origin_9681099434


資金循環統計とは

資金循環統計は、日本銀行調査統計局が1954年分から作成している、国民経済の動きをお金の動きから包括的に捉えた統計です。統計の公表は、四半期ごとに、当該四半期の約三ヶ月後に速報が、約六ヶ月後に確報が公表されています。政府、法人、家計といった経済主体各部門の金融資産・負債の推移などを、預金や貸出といった金融商品ごとに記録をしているため経済活動をお金の動きから追う事ができ、中長期の経済におけるトレンド分析をするには とても良い統計となっています。

たとえばある家庭で考えると、ご主人が企業から給与を受け取ったとします。その経済活動の裏には、企業が銀行を通して家計に振込をおこなっており、企業の預金は減少し、家計の預金額は上昇します。また企業が設備投資をする際、金融機関からの借入金、債券、株式の発行によりファイナンスする訳ですが、借入金であれば企業の負債は増え、資金不足の状態にあると分析する事ができます。そのファイナンスされたお金の供給元は、家計での余剰資金が銀行に預金として預けられそのお金が利用されている訳です。資金循環統計では、このような資金の動きを、各経済主体を列とし、金融資産・負債を行とする三種類の表を用いてあらわされています。

第一の表は、一定期間の金融取引によって生じた資産・負債の増減を各経済主体ごとに記録したもので金融取引表(フロー表)と呼ばれています。二つ目の表は、取引の結果として保有される資産の残高、負債の残高およびその形態をあらわした金融資産・負債残高表(ストック表)があります。これを見ると1,590兆円を超える家計の資産がどのような割合と形態で保有されているのかが手にとるようにわかります。第三に、ストック表の当期末残高と前期末残高の差分とフロー表の取引額との乖離額を示した調整表で構成されています。調整表は価格変化による金融資産の保有損益の推定に利用できます。本稿ではフロー表、ストック表にフォーカスして以下で解説したいと思います。


①フロー分析

金融取引表(フロー表)ではある期間の資金の流れが読み取れます。つまり調達先と運用先とが読み取れるので経済主体別の資金の過不足を分析することができます。また時系列を勘案しフロー分析をおこなうことで、資金余剰/不足の経済主体がこの数十年で大きく変化してきたことがわかります。投資が盛んだった1970年代前半までは法人企業部門が最大の資金需要部門でした。資金の供給先は家計でその供給額は金融機関を大きく上回っていました。しかし第一次オイルショック以降、企業が投資抑制を図る一方で、政府は中央主導の公共事業拡大による経済活性化のため、法人企業部門にかわり最大の資金の需要先(資金不足部門)となりました。もちろんこの時も最大の資金供給者(資金余剰部門)は変わらず家計でした。

1980年代に入ると財政再建により政府の資金不足が縮小、また税収の増加により家計とともに資金余剰部門となりました。その一方で設備投資や土地投機が80年代後半は拍車がかかり企業が再び資金不足部門となりました。1990年代にはいるとバブルが弾けた結果、企業は設備投資を控え資金余剰部門となる一方で経済活性化を図る政府が最大の資金不足部門へと変化しました。2000年代にはいってもこの構図は変わらず、企業の設備投資抑制が続く一方で政府が最大の資金不足部門となっています。このようにフロー表を分析することによりどの経済主体に資金が余剰であり不足しているかが一目瞭然です。中長期的な金利分析や経済構造を理解するのに非常に有用な統計であるといえます。