imasia_11042112_S
(写真=PIXTA)

ハイブリッド型企業年金の導入が検討されている。現行の制度体系で可能なハイブリッド型制度である実績連動型CBプランの特徴や導入状況を確認しながら、新たな制度の導入に当たって検討すべきポイントについて概観する。

今年6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015-未来への投資・生産性革命-」に、ハイブリッド型企業年金の導入の検討が盛り込まれている。企業が企業年金を実施しやすい環境を整備し、ひいては、企業年金の実施率向上を図ることを目的として、今年中に結論を得ることとされている。これを受け、厚生労働省においてハイブリッド型企業年金の導入が検討されている。

現在の企業年金制度は、事実上、確定給付企業年金(DB制度)と企業型確定拠出年金(DC制度)の2つの制度で構成されている。これらは、事業主か加入者のいずれかに運用リスクが偏る両極端な制度である。これらの中間的な制度として、運用リスクを事業主と加入者で柔軟に分け合うことができるようなハイブリッド型を導入することで、企業が企業年金を実施しやすい環境を整えようという施策である。

しかし、現行の制度においても、運用リスクを事業主と加入者で分担する制度設計は可能である。DB制度の給付算定方式の一つであり、2014年度の規制緩和によって可能となった実績連動型キャッシュバランスプランの活用だ。以下では、ハイブリッド型企業年金の一つとしても捉えられる実績連動型CBプランの特徴や導入状況を確認する。

CBプランは、仮想個人勘定ごとに管理される拠出クレジットと利息クレジットの累計額により、給付額を算定する制度である。事業主は加入者に対して毎期、拠出クレジットを付与し、クレジット残高に対して付利をしながら残高を積上げていき、退職時の拠出と利息を合わせたクレジット残高に基づき給付額が算定される仕組みである。

毎期のクレジット残高に対する付利は、定率、国債利回りなど、法令で定められた指標(再評価率)に限られているが、このうち運用利回りを再評価率とするのが、運用実績連動型CBプランである。CBプランは、利息クレジットによって将来の給付額が積み上がる仕組みである。

図表1 実績連動型CBプランのイメージ

従って、運用利回りが利息クレジットの算定基準となる再評価率を下回れば、年金財政で積み立て不足が生じ、事業主は不足分の穴埋めを強いられることになる。国債利回りを再評価率とする場合、運用利回りを国債利回りに連動させることは困難であるため、時として事業主は追加負担を迫られる。

しかし、実績連動型では両者は常に一致するため、過不足は原則として生じない。実績連動型CBプランは、事業主にとって追加的な負担を相当程度、軽減できるメリットが認められるのである。もっとも、運用リスクが無くなるわけではない。運用利回りの変動は将来の給付額の変動という形で、加入者が負担することになる。

しかし、現行では、再評価率は裁定時までの通算で0%以上という制約が課されている。仮に、裁定時の運用利回りの通算がマイナスとなれば、そのマイナス分は事業主が負担することになる。つまり、毎期付与される拠出クレジットの元本は保証されるのであって、自己責任が原則であるDC制度に比べ、加入者にとっても安心感のある制度と言える。

一方で、再評価率に上限を設定する義務はないため、中長期的にインフレ率に連動する運用利回りを確保できれば、インフレに伴う給付額の実質価値の目減りを抑制できるという、他のDB制度にはないメリットを期待できるのである。

このように現状の制度体系においても、実績連動型CBプランを活用することによって、事業主と加入者との間で、運用リスクを分担することは可能である。しかしながら、導入状況はと言うと、事前の期待ほどには普及していないようである。

キャッシュバランスプランが導入された2002年度から採用が可能であった定率や国債利回りを再評価率とする指標連動型CBプランについては、DB制度を導入する全企業の16%で、従業員数1000人以上に限ると34%で導入されるまでに普及している。これに対し、運用実績連動型の導入は、ほとんど進んでいないというのが実状である。

もちろん、実績連動型CBプランを採用できるようになってから間もないことや、アベノミクス以降の市場環境の好転により積立状況が大きく改善したことなども影響している可能性はある。もう少し時間をかけて評価する必要はあるものの、足元の導入状況からすると、採用を阻む障害が潜んでいる可能性は否定できない。

新たなハイブリッド制度の導入を検討するのであれば、まずは、実績連動型CBプランがなぜ普及しないのか、その原因を検証することが必要であろう。また、事業主と加入者との間でのリスク分担という点では、DB制度とDC制度の併用という選択肢もある。

実務上の負荷や運用意思決定のあり方や企業会計上の取り扱いなどについて、現行の制度体系で可能なハイブリッド型の制度運営との違いを整理することも必要であろう。これらを踏まえた上で、多様化する企業ニーズに応えられる制度が導入されることを期待したい。

梅内 俊樹
ニッセイ基礎研究所 金融研究部

【関連記事】
公的年金は増額傾向? 欠かせないデフレ脱却
ダウンサイドの抑制に向けた動的管理の活用について
確定拠出年金の見直しの方向性について
資産形成の一手段ドルコスト平均法の注意点
企業年金の財政安定化に資する積立剰余の活用について