建物の素性を明らかにするために

誰もが購入する住宅は性能に優れ、そして長持ちし、不安のない状態であって欲しいものです。逆に言えば、住宅所有者はそうした購入者の不安に応えることで有利な条件での売却が出来るということになります。

これは、ビル等の賃貸物件所有者にも同じことが言えます。借主が抱える不安を理解し情報開示することで、差別化が図れることにもなります。住宅を始めとした建物を、購入者や賃借人のニーズに合ったものとして維持していくためには、大きく2つの取り組みが必要です。一つは「適切な維持管理」もう一つは「履歴の保存」です。

中古住宅市場では、今建物の適切な評価手法についての検討が国を挙げて行われていますが、それは簡単に言えば築年数だけに寄らない建物毎の評価を行うことです。例えば木造住宅では、これまで築20年程度で一律価値がゼロとなるような慣習がありました。しかし、適切な維持管理をされた建物と、20年間放ったらかしになっていた建物が同じ評価となること自体がおかしかったのです。

実際に、ハウスメーカー10社により構成される「優良ストック住宅推進協議会」(スムストック)では、土地と建物との評価を分けて考え、更に建物は構造体力上主要な部分(スケルトン)と内装・設備等(インフィル)に分けて評価する「スムストック査定方式」を策定し、例えば従来の評価手法で行うと200万円弱しかない築18年の木質系建物の評価額が約750万円になるなど、平均で500万円以上の査定差が生まれています。

しかし、これらの評価を得るためには当然に条件があります。一つが「50年以上のメンテナンスプログラムの保有と実施」そしてもう一つが「住宅履歴データベースの保有」です。これは、先に挙げました「適切な維持管理」そして「履歴の保存」ということに他なりません。


「維持管理」と「履歴の保存」の普及へ向けて

これまで、こうした建物へのリフォーム等の投資や適切な維持管理、また長寿命化させるために必要な適切な点検、補修等の維持管理・リフォーム情報の蓄積が行われなかったのは、それらが価格に反映されなかったからだと言えます。

しかし、先にご紹介したように、所有不動産への投資が価格に反映される事例が徐々に出て来ており、「維持管理」や「履歴の保存」を積極的に行うケースが増えてきました。

新築時をピークとして一律経過年数で建物評価が下がるのではなく、建物に手を加えることでその価値が上がり、改修等建物への投資を価値として評価していくという考え方(図2)は、今後投資する側から購入或は借りるユーザーの理解へと進んで行くことが期待されます。

実際、特に中古戸建て住宅の流通市場における「築後20年から25年程度で一律に市場価値がゼロになる」とされる取引慣行の改善と、住宅の性能やリフォームの状況等を的確に反映した評価手法として、国土交通省が平成26年3月に策定した「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」に基づき、公益財団法人不動産流通推進センターにおいて「既存住宅価格査定マニュアル」の改訂版が策定されました。