粉飾決算
(写真=Thinkstock/Getty Images)

バブルが崩壊して以後、粉飾決算に関する事件が後を絶たない。企業にとっての会計は、経営の成績表であり、財産や債務の状況を映し出す鏡である。その一方、銀行からの借入や株式市場の評価ポイントのカギという役割をも担っている。そのため、企業経営者の中には、市場からの評価維持や資金調達のため、さらには間違った経営責任の考え方から、魔がさして粉飾会計に手を出し、虚偽の決算書を作成してしまうこともあるのだ。今回は、過去の粉飾の事例を参考に、粉飾のパターンとその見方について考えてみよう。


東芝、オリンパス事件に見る粉飾の思惑

まず、過去に日本で発生した企業の粉飾決算から2つの事例を見てみよう。


(A) 東芝の不正会計事件

東芝が2014年3月期までの5年間、1,562億円の利益の水増しを行ってきたことが、2015年4月に公表された。具体的には、製造の委託先との関係を利用した営業利益の水増し計上、既存の半導体製品の評価損計上の先送り、広告宣伝費や販売促進費の費用計上の先送りなどが行われていた。上場廃止にはならないものの、経営陣を新たにすることで、内部統制の強化と再発防止に取り組む模様だ。


(B) オリンパスの粉飾会計事件

2011年11月、オリンパスが過去20年以上にわたって本業以外の証券や先物、株式などの金融商品の評価損累計1,178億円を隠していた事実が発覚した。この財テクによる損失は、「飛ばし」という手法により、会計帳簿に明記されず、有価証券報告書には虚偽記載がなされていた。この疑惑を究明しようとした外国人社長を既存の同社会長が解任したものの、外国メディアの報道に抗しきれず、粉飾が明るみに出ることとなった。この粉飾に関わった経営陣については、執行猶予付きの有罪判決がなされている。

このように、粉飾は基本的に「利益の水増し計上」か「損失隠し」という手法で行われている。上記の2社については上場廃止といった事態にはなっていないが、時代をさかのぼると、ライブドアやカネボウのように上場廃止になるケースや、山一證券や日本長期信用銀行のように経営破たんに追い込まれるケースもある。では、企業は具体的にどのようにして「利益の水増し計上」「損失隠し」を行っているのか。次に粉飾決算にありがちなパターンを紹介しよう。


売掛金のでっち上げで売上と利益を増やす

売掛金とは、取引先に商品を販売した場合あるいはサービスを提供した場合に既に発生している売上金の請求権のこと。通常、売掛金と同時に損益計算書で売上が計上される。もし、この売掛金が不自然に多額である場合、売上が水増しされている可能性がある。

製造の下請けなど、値段交渉などで強気に出られる取引先がある場合には、これを利用して架空の売上を計上する手法をとることもある。また、本来ならば次期で計上すべき売上を当期に計上することで利益のカサ上げをする「期ズレ」を利用した粉飾などもここに含まれる。


棚卸資産を水増しして計上する

小売や飲食業、製造業など、材料を加工したり商品を仕入れたりして販売している企業の貸借対照表には通常、棚卸資産という項目が出てくる。期末に在庫の棚卸をし、売上にきちんと対応する仕入額を計算した結果の項目である。この棚卸資産の額が多いと、その分仕入額が減る。つまり、棚卸資産の額が不自然に多い場合、利益を増やすために粉飾が行われている可能性があるのだ。

更に、在庫そのものがあまりに古い場合や時流に乗り遅れて陳腐化している場合、本来ならば評価損を計上する必要がある。しかし、その事実を隠蔽するため、あえて評価損を計上しないケースもある。


減価償却方法を「定率法」から「定額法」に変更

自社ビルや工場、あるいは機械などの固定資産を保有している企業の場合、その固定資産について減価償却を毎期末に行う。減価償却とは、固定資産の経年劣化や老朽化について「売上に対する貢献」とみなしこれを数値化したもので、キャッシュフローを伴わない費用のことだ。ちなみに、減価償却の方法には、定額法と定率法というものがあり、違いは次の通り。

定額法 …毎期、均等に減価償却費を計上する方法
定率法 …初年度、最も多額の減価償却費を計上し、次年度以降、徐々に少額で計上していく方法

通常、固定資産を購入してから数年間は、定率法の方が定額法よりも、費用計上額が大きくなる。償却方法が、ある時突然根拠もなく定率法から定額法に変更された場合には、利益をかさ上げするための粉飾の可能性があるかもしれない。このほか前渡金、前払費用、仮払金などの貸借対照表上の勘定科目を使った費用計上の先送りや立替金を使った不良債権隠しなども粉飾の手法として挙げられる。


粉飾を理解することが資産を守る第一歩となる

株主や金融機関など、企業の利害関係者にとって、決算書はその企業の通信簿だ。ただ、その通信簿は、学校のそれとは異なり、あくまでも企業の自主申告によるもの。上場企業であれば監査法人の目が入るものだが、監査法人が必ずしも企業の粉飾を見抜き、適正に公表できるとは限らない。そのため、利害関係者それぞれが、適正に決算書を読み解こうとする姿勢が必要になる。そこで決算書を読み解く際のポイントは2つある。

ひとつ目は「3期分を並べて時系列でチェックする」というものだ。1期分の決算書を見ただけでは粉飾は見抜けない。過去の決算書とならべて比較し、著しい変動はないか、変動があった場合には、それを裏付ける根拠があるかどうかを調べることが大事だ。さらに、リーマンショックのような大きな問題が発生した時や、時価評価の導入などの会計方法の変更があった場合に、それに対応する決算書の内容になっているかどうかをチェックすることも必要となる。

2つ目のポイントは「不明瞭な資産が多いかどうか」である。前払費用や前払金、立替金、仮払金といった貸借対照表上の勘定科目は、費用や損失隠しの手段として利用されることがしばしばある。ここが不適切に膨らんでいる場合、具体的な内容をチェックする必要がある。このほか、企業の体力を示す自己資本の比率がどの程度か、近年、大口の取引先の貸し倒れや追徴課税があったかどうかをも考慮する。つまり、定点観測だけでなく時間の流れを鑑みた上で、その決算書が適正であるかどうかを分析する姿勢が必要となる。

嘘も一生つきとおせないように、粉飾もずっと続けることはできない。粉飾は一時的なしのぎの手段にはなるが、ほうっておけば自然と元の姿に戻ってしまう。言い換えると、経営悪化を徹底して隠すには、粉飾に粉飾を重ねなくてはならないのだ。これでは、いずれ破綻するのは目に見えている。

企業の株価や配当、貸付金返済に伴う利息だけに注目するのではなく、その健全性をもチェックする姿勢が、利害関係者の資産を守り、ひいては企業の安定経営をも守ることにつながるのだ。

鈴木 まゆ子(すずき まゆこ)税理士
税理士鈴木まゆ子事務所代表。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。㈱ドン・キホーテ勤務中に会計に興味を持ち、会計事務所に転職。妊娠・出産・育児をしながら、税理士試験の受験勉強を続け、2009年に合格。2012年に税理士登録。現在、外国人のビザ業務を行う行政書士の夫と共に、外国人の決算・申告・コンサルティングに従事。

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