(写真=PIXTA)

コンピューターを使い、2000分の1秒単位で取引をする高速取引について「なぜ規制されないのか」と読者から質問が届いた。海外では規制の動きも進んでいるが、日本では拡大の方向にある。なぜだろう。

市場の7割超を占める?高頻度取引とは

高速取引は高頻度取引とも呼ばれる。英語で「High Frequency Trading」と呼ばれるため、HFT取引とも呼ばれる。これはコンピューターを使ったアルゴリズム取引と言われる物の一種だ。1円、PTSによっては0.1円といった端数も含めて最小単価において高頻度、2000分の1秒のスピード、すなわち1秒間に2000回のペースで売買を行う取引、1円の利益を高速で積み上げていく。

高頻度取引が東証で広がるきっかけになったのは2010年の「東証アローヘッド」と呼ばれる売買システムの導入だ。東証ではかつて、一度に大量の注文が発生した場合、発注が成立しないことがあった。2005年にはシステム障害によって半日近く取引ができないこともあった。これらの問題を解決するために、1000分の1秒単位で処理が行われるアローヘッドが導入された。

アローヘッド導入に伴い、株式のアルゴリズム取引、高頻度発注が可能となり、取引件数は増加した。現在は市場の7割超がアルゴリズム取引だと言われている。注文件数の増加に対応するため2015年9月、東証はアローヘッドをリニューアルし、1日あたりの処理能力を従来の2倍に増やし、注文を受け付ける時間も従来の半分となる2000分の1秒単位にした。

アルゴリズム取引の問題点。海外では規制の流れ強まる

アルゴリズム取引の問題点としては、プログラムに不備があった場合、誤動作が生じる可能性があることが挙げられる。アメリカでは2012年にはナイト・キャピタル・グループが45分間で340億円もの損失を出した。予期しないプログラム上の問題で市場に大きな悪影響を与えてしまう可能性があるのである。手動と高頻度取引の伝達スピードの違いから、証券会社がスピードの差異を利用して手動注文を確認した後に、有利な取引を先回りして行っているのではないかとの指摘もある。

海外では高頻度取引に対する規制が進んでいる。投資家自身も想定していないエラーにより大きな損失が出てしまうリスク、またコロケーションと呼ばれる取引所のサーバーに隣接した施設に機関投資家のサーバーを置くことで更にサーバーに情報が伝達する時間を短縮するサービスを行っていることも、投資家間において公平ではないとの指摘が行われている。

投資判断の失敗による投資家の損失に規制当局が関与することは基本的に想定されないが、プログラム上のエラーにより投資家、さらに他の市場参加者に対しても悪影響を与える取引については規制をかけるべきであると各国では指摘されている。

こうして規制当局が事前にプログラムを検査し承認する制度を導入したり、投資家サイドでプログラムを定期的に検査するよう義務づけたり、一定以上価格が変動した場合にプログラムが停止する機能を導入することなどが行われている。

日本では規制の動きは今のところない

日本では規制の方向では議論がなされていない。最大の理由はアローヘッドの安定性だろう。特に2015年9月のリニューアルによって前述の様な一定の基準を超えた注文に対して自動的に抑制するリミット機能や、通信異常時の自動注文取消機能といった、プログラムの暴走を抑制する機能が導入されている。

高頻度取引は投資家にとって悪い事ばかりではない。常に取引を行っている事で流動性が生まれ、投資家が取引をしたい時に相手がいないという状況が少なくなる。取引を行うチャンスがあるのだ。また不必要な株価の変動も抑制される為、適正な株価にて購入できる可能性が高い。誰もが売買できる市場を形成、マーケットメイクを行っているという意味において、高頻度取引は必ずしも悪であるとはいえない。

アルゴリズム取引自体も既に現在では個人投資家でも行える状況となっている。いかにエラーが出ないように運用するか重要なのである。ただし税法上では推進はしていない。海外事業者が国内に高頻度取引を行う為のサーバーを設置した場合、現在は恒久的施設、所謂支店として扱われ課税されてしまう。消費税上では対応が行われているが、税率が高い日本でサーバーが支店かの様に扱われてしまう現在の税務上の取り扱いは海外事業者から見ると魅力的とは言いがたい。

高頻度取引が活発化した2010年以降、証券会社に在籍していた多くの株式トレーダーが失業したと言われている。しかしその一方で今現在も活躍している株式トレーダーは数多く存在しているのも事実だ。様々な分野でシステム化、自動高速化が進む現在において株式市場のみ自動高速化を拒むことは難しい。

おそらく今後、アルゴリズム取引・高頻度取引は更に広まっていくであろう。拒否反応を起こすのではなく、投資家としていかに活用するか、また機関投資家の行う高頻度取引をいかに利用して利益を出すかを考えていかなければならない。(ZUU online 編集部)