(撮影=ZUU online 編集部)
(撮影=ZUU online 編集部)

2016年7月の参議院議員選挙を控えて、「地方創生」が大きな政策の柱となっている。安倍晋三首相は10月7日に内閣を改造し、第3次安倍改造内閣が発足した。金融庁も「企業価値の向上、経済の持続的成長と地方創生に貢献する金融業の実現」を掲げており、今後地方の活性化においてますます地銀に求められる役割が増えている。

そこで、ZUU online 編集部は、地方銀行の中でも先進的な取り組みを積極的におこなっている千葉興業銀行の経営企画部部長・梅田仁司氏と、経営企画部部長代理兼調査広報室長の弓家健一氏に、最近話題のFinTech(フィンテック)、地方創生、銀行再編などのテーマを中心にインタビューした。同行は、コミュニケーションアプリLINEの導入や動画コンテンツの配信など、アグレッシブな姿勢を見せている。

――まず、千葉県には、地方銀行が3行(千葉興業銀行、千葉銀行、京葉銀行)も存在しており、他県には見られない特徴だと思います。どのようなマーケットなのでしょうか。

おっしゃるとおり、全国的に見ても地元に地方銀行が3行もある都道府県は多くありません。逆にそれだけ競争が激しいということでもあります。これまで、同じ首都圏でも、神奈川県や埼玉県に若干遅れを取っていましたが、状況は好転しています。千葉県はいま首都圏で最も元気な県といって良いかもしれません。

その理由のひとつに、インフラの整備が上げられます。たとえば、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の整備が進んだことにより、東京湾アクアライン・ルートで成田・羽田両空港が繋がり、首都圏全体の連携強化や物流の効率化などが顕著となり始めています。インフラが整備され、人やお金が一気に動き出しました。

――3行の銀行がありながら3行とも右肩上がりの決算という、他行から見たら羨ましいマーケットですよね。当然、他県からの参入やネット銀行などとの競争も起こっていると思いますが、その辺りに関してお聞かせください。

現状ではネット銀行以上に他県の地方銀行の進出が目立ちます。千葉駅前にはスルガ銀行と常陽銀行が進出していますが、最近では群馬銀行の参入も見られました。確かに競争は激しさを増しているようにも感じます。

――そのような状況でも、御行は好決算を見せていますね。御行ならではの強みとは何でしょうか?

一言でいえば「フットワークの軽さ」ですね。たとえば他行に先駆け、動画コンテンツの配信や、コミュニケーションアプリのLINEを使い、若者や日中仕事でご来店できないお客様に向けた情報発信にいち早く取り組んでいます。しかし、このようにフットワークの軽さを武器にできるのは、千葉県のお客様との多年にわたる信頼関係に裏打ちされた「強固な基盤」があるからこそです。基盤があるからこそ、それまで手薄だった分野を育てる力を発揮できるのです。そこが、当行ならではの強みであると自負しております。

――アベノミクス第三の矢「地方創生」は、千葉県に強固な基盤を有する御行にとっても大切なテーマですね。「地方創生」を見据えた取り組みをお聞かせください。

全国的にそうですが、地方の大きな課題として「人口減少」が挙げられます。たとえば、農家を継ぐ若手経営者の皆様に聞くと、お米の消費量が減ってきたり、今まで沿道に並べているだけで十分売れた梨がだんだん売れなくなっているといいます。

本当に家業を継いでもこの先大丈夫なのか?海外展開も検討したい…というお客様も少なくありません。当行は、そんなお客様の悩みを分かち合い、販路をどう拡大するか?といった問題にお客様とともに向き合い、新たな進出支援などにも力を入れています。

――なるほど。

当行の強みということであれば、農業関連はもちろんのこと、医療分野においてアドバンテージがあります。当行は第一地銀ではありますが、戦後の競争相手として認められた銀行です。戦前は一県一行主義でしたが、戦後に1行だとどうしても殿様商売になるので、競争相手を作る目的から生まれたのが「2行目認可」です。千葉県では当行、茨城県は関東銀行、埼玉県は武蔵野銀行、東京都では都銀が誕生しました。

ずいぶん昔の話になりますが、医療関係や学校は、装置産業のためどうしても最初にお金が掛かります。昔はそういうところは、資金が借りられなかったという事情もあり、二行目銀行の一つの役目として、医療関係や学校の取引先が多くなりました。銀行の成り立ちに深く関係しますが、医療関係のお取引が多いのも当行の強みといえるでしょう。

――話は変わりますが、今、金融業界では「フィンテック(金融×IT)」が話題に上がっています。御行としてはどのようにお考えでしょうか?

決済であれ、融資であれ、銀行の新たなのライバルが生まれると認識しております。フィンテックも含めて、他業界からの銀行業務への参入がもの凄く多く、そこは当行にとっても大きな課題ですね。

フィンテックで言えば、銀行のシェアが一番取られるのは決済の分野だと思います。これまで銀行で独占できていた決済が、ITにより安価で利便性の高いサービスに奪われようとしています。銀行が決済を取られてしまうと、決済手数料は置いておいても、預かり残高に影響を及ぼします。銀行で決済するために口座を作っていらっしゃるという方は大勢いらっしゃいます。しかし、銀行から預金がなくなれば、融資の原資というか、銀行のビジネスが成立しません。

当行の強みに、対面の営業スタイルによる中小企業の育成支援があります。しかし、いくら我々が対面を得意と言っても、お客様が店頭に来られる前に他のサービスに取られる可能性は否定できません。そういった意味で顧客を増やす、或いは減らさないというためにも、これからはフィンテックに力を入れなくてはならないと感じています。

顧客へのアプローチに関連しますが、高齢者から30代~40代の比較的若年層への資産移転が増加しています。今までは、当行の強みである対面にて相続に関連したサービスを提供してきましたが、今の若い方は店頭にはほとんど来られることはありません。対面サービスの強みを維持しながらも、若年層へのアプローチはネット上ですべきだし、ネット上でしかできない部分もあります。

――相続マーケットへのアプローチが重要というわけですね。

相続の預金は千葉県内だけでも、この10年間で15兆円動くと言われています。少子高齢化を背景に人口が減少し、預金も減少傾向を辿ることが予想されるなかにあって、相続マーケットはより重要性を増してきます。統計的に見ると、相続を受ける年齢はおよそ50代半ばくらいとされています。

そうなると、相続預金を取り込むには、50代半ばの世代にアプローチする必要がありますが、それを実践するのはなかなか難しい。何かライフイベント的なことがあれば良いのですが…。ライフイベントで考えると、住宅ローンを利用する40代、30代の世代から10年20年先を見据えたお付き合いをさせて頂くことが必要になります。LINEの導入や動画コンテンツの配信も、そうした長期的なお付き合いを見据えたものです。

地方銀行にも業界再編の波が押し寄せています。それを否定するつもりはありませんが、まずは当行の強み、持ち味を活かしつつもお客様とともに「地方創生」に精一杯取り組むことが大切だと考えております。(ZUU online 編集部)