも該当します。行政法規である宅建業法違反に関しては、行政処分、行政指導がなされる可能性もあります。
Q3.「囲い込み」がある事実を知りながら、放置していた上場企業の経営者は、どのような責任に問われることになりますか。
星野弁護士: 会社のコンプライアンス違反行為を知りながら、あるいは過失によってこれを放置して会社に損害を発生させた場合、当然、取締役の会社に対する善管注意義務・忠実義務違反となり、株主代表訴訟によって責任追及される可能性があります。売却が不当に送らされた売主や、本来より低価格での売却を余儀なくされた売主から、仲介会社に対し、損害賠償訴訟を提起される場合も当然考えられます。
Q4.金融庁によるコーポレートガバナンス・コード原案で、上場企業はガバナンスの強化で独立社外取締役を2 名以上、選任することが求められています。そうした社外の取締役が「囲い込み」の事実を知りながら放置した場合、どうなるのでしょうか。
星野弁護士:
社外取締役も取締役であることに変わりはなく、他の取締役と同じように権限を行使し責任を負うことになります。
したがって、監督義務に違反して会社に損害を生じさせた場合、株主によって株主代表訴訟を通じて責任追及される可能性があることに変わりはありません。
ただし、社外取締役の場合、会社との間で、事前に損害賠償責任の範囲を限定する趣旨の契約(責任限定契約)を締結することができます。これにより、社外取締役は、取締役就任時に会社と責任限定契約を締結することで、損害賠償責任を一定範囲に限定することがでます。
Q5.上場をしている不動産会社が「囲い込み」をしている実態が、内部告発によって明らかになった場合、その会社はどのような対応を迫られるのでしょうか。
星野弁護士: 上記のように、放置した場合、経営者はコンプライアンス違反の責任に問われるので、早期に再発防止策を取る必要があります。なお、内部通報者を解雇するなど不利益に扱うことは、公益通報者保護法で禁止されています。
星野宏明(ほしの・ひろあき)
大手法律事務所勤務を経て、東京都港区で
星野法律事務所
開業(共同パートナー)。企業顧問法務、不動産、太陽光自然エネルギー、中国法務、外国関連企業、農業、不貞による慰謝料、外国人の離婚事件、国際案件等が専門。中国語による業務可能。