埋蔵文化財
(写真=PIXTA)

2015年7月に京都市上京区のマンション建設予定地で飛鳥時代から奈良時代にかけて誇った出雲氏の屋敷跡の遺跡が見つかったことで話題になった。これは、果たして土地の所有者にとって「お宝」と言えるのであろうか。今回は、この気になる「お宝」の取扱いについて解説してみたい。

埋蔵文化財とは

土地の下に埋まっている遺跡は、お宝ではなく「埋蔵文化財」というのが正式名称だ。実は埋蔵文化財について、役所は「この辺に埋蔵文化財が埋まっているであろう」ということを把握している。ここでの役所というのはほとんどの場合、市区町村の教育委員会が該当する。この教育委員会がある程度把握している埋蔵文化財の範囲を「周知の埋蔵文化財包蔵地」という。

教育委員会を訪れると、周知の埋蔵文化財包蔵地を示した地図を誰でも閲覧させてくれる。自分の土地が周知の埋蔵文化財包蔵地に含まれているかどうかは、教育委員会が親切に教えてくれるのが通常である。このような問い合わせは、不動産会社などが年中行っているため、教育委員会の方も対応を簡便化している。ほとんどの教育委員会がFAXで地図を送れば回答してくれる仕組みになっている。そのためわざわざ教育委員会まで足を運ばなくても良く、FAXで教えてくれるケースの方が多いだろう。

確認の手続きと試掘調査

基本的には自分の土地が周知の埋蔵文化財包蔵地に含まれていなければ、何も心配する必要は無い。個人住宅であれば、この時点で文化財については関係が無くなる。しかしながら、事業者が開発するような大きな土地であれば、面積によっては周知の埋蔵文化財包蔵地に含まれていなくても文化財調査を行う必要があるケースも存在する。例えば、東京都港区では1000㎡以上の建築計画敷地であれば、周知の埋蔵文化財包蔵地と同等の扱いとなってしまう。

周知の埋蔵文化財包蔵地に含まれている場合、まず行わなければいけないのが試掘調査と言われる試し掘りだ。周知の埋蔵文化財包蔵地は教育委員会の方があくまでもこの辺に遺跡が存在するであろうと予想しているだけの範囲なので、本当に遺跡があるかどうかは分かっていない。そのため、まず試掘調査で本当に遺跡があるかどうかを確かめるのだ。

試掘調査を行った段階で、何も発見されなければ、それで終了となる。試掘調査で文化財が有ると発見された場合には、いわゆる本掘調査と言われる本格的な調査が行われる。この本掘調査とは、埋蔵文化財の保存行為を行う調査に該当する。掘削範囲を土地全体に広げていき、ここに柱があった、あそこには台所があったなどと詳細な記録を残していくのである。本掘調査が終わると、土地所有者には報告書が渡される。

気になる調査の費用負担

ここで問題となるのが調査費用を誰が負担するかということだ。埋蔵文化財の所有権は土地の所有者には帰属しない。学術的には貴重なものかもしれないが、そのようなことにまったく興味のない土地所有者にとってみれば、調査費用を支払うのが馬鹿馬鹿しいと感じてしまうだろう。そのため試掘調査の調査費用については、揉めるケースが多く、各自治体でその取扱いが異なっている。

多いケースとしては、個人の所有地の場合、試掘調査費用は市区町村側が負担し、事業者の所有地の場合、試掘調査費用は事業者が負担するというパターンである。財政難の市区町村であれば個人所有地であっても試掘調査費用は個人持ちというケースもあり、財源が豊かな市区町村では事業者所有地であっても市区町村が試掘調査費用を負担してくれるケースもある。試掘調査の費用負担については自分の所有地の自治体に確認する必要がある。

また本掘費用については、個人であっても事業者であっても、ほとんどの場合、所有者側が負担する。本掘費用については、莫大な費用がかかり、調査期間も数カ月単位で発生する。特にマンション開発などでは大損害となってしまう。そのため通常、マンションディベロッパーが土地を購入する際は、周知の埋蔵文化財包蔵地に該当するかどうかは必ず事前に調べている。しかしながら、上述の港区の例の様に面積要件で試掘調査を必要とする場合は、事前に埋蔵文化財の存在の可能性を調査しようがないため、ディベロッパーが開発リスクを取るしかないのが実情だ。

問題となるのは大きな開発敷地

大きなマンションを建築する場合は、杭を打ったり、地下ピット(配管などのメンテナンス用の空間)を設けたりするため、ほぼ間違いなく遺跡を破壊することになる。そのため試掘調査を行った段階で、文化財があれば、保存行為である本掘調査を実施する。しかしながら、個人住宅の場合、木造2階建てであれば、杭を打つことも、地下ピットを作ることもない。そのため、遺跡の上に30cm程度の盛土を行えば本掘調査をしなくても良いと認めてくれる市区町村もある。

このように個人住宅地は、試掘調査費用は市区町村負担のケースが多いことや、本掘調査も盛土で回避できることもあるため、あまり大きな問題にはならない。市区町村によって対応が異なるため、気になるようであれば、一度、教育委員会に問い合わせてみるのが一番良いだろう。

竹内英二
不動産鑑定士&中小企業診断士 
1974生まれ。大阪大学大学院卒業後、日立製作所に入社。その後、日本土地建物㈱にて不動産鑑定と賃貸事業の開発プロジェクトマネージャーを担当。2015年に借地借家・賃貸事業専門の不動産コンサル会社であるグロープロフィットを設立し代表取締役に就任。