アメリカ,通貨下落
(写真=PIXTA)


――年内確実と言われるゼロ金利脱出の影響とは――

9月には確実と思われていたFRB(米連邦制度準備理事会)による金利の引き上げが見送りになった。中国経済の減速懸念などによる影響もあったが、予想された今回の金利引上げがなかったというだけで、世界中の株価は大きく乱高下した。

米国の利上げはこれまでも様々な形で世界経済に影響をもたらしてきた。とりわけ新興国通貨への影響は大きく、仮にドル高新興国通貨安が加速すればアジア通貨危機のような通貨の連鎖的な暴落を再現しかねない。

そこで米国利上げが世界に与える影響について考えてみたい。


「米国利上げ」で揺れる世界経済

米国の政策金利が上がるというだけで、なぜ世界中の株式や債券、為替市場が大きく揺れ動くのか。その理由は、世界経済の中心地は依然として米国であり、金融市場全体の動向を米国が握っているからだ。金利上昇=米ドル高といった簡単なロジックではないのだ。

たとえば、世界の株式市場の時価総額の半分は米国市場が占めている。米国の金利が上昇すれば、株式よりもリスクの少ない債券に資金が逃避してしまう可能性があり、金利上昇は株価下落のサインでもある。実際に、ニュヨーク市場のダウ平均株価は、FRBが金利引き上げを示唆し始めてから徐々に下落し、すでにピーク時から2割近くも下落している。

そして、現在の金融マーケットは先物やオプションといった金融派生商品によるデリバティブ市場が発達しており、そこではレバレッジと呼ばれる『てこの原理』を利用した、少ない資金で莫大な資金を運用する投資戦略が日常的に行われている。そこへ、ヘッジファンドなどのリスクマネーが莫大な資金を投じて収益獲得を目指してくるため、金融マーケットの動きはますます増幅されていく。

米国の金利引き上げは大きなトレンドの変化であり、世界中のリスクマネーが活発に動いてくるために、予期しない変化が起こりうるということだ。


米国金利の動きが起こしたアジア通貨危機、リーマンショック?

実際に、過去の米国の利上げは様々な形で世界経済に影響を与えてきた。1997年に起きたアジア通貨危機も、米国のドル高政策によって金利が大きく引き上げられ、当時米ドルと連動させる「ドルペッグ制」を採用していたタイやマレーシアなどのアジア通貨が実力以上に大きく上昇していたところにヘッジファンドなどが売り浴びせをしたことによって起こった。

リーマンショックの原因となったのも、間接的に米国の金利政策が関係している。2000年のITバブル崩壊などの影響で米国景気が大きく後退し、FRBが金利を1%台に引き下げた。その結果、低金利を背景に住宅建設が伸びて、その資金調達のために住宅担保証券(MBS)や債務担保証券(CDO)が大量に発行される。サブプライムローンも活発に行われるようになり、住宅市場が徐々に過熱した。2004年になって、FRBは金利上昇に転じるのだが、金利上昇のスピードがあまりにもゆっくりだったために、不動産市場はさらに過熱してしまう。

ところが米金利が徐々に上昇して行く中で、利息を払えなくなったサブプライムローンが次々に破綻。資金を融資していたヘッジファンドなども破綻し、最終的には当時米国第4位の規模だった投資銀行のリーマンブラザースが経営破綻。その影響は世界中に連鎖することになった。百年に一度の金融危機と言われたリーマンショックのきっかけを作ったのも米国の金利動向だったというわけだ。

このリーマンショックから立ち直るために始めたゼロ金利政策を転換し、利上げを行った場合の影響は、すでに様々な分野に織り込まれはじめている。

米国の金利引上げ観測は米ドル高を招き、アジア諸国などの通貨を下落させた。通貨安による輸入物資の高騰はインフレを引き起こし、金融引き締め=金利上昇を招いて株価が下落。世界的に景気が減速する不安が広がり、原油や鉄鋼など資源価格の急落を招いている。

たとえば、インド経済は成長戦略を前面に押し出した「モディ政権」の誕生などによって株式市場は急騰し、インドルピーも大きく上昇した。ところが、米国の金利引上げ観測から世界の金融マーケットは不安定となり、インドルピーは2年ぶりの安値をつけ株価もモディ政権発足前まで戻ってしまった。

中国でも国内にむかっていた投資資金が大量に米国に戻りつつある。中国経済の減速懸念もまた、FRBの金利政策と無縁ではない。米国政策金利の引き上げひとつで、世界中の経済のトレンドを変化させてしまう。それだけ米国金利の動向には大きなインパクトがある、というわけだ。


今後の世界経済を左右する米国の「出口戦略」

米国の利上げ観測によって中国やインド経済が減速し、資源価格下落のダメージを受けるブラジルやオーストラリアも大きな影響を受けている。この利上げを乗り切ったとしても、その後に続く日銀やECBの(緩和から利上げに転じる)出口戦略によっては、再び世界経済は混乱しかねない。ギリシャ危機以上と言われるフォルクスワーゲンの不正問題で、再びユーロが不安定化する可能性も高い。

新・三本の矢が放たれようとしているアベノミクスも、その実現は絶望的だ。米国の金利上昇に伴う数多くの障害をどう乗り切るのか。利上げのタイミングや規模によって、その成否は大きく変化する可能性がある。

その鍵を握るのが米国の出口戦略を担うイエレンFRB議長だ。彼女の決断と行動に世界中が揺れ動くことになる。(提供: Vortex online

【関連記事】
一生に一度は行きたい!世界の有名な美術館・博物館トップ5とは?
資産運用から見る『区分所有オフィス』投資のメリット
相続税対策としての不動産活用術
圧縮率8割も!? 相続対策の意外な方法とは
10位でも1億円!? 世界一高いスーパーカーランキング【2015年版】