かつて上場企業の商号変更は財務基盤が強固でないとできないとの見方から材料視される場面も珍しくなかった。上場企業にとって、文字通り「会社の看板」ともいえる商号を変えるのは、業種によっては多くの費用がかかることもあって大冒険でもある。イメージアップにつながり、ブランド力の向上を図ることができれば、投下したコストを超える企業価値の創造にもつながる。しかし、2000年前後のITバブルで多くの新興企業が上場した辺りから、商号変更は必ずしも、新たな企業価値をもたらすとは言い切れなくなっている。
パナソニックの商号変更コストは400億円
企業が商号を変える背景としては、イメージの刷新や製品名、ブランド名との統一のほか、合併、事業の多角化など様々である。また、先に述べた通り、社名変更には多大な費用がかかるケースも多い。たとえば、2008年に松下電器産業から社名変更したパナソニック <6752> は、全国にある販売店の看板の取り替えだけでも約200億円、総額では推定で400億円に達した。同社としては、「松下」「ナショナル」「パナソニック」の3つのブランドを一本化するメリットの方が大きく、数年でペイできると判断して変更に踏み切った。
もちろん、商号が変わったからといって、直ちに企業業績が飛躍的に向上するわけではない。しかし、市場参加者は商号変更そのものに反応するのではなく、上場企業の将来展望に期待を抱き反応する。商号変更は企業のメッセージそのものであり、経営理念・経営戦略の象徴と考えられるからだ。
新たな企業価値創造のメッセージ
市場参加者は変化に敏感である。とりわけ、業績が好調な優良企業が商号を変更するとなればなおさら期待感が高まる。優良企業は、商号変更の背景にある業容の拡大、製品名やブランド名の統一などの意義を明確に示すことで、投資初心者にも分かりやすいポジティブなイメージを与える。
特に1980年代に広がったCI(コーポレート・アイデンティティ)戦略や、90年代のブランディングブーム、さらにはグローバル化に向けた経営戦略の見直し等の一環として、商号変更は新たな企業価値を創造するメッセージと受け止められた。商号を変えることで上場企業がどのように変わろうとしているか、将来どの事業分野に重点を置くのか、海外戦略はどうか、などのプラス材料を連想して先高期待を高めることとなった。