為替市場ではこのところ円が強含んでいる、というよりドル安が進んだという方が正しいだろう。

10月15日には円ドルレートが一時118円台前半まで上昇し、8月下旬に中国経済の急減速懸念などで投資家のリスクオフ姿勢が強まって以来の円高水準となった。これは、円安要因となる米国の利上げが遅れるとの見方が強まったためだ。ただ、来年3月までを展望すると、再び円安基調に戻る可能性が高い。

日本および世界経済の先行き不透明感が増すなかで、この半年間の為替相場を占ううえでの2つポイントを整理してみよう。


ポイント1.米国の利上げ、個人消費と輸出の動向を注視

為替の実需、すなわち輸出入や証券投資、M&Aなどで取引される額は全体の1/10程度に過ぎない。それ以外の、いわゆる投機取引はこれら実需を睨んで行われる。個々の実需の動きが市場全体に与える影響は小さくても、市場参加者がその時々に何に注目するかで為替レートの変動は増幅される。

現在最も注目が集まっているのは、米連邦準備制度理事会(FRB)がいつ利上げに踏み切るかである。米国が金利を上げれば世界の資金が米ドルに向かい、他の通貨が相対的に下落する要因になるからだ。今年初めは6月利上げ説が大勢を占めていたが、ここへ来て時期が後ズレするとの見方が急速に増え、なかには量的緩和第4弾(QE4)もあり得るとするアナリストも現れ始めた。

変化をもたらしたのは米国経済に対する見方である。その指標として年前半に注目されたのは雇用統計だった。今年3月、経済が持続的な回復軌道に乗るメドとして米連邦公開市場委員会(FOMC)が示した失業率は5.0%〜5.2%だったが、これが1月の5.7%から徐々に回復し、8月は5.1%とその水準をクリアした。本来ならこれで利上げのお膳立てが整うはずだった。

しかし、8月下旬の世界同時株安などで市場の不安定性が高まったため、FRBは9月の利上げを見送った。同月前半あたりから米国の製造業や消費など他のマクロ指標に弱さが見え始め、さらに10月に入ると事前予想を下回る結果が相次いだことで、今度は先行き減速懸念が強まっている。そうなると利上げは当面ないというのが現在の市場の読みだ。

したがって、円安材料となる利上げ時期は今後の米国経済次第ということになる。景気が上向くには、最近力強さに欠ける個人消費と輸出の動向が大きなポイントになるだろう。個人消費については、調査会社コンファレンスボードの消費者信頼感指数が8、9月に連続して上向いているため年末商戦は底堅いと予想されているが、このところ緩慢な賃金の伸びが上向くようであればなお心強い。

また、米国の輸出が回復するには欧州や新興国の経済、あるいはドルレートの好転が必要だ。中国への直接輸出の比重は大きくないが、欧州や東南アジアの中国依存度が高いことを考えると、中国経済の減速が止まればこれらの地域を介して間接的なプラス要素になる。