(写真=PIXTA)
前回 に続き、実家の大家業を引き継ぎ、短期間で収支の建て直しをした経験があり、大家さん専門の税理士・司法書士の渡邊浩滋氏に、不動産投資や賃貸経営でどのような点に注意すべきかを聞いた。(提供: storie2015年10月23日掲載 )
節税目的での不動産購入のリスク
storie: タワーマンションの購入による節税策も話題になっていますね。
渡邊税理士: 不動産投資もそうですが、地主さんは相続税のために建物を建てる人がいます。ただ、それは投資でもなければ、経営でもないわけです。相続税を安くするために建てる建物は、建物の金額がものすごく高いわけです。相続税の節税になるということは建物が2億円としますその評価が圧縮されて5000万円くらいになるわけです。その差額があればあるほど相続税の節税になるわけです。節税したくてどんどん高額の建物を建てるということになるわけですが、はたしてその入居者は?返済は?そこに苦労することになります。
タワーマンションは、評価が下がったとしても売却できるのでロスがなく人気なわけですが、投資は価格の暴落もあるという不安な要素もあるわけで、“節税ができる“ということが一番の目的になってしまうと、そういったリスクが抜けてしまうわけです。
storie: 不動産投資家の方は金利の上昇によるリスクも承知の上でやられているのでしょうか。
渡邊税理士: 気にしている人はいると思いますが、いつ上がるのか、ということはわからないので、その点は、あまり深刻に考えていない方が多いのではないでしょうか。
storie: アベノミクス以降に、不動産投資を行っている方たちが増えているのでしょうか。
渡邊税理士: もっと前から、2000年に『金持ち父さん貧乏父さん』が出版された頃から、不動産投資が注目されるようになりました。多少、景気がよくなって融資がつきやすい今、注目されています。少し前で言うと、リーマンショック前も同じような状況でした。
storie: リーマンショック後に、個人の不動産投資家に影響はありましたか。
渡邊税理士: 個人の投資家への影響はさほどなかったのではないかと思います。不動産投資の魅力でもあると思いますが、キャピタルゲイン狙いの場合は影響を受けますが、インカムゲイン狙いが多いと思いますので、景気動向に左右されにくいです。多少、家賃が下がることがあっても、大幅な影響はなかったのではないかと思います。
ただ、融資を受けられなくなって、買えなくなったということはあります。逆に、その厳しい時に融資を受けられた方や頭金を用意できた方は儲かっていました。相対的に不動産価値が下がっていましたので、利回りがすごく高く、今、都内で6%、7%ぐらいの利回りが、リーマンショックの時には10%ぐらいありました。その時に購入できた方は儲かっているのではないかと思います。
賃貸業にはまだ伸びしろがある
storie: 今後、人口が減り、相対的に賃貸経営が難しくなっていくのではないかと思います。物件を選別する目と経営手腕があれば、リターンを見込める市場がまだあるということでしょうか。
渡邊税理士: 確かに人口は減っていきますが、賃貸業がなくなるとは考えにくいです。オーナーさんが淘汰されことはあるでしょう。そこを勝ち残っていく方が続けていくと思います。ひと昔前は、需給バランスでいえば、需要(入居者)の方が多かったので、何もしなくても入居者が入ったわけです。今はそのバランスが崩れ、供給(物件)の方が多くなり、ようやく賃貸業界でも差別化や経営力が必要になってきたのだと思います。私はこの業界は、まだまだ発展性があると思っています。
storie: 最近ではAirbnb(エアビーアンドビー:空き部屋などを宿泊施設として提供するサービス)も増えていますが、外国人の旅行者に一時的に貸すことも魅力的な選択肢ですか?
渡邊税理士: そうですね。空室対策の一つとして、すでに若いオーナーの方はやられていますね。
storie: アルティメット総研が運営している「ウチコミ!」にも協力していますね。
渡邊税理士: 賃貸業の起爆剤になればと思い、協力しました。大家さんは、これまで入居者を見つける時には管理会社にお願いするしか選択がなかったわけです。すると、空室があるほど管理会社さんが有利になり、広告費を積まないと積極的に入居者を確保してもらえないという状況に陥ってしまいます。そこに歯止めをかけなくてはならないので、大家さんご自身が入居者を掴まえられるような市場を作り、管理会社と対等にやりとりできるようなきっかけになればいいな思い、とサイト作りにも協力しました。
投資よりも賃貸経営がポイントに
storie: 最後にこれから不動産投資をやろうとしている方へのアドバイスをお願いします。
渡邊税理士: 不動産投資はやりたい人は多いのですが、その中で、いい物件がない、融資がつかず、なかなか買えない、いった人が、物件を買えた時に、そこで満足をしてしまう方がいます。それでは、投資が目的になってしまうので、そうではなく、どうしたら経営が上手くできるのかに考えを切り替える必要があるので、その対応ができれば、大きな失敗はしないのではないかと思います。
私が運営に関わっている「行動する大家さんの会」という団体がありますが、この会では、投資よりも賃貸経営を学ぶことを重視しています。いかにいい物件を買うかといった、買うまでの勉強会というものは多いのですが、買った後にどうやったら上手く経営できるのか、不動産会社さんとよいお付き合いができるのか、入居者さんに喜んでもらえるのか、といった経営を学ぶ会です。不動産投資をこれからやってみよう、という方も参加は可能ですので、興味のある方は参加していただければと思います。
税理士・司法書士 渡邊浩滋氏
明治大学法学部在学中に司法書士試験に合格。卒業後総合商社の法務部に入社。債権回収などを担当するが、税理士試験を目指すため退職。その後、実家の大家業の経営が危機的状況にあることが発覚。税理士試験合格後、親から大家業を引き継ぎ、空室対策や経営改善に取り組み、危機的状況から脱出。大家兼業税理士として悩める大家さんのよき相談役となるべく、不動産・相続税務に強い東京シティ税理士事務所に勤務。
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