(写真=PIXTA)
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乗用車に占める軽自動車のシェアは2014年に40.8%となり、3年連続で前年を上回っている。税金などの維持費が安く、燃費も良く室内空間が広いので、小型乗用車とくらべても遜色ない使い勝手で、人気が集中するのも当然ともいえよう。

だが実は、現在の軽自動車は普通車より安くはない。

軽自動車には小型車より高価格なものもある

昨年度軽自動車販売ランキングで9位となったスズキ ハスラーは146〜172万円、スズキ ワゴンRやホンダのN-WGNカスタムで154万〜160万円ほど、ダイハツ タントカスタムやホンダ N-BOXカスタムで180万〜195万円くらいといったところだ。

1979年に出たスズキ 初代アルトは47万円という宣伝文句が世間に広まり、「軽自動車の魅力=価格の安さ」というイメージを定着させる存在だった。47万円から現在の200万円弱を比べると、相当上がっているようだ。35年前の大卒初任給は10万円ちょっとという時代で、アルトを買うなら、初任給の4-5カ月分だ。現在は20万円ほどだから、アルトの最廉価バージョン89万円を買うなら、同じく4-5カ月分で、ここだけ考えるとフェアな気もする。

ただしこれは最安値のモデルの話である。各車種のラインアップも増え、オプションなども考えると、全体としては、高価格帯にシフトしている。

ちなみにトヨタのHV小型車アクアなら176万円から、ヴィッツにいたっては113万円から購入でき、登録車と軽自動車の価格的な境界はもはや存在していない。

ではなぜ、軽自動車は価格が上昇してしまうのだろうか。

第一の理由は、参入メーカーが増え、軽自動車のラインアップが増え、競争が激しくなったことだ。軽自動車であっても販売は漸減すると見られている。

昔なら、スズキとダイハツの2社だけでシェア争いをしていたものが、OEM含め他のメーカーも次々に加わってきたのだ。そうなると単価を上げざるを得なくなる。開発費も上昇している。軽自動車はボディや排気量から安全性能に劣るというイメージを持つ人も多いので、それを払拭すべく衝突軽減ブレーキやESPをはじめ、安全性能の強化は避けられないからだ。

0.1km/L単位というし烈な燃費競争もある。1位のアルトはガソリン1リッターで37.0km走行する。これは4代目プリウスの40.8km/Lに近い。燃費を上げるために、エンジンの機能を向上させ、アイドリングストップ機能をつけ、部品一つひとつを見直すボディの軽量化するなど、技術者が努力に努力を重ねている。当然、研究開発費も高くなる。そして最近トレンドのトールワゴンのように、室内や荷室を広くしていることも、価格上昇の要因があると思われる。

付加価値あるS660だが販売台数にインパクトはない

価格が高くなった軽自動車が小型車に取って代わるのだろうか。もちろんそのようなことはないだろう。メーカーは、税金など維持費の安さや新たな価値をつけて魅力を訴え、売ろうとしている。

新たな付加価値を持った最たる存在が、先日日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)で得票点2位を取ったホンダのS660である。これは1980年代に出たホンダの2シーター(2人乗り)軽オープンカー「ビート」の後継車種。ビートには、生産終了後も根強いファンがおり、ビート用のパーツを開発すると売れ行きが良いほどである。取り回しの良いライトウェートスポーツカーは運転の楽しみを教えてくれるとあって、S660は、ビートのファンや自動車評論家たちにも高い評価となった。

とはいえ、2015年3月に発売されたS660だが、2015年4-9月上期の販売台数は6500台弱と、首位のホンダ N-BOXの77000台と比べて10分の1以下だ。それでもCOTYで高い得票数を得られたのは「ビートの後継車種を出した」というホンダのクルマへの情熱が感じられたからだろう。S660の販売台数がホンダに大きな利益をもたらすものではないが、企業イメージを向上させたという意味はある。

逆風吹く軽自動車の維持費

最後に税制の問題が挙げられる。

全国軽自動車協会連合会は12月16日、2016年度の税制改正大綱に関する声明文をウェブサイトで発表した。連合会が要望していた「軽自動車税における環境性能割の税率の上限2%」や「現行の軽自動車税のグリーン化特例(軽課)の適用期限の 1 年延長」の決定について歓迎すると記されている。

具体的には、新たに導入される軽自動車税における環境性能割において、自動車取得税の現行エコカー減税よりも課税対象の範囲が限定されたことを評価するというものだ。たしかに軽自動車に対する優遇措置が取られたことは評価しても良いかもしれない。

だが近い将来には消費増税が待っている。これは自動車需要の落ち込みに確実につながるだろう。

2015年の軽自動車販売の見通しについては、消費増税前の駆け込み需要で2014年の1-3月が過去最高だったこともあり、2014年を超えることは難しいと見られる。

消費増税の件もあり、これから軽自動車は車両価格や維持費が安いというイメージは薄れる。軽自動車は二極化の方向性を持ち続けるだろう。付加価値を持たせる代わりに価格もそれなりに高いか、車両価格の安さを追求するか。

だが開発および生産コストを考えると限界もある。いずれにせよ軽自動車にも厳しい時代が来るのではないか。(ZUU online 編集部)