PBR(株価純資産倍率)とは、1株当たりの純資産に対して株価が何倍まで買われているかを示す指標である。PBRが1倍未満である場合は、株価が割安であることを意味する。また、PBRはPER(株価収益率)と並んで、投資家が頻繁に参照する指標でもある。PERが企業の収益性からみた評価であるのに対し、PBRは財務面からみた評価だからだ。
純資産とは業績・市場の趨勢に左右されない価値
そもそも企業の純資産とは何か。大まかに説明すると、企業の資産から負債を引いた分に相当する。資産、負債、純資産の金額は、企業が公表する決算書の中の貸借対照表に示されている。
株式とは、企業が設立時や増資で資本金を集める際に、その対価として投資家に渡す権利でもある。発行済み株式の1%を保有する株主は、企業の純資産の1%を持つことを意味する。もし、その企業が負債以上の資産を残したまま解散すれば、1%分を引き取る権利がある。
成長期待が全くない企業であっても、ビルや他社の株式といった保有資産が多ければ、解散時に株主に還元される金額も膨らむ。純資産を発行株数で割って算出する「1株当たり純資産」は、企業の業績内容や市場の趨勢とは関係なく決まる揺るぎのない価値であり、株価の底値として意識されてしかるべき水準といえよう。
なお、「1株当たり純資産」を計算する際の分母「純資産」は、決算書の貸借対照表に示される自己資本を指す。「純資産の部」から少数株主持ち分や新株予約権等を引いて算出される。
PBRは万能な尺度ではない点に注意
PBRは、株価がこの1株当たり純資産の何倍に相当するかを示している。PERについては「何倍まで投資しても大丈夫」という尺度はない。これに対しPBRは、1倍を割り込めば「企業を解散した場合の価値(解散価値)を下回っているため割安である」という明快なメッセージが含まれている。
ただし、実際にはPBRが1倍を割り込むことは日常茶飯事である。その理由は、上場企業は多くの従業員や取引先を抱えており、そう簡単に解散することはあり得ないからだ。解散価値は、とても観念的な数値と見ることもできる。
また、PBRが1倍を割ったからといって、そのことだけで企業の経営者が責任を問われることはない。加えて、もし本当に事業活動を停止しようとすると、さまざまな債権債務関係を整理する必要が生じる。固定資産の減損処理などで、PBRの前提としている貸借対照表の数字は容易に変化するので、必ずしもPBRが万能とは言い切れない点に注意したい。
安値で放置されている銘柄には理由がある
従って、 PBRが1倍を割り込んでいる株を割安だからといって買うべきだと考えるのは、余りにも短絡的といえる。「安かろう悪かろう」という言葉が示唆するように、ある銘柄が安値で放置されているのには、それなりの理由がある。「割安に買いなし」は、まさにそういう状態を表現した相場格言である。
ちなみに、本稿執筆時点である某日の日経平均採用225銘柄のPBRの平均は1.3倍であった。製薬株や食品株のほか、電機株や情報通信株の一角で2倍を超える銘柄が目立つ。一方、鉄鋼株、非鉄株、金融株、大手商社株などに1倍を割り込んでいる銘柄が多い。各業界ごとに平均的なPBRの水準は上下するものなので、絶対的な基準として過信するのは考えものだろう。