企業統治の面でも不透明さが目立つ。大半のアリババ・グループの株主は、外国人による中国内のネット事業所有を禁じる当局の規制が理由で、アリババの事業を直接所有できない。これに目をつけた創業者の馬雲(ジャック・マー)氏と副社長の謝世煌(サイモン・シー)氏は、複雑な持ち株構造により、自分たち2人が持ち株会社の役員の大半を指名できるような少数支配体制を作り上げた。

また、アリババの営業利益には、同社の強みである各種デジタル事業子会社の決算が反映されていない。アリババの各社における持ち株比率が50%以下に抑えられているからだ。そのため、これらの事業で損失が出ていたとしても、アリババの株主が事実を自動的に知ることができない仕組みになっている。

さらに、中国内の電子商取引分野での競合が激化し、アリババの収益を脅かしている。ライバルの京東商城(JD.com)などは快調に市場シェアを伸ばしているが、サービス面などでアリババは競合各社に後れを取り、苦戦している。

これらの要因が重なり、主要株主の米ヤフーの株価を道連れに転落するアリババであるが、ヤフーのアリババ株処分が難航した場合、ロックアップ期間(上場前から株式を保有する主な株主が売却を禁じられる期間)が9月後半に終われば、さらにアリババ株が大幅に下げる可能性が大きいと、アナリストは警告する。これに対し、アリババは株価底上げのため、40億ドル規模の自社株買いを実施する計画とされる。

有望な新規事業を持つアリババ

しかし、暗いニュースばかりではない。アリババは、単なる電子取引のプラットフォームから、幅広いオンライン・サービスの提供者への脱皮を急いでいる。

有望な事業は目白押しである。米小売大手のメーシーズとコストコは、アリババが運営するオンライン・モールの一つ、天猫国際(Tモール・グローバル)に出店した。同時にアリババは、中国内の倉庫や物流網の整備に膨大な資金を投じる一方、家電小売大手の蘇寧電器(サニング)に46億ドルを出資、オンライン発注した消費者がサニングから商品を持ち帰れるサービスを始めた。

また、収益が有望なオンライン金融については、螞蟻金融服務集団(アント・ファイナンシャル)を通して着実に強化を図っている。これらの投資が吉と出るか、注目される。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)