マンショントラブル
(写真=PIXTA)

「パークシティLaLa横浜」の傾き事件のような大問題にはならなくとも、マンション入居後のトラブルは気になるところ。マンション管理費の滞納やマンション住民や管理会社の間でのトラブルが発生したとき、誰に相談すべきだろうか?(提供: storie2015年10月23日掲載

「マンション弁護士会計士.com」を運営し、マンションのトラブルを手がける数少ない弁護士として、管理費滞納や規約変更の問題を専門的に扱う神戸靖一郎弁護士に最近のマンション管理をめぐる問題について話を聞いた。


マンション管理のトラブルで多いのは?

storie:マンションの管理について、どのような相談が多いのでしょうか?

神戸弁護士:管理費回収の相談がダントツに多いです。例えば、管理費と修繕積立金を合わせて月額3万円だとすると、12ヶ月で36万円。これが3年、4年経つと100万円、200万円と膨らんでいきます。さらに遅延損害金のパーセンテージが18%などと高く設定されていることが多いことから、3年、4年以上滞納が続いている案件になると、弁護士の出番になってきます。

最近は管理会社もこの点をフォローするようになってきて、滞納が1年続いたら、「少額訴訟を起こしましょう」と管理組合に提案をするところもあります。60万円以下の少額訴訟は、フォーマットがだいたい決まっているので、きちんと管理をしている管理組合ならば、判決を取ること自体は難しくありません。

そうなると、弁護士は、少なくとも強制執行が必要になってくるような案件を扱うことになるわけです。あとは、区分所有者同士の騒音に関するトラブルや、区分所有者と管理会社との問題で感情的な対立にエスカレートしてしまうことなどでの相談も多いですね。


管理会社の変更に伴うトラブルー旧管理会社が引継業務を怠る

storie:管理会社とのトラブルとは、どのようなものでしょうか?

神戸弁護士:管理会社の変更をめぐるトラブルの相談があります。法的には、管理規約に則って、不在の人から委任状をもらって、総会決議を取ればそれで済みますが、実務上は、元の管理会社から新しい管理会社への引継がうまくいかず、大ごとになってサポートの依頼が来ることがあります。

特に旧管理会社のフロント担当にとっては、後ろ向きの業務になるので書類の引継ぎを渋ったりすることから、トラブルになります。

また、管理会社の変更とセットで管理規約を変更するケースがあります。15年から20年ぐらい前までのマンションには、管理規約に問題があることがあり、例えば、管理規約に特定の管理会社を明記しているといったことがあります。そうすると、管理会社を変えるには管理規約を変更せざるを得ないわけです。

管理会社の変更の際にトラブルとなるのは、実は元の管理会社に対して不満があるケースがほとんどです。お金の問題だけならば、トラブルにはなりません。

例えば、大手財閥系のデベロッパーから独立系のデベロッパーに変更すると、通常2、3割から場合によっては5割くらい費用が安くなりますが、これは経済合理性でやっているだけなので、お互いに遺恨はありません。

これに対して、「管理会社のフロントが気に食わない」とか、「管理会社に対して経理面で不信感がある」といった事案の場合に、弁護士に相談が来ます。「何となく不安だから」という相談ではなく、課題が特定された状態での交渉の依頼が多いです。管理組合としては、後任の会社への引継ぎまでを含めて、これまでの管理会社がきちんと最後まで対応すべきという考えのようです。


管理費の不正流用のケースは?

storie:管理組合の理事長や理事による管理費の不正流用といったことはあるのでしょうか?

神戸弁護士:例えば、理事長の親族が建設会社を経営しているといった場合、やろうと思えばできてしまうことです。管理会社には通常、施工業者の子会社があります。例えば、大規模修繕をする場合に、3社の相見積のパターンになると、たいていは管理会社かその子会社が、他の2社の見積を見ながら自社の見積を作れることが多く、契約を取ります。また大手管理会社の1社受けの場合、受注額の2-3割のマージンを抜き、丸々下請けに出したとすると、その先はブラックボックスになりますよね。管理組合が、その外注先までのお金の流れを全部把握できるかというと、不可能です。

次いで多いのはキックバックですね。これが発生するのは、「管理会社を変更するとき」と「大規模修繕のとき」です。大規模修繕だと、1億円単位のお金が動きますし、管理会社の変更は、何千万円という売上が管理会社に立つか立たないかという話ですから、管理会社としては当然、営業をして契約を取ろうとします。経済合理性だけで契約できれば簡単ですが、たいていそうではなくて、「これまでの付き合いがあるし…」という話が始まるわけです。

基本的には理事会の全員、少なくとも過半数以上を説得して、総会に出して、通さなくてはいけないから、内部で強力に推進してくれる人が必要になってきます。建前としては、理事にその役目を無償で担ってもらうのが健全なのですが、そこにインセンティブを出す管理会社があるということは聞いています。大規模修繕も、同じ構造ですね。ウチに受注させてくれたら、キックバックを渡しますよ、という話も聞かないわけではないです。

ただ、あまり表に出てこないためか、それほど多くは聞かないのですが、やっていることが分かると目立ってしまうという面もあるのではないでしょうか。

神戸 靖一郎 弁護士 第二東京弁護士会所属
慶應義塾大学法学部政治学科卒業、千葉大学大学院専門法務研究科法務専攻卒業、平成19年弁護士登録。仕事の中心は、交通事故等の損害保険、労働災害、マンション管理。

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