2014年春に東京で発売され、全国に広がった「ランチパスポート」。日経トレンディ誌の2014年ヒット商品「ご当地ヒット大賞」を受賞したほどだが、再掲載を望まない飲食店が増えているという。掲載料無料で新規客を獲得できる必勝法でありながら、なぜ離脱する選択をしなければならなかったのか。

店−客−出版社の三方よしが原動力

ランチパスポートとは、1冊1000円程度で販売されているグルメガイド本のことで、購入者が掲載されている店舗に持参すれば割引が受けられる。たとえば通常700円以上のランチを500円で食べられる。2014年4月に新橋・虎ノ門版が発売された後、7月に渋谷・原宿・恵比寿版と新宿版が発売されて話題となり、今や42都道府県、80エリア以上のランチパスポートが存在する。

ここまでの大きなブームとなった理由は、購入者、飲食店、出版社のすべてがメリットを享受できる仕組みにある。購入者はお得にランチを利用することができ、飲食店は掲載料なしに宣伝し、多くの新規客を確保できる。さらに出版社は100ページほどの本を1000円で売ることができる。つまり、三方よしだったのだ。

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掲載料ゼロで新規客を確保できるがリピーターにならない

実はこれまでも、クーポンを掲載した本は存在したが、多くはフリーペーパーであったため、飲食店は数万円から数十万円の掲載料を支払わなければいけなかった。そのうえ、競合に勝つために典として割引をする必要があった。その点ランチパスポートは、実際に来店した客に割引するだけでいのだから、販促費のムダがない。

たしかにランチパスポートに掲載すると客数が増える。

ところがここに落とし穴があった。立地や業態にもよるが、多くの飲食店がランチタイムのコアターゲットにしているのは、近隣に勤めるサラリーマンやOLたちだ。12時になるとどっと押し寄せ、1時近くになると帰っていくランチ客は、安定して売り上げを確保させてくれる。

ところがランチパスポートを利用したお客が12時を目指して集まることで、これまで利用していたランチ客が利用できない事態が起こる。運よく混在したとしても、隣で「これ500円だよ!安いよね」と話している客と同じものを、700円で食べている常連客にしてみれば愉快なものではない。

それでも、ランチパスポートでやってきたお客が常連化してくれるのであれば計算の範囲といえる。
ところが最初に安く利用したお客のほとんどは通常価格ではやってこない。しかもランチパスポート1冊に掲載される飲食店の数は70〜90店舗もある。できるだけ多くの店を回りたい購入者は、3カ月の掲載期間ですら再来店しないことが多いのだ。

多くの飲食店が気付かなかったランチタイム割引きの罠

この裏にあるのは、ランチタイムの割引きサービスという盲点がある。

まずは回転率の低下だ。飲食店のランチが通常時間に比べて安い単価でもやっていけるのは、回転率が高いからだ。サラリーマンを相手にしていれば、長くても45分で席を空ける。しかしランチパスポートのために遠出して来るお客は時間に余裕がある人が多く、滞在時間が長くなる。安い価格で長居されたのでは割に合わないのだ。

次に数百円という割引額にも落とし穴があった。ランチパスポートでは、700円〜1000円のランチを500円で販売する。仮に750円のランチだったと仮定すると、その割引額は250円に過ぎない。夜の営業用のクーポンで、4000円のコースを3500円にしていることを考えれば安いものだ。

ところが、通常750円のランチを全員に500円で提供すれば、売上は約30%も減ってしまう。一方、夜のコース料理の場合、500円割引いても12.5%減るのみ。この差は実に大きい。

使い方によっては毒にも薬にもなる

だがランチパスポートの活用が必ずしも間違っているわけではない。たとえばオープンから間がない、裏通りにあるなどの理由で、とにかく店を知ってもらいたいなら、いい呼び水となるだろう。また飲食店の売り上げには、月によりバラつきがある。特に1月、2月、8月は大きく落ちるため、この時期の客数減を補うのにも適している。

飲食店にとってランチパスポートは、毒にも薬にもなる存在なのだ。計画的に利用すれば大きなチャンスにつなげることができるが、「流行っているから」とか「お客が増える」というだけで無計画に掲載すると後で痛い目に合うのだ。(ZUU online 編集部)

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