同社は9月に、銀座店の紳士部門の大規模な売り場改装を実施した。丸の内や有楽町のビジネス街で働く客層をとらえることに成功し、リニューアル後の同部門の売上高は前年比2ケタの伸びが続く。これにより、10月は国内客向けでも前年比3%超の増収ペースで推移しているようだ。

6~8月の粗利益率が24.4%(前年同期は26.5%、前四半期は25.2%)に低下したのは、利ザヤの小さい高額品や食品が売上全体に占める比率が、旺盛なインバウンド消費の影響で急激に増えたため。しかし、ここへきて高採算の紳士部門の売上が伸びてきたことで、第3四半期(9~11月)以降は粗利益率も上昇する可能性が高い。

下期(9月~来年2月)はインバウンドの比較ハードルが一段と高くなるものの、プラスアルファの材料もある。一つは、海外金融機関との提携による富裕層の呼び込みだ。11月から、約50万人に上る中国・交通銀行のカード顧客に、ディスカウントチケットを配布するなどのサービスを開始する。来年3月にはタイの小売グループとも相互サービスを始める見通し。

富裕層の顧客は固定化しやすく、リピート需要が見込まれる。また、インフラ面では直近、羽田空港と中国各地を結ぶ国際線が1日当たり2倍超に増便されたことも追い風だ。インバウンドの獲得に注力する他社との競合リスクが意識される半面、こうした利点はまだ株価に織り込まれていない。

銀座活況で長期恩恵

政府の観光振興、東京五輪へ向けて訪日客が増加の一途をたどる中で、銀座はインバウンド需要の受け皿となるだけではなく、再開発によって一段と魅力を増すポテンシャルがある。晴海などの銀座からほど近い場所に建設される選手村は、五輪後には民間に払い下げられ、数千世帯分の潜在需要を生み出す。売上高の9割を銀座店が占める松屋にもたらす恩恵は大きい。

PER46倍台、PBR(株価純資産倍率)4.8倍の株価水準は、常識的に考えれば割高感がある。ただ、インバウンドというテーマ性に加え、土地の含み益の観点からもその点には目をつぶることができる。実際、同社の過去の株価はそうして動いてきた。11年3月を底とする上昇第1波、今年3月ボトムの第2波に続き、今後大きな第3波の到来が予感される。(10月28日株式新聞掲載記事)

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